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超妹理論  作者: 揚羽常時
外伝
218/298

『クリスマスキッス』7


 というわけで屋内プールの裏手に向かう僕たち五人。


 僕こと百墨真白。


 華黒。


 ルシール。


 黛。


 酒奉寺昴。


 それで五人だ。


 いやぁ罪な人だね。


 自虐しても事実は変わらないんだけど。


 そしてプール裏に待っていたのは四人の男子生徒。


「…………」


 沈黙以外に反応があるなら聞いてみたい。


 単純な引き算の問題だ。


 僕と華黒とルシールと黛はそれぞれ一通の懸想文をもらった。


 そしてそのどれもが、


「屋内プールの裏手で待ってます」


 とのことだった。


 元より人目のつきにくい場所で屋上と並び告白のスポットとして有名だ。


 で、四人が四人とも男子生徒。


 僕たちが呼び出されたのも四つの封筒。


 四引く四は零。


 つまりプール裏で待っていた四人の男子生徒の内の一人は僕に告白を……、


「…………」


 空を仰ぐ。


 発症しないかな?


 なんとなくそんなことを思う。


「萎えるねぇ」


 これは昴先輩。


 忌憚なき意見だけど空気を読んでください。


 まぁ……美少女にしか食指を動かさない先輩にとっては男なぞ有象無象でしかないのだろうけど。


 できれば僕もその範疇に入りたかった。


 今更だけどね。


「それで?」


 これは華黒。


 ニコニコと猫を被った爽やかスマイルで場の進行を取り仕切る。


「誰から告白してくれるのでしょう?」


 男子生徒たちは、


「あーでもない」


「こーでもない」


 と議論して、まずは、


「真白先輩!」


 と一人が言い出した。


 いきなり僕か。


 僕を先輩と呼ぶということは一年生なのだろう。


「一目惚れです! 付き合ってください!」


 勇気ある選択ではあるけど、僕にとっては地獄の再現だ。


「ごめんなさい」


 あやうく発症しかけているの気力でねじ伏せる。


 視界がチラチラと万色と赤色とを行き来するけど、なんとか発症だけは避けた。


 多分相手に悪意は無いのだろう。


 けど、それでも僕にとって男色はアンタッチャブルだ。


 正直に言って蟻走感さえ引き起こす。


「兄さん」


 華黒がギュッと僕の手を握って熱を送ってきた。


 僕と地獄を共有しただけあって華黒にだけは僕の今の心情が読み取れるはずだ。


 眩暈が華黒の優しさによって融解のちに拡散する。


「どうしても駄目ですか?」


 食い下がる男子生徒に、


「しつこいですよ」


 これは僕ではなく華黒の言。


「真白くんは私の婚約者だからね」


 昴先輩……あなたは黙っていてください。


 ええと、


「ほら。父さんと母さんにはお孫さんの顔を見せたいしさ」


 遠回りに男色を否定する。



「ですか」


 男子生徒……しょんぼり。


 残る三人の男子生徒は華黒とルシールと黛に告白して撃沈した。


「そんなに百墨真白がいいのか?」


 という質問は誰が放ったか。


「ええ」


「………………まぁ」


「ですね」


 遠慮のないかしまし娘であった。


 華黒が僕の右腕に抱きつく。


 ルシールが僕の左腕に抱きつく。


 黛が僕の胸部に抱きつく。


 昴先輩が僕の背中に抱きつく。


「だから諦めて?」


 それがかしまし娘の総意だった。


 モテる男はつらいなぁ……なんて言いはしないんだけど。


 もはや何時刺されても文句の言えない状況だ。


「君たちにこんな可愛らしい美少女たちはやれないね」


 とどめを放ったのは先輩だった。


 らしいっちゃらしいんだけど。


「えーと……」


 それは傷口に辛子を塗る行為だと思うんですがどうでしょう?


「ともあれ……」


 僕は申し訳なさを感じていないのに申し訳なさを言葉にして、


「僕たちのことは諦めて」


 傷口に辛子を塗るのだった。


「さて」


 パチンと指を鳴らす先輩。


「では野暮用も済んだことだし」


 ここで口にしていいセリフではないんだけど……。


「可愛らしい処女たちよ。私の愛ある腕に抱かれようね」


 ちなみに言っておけば僕と華黒は処女ではない。


 気にする先輩でもないだろうけど。


 そして項垂れている一億総玉砕の雰囲気を醸し出していた四人の勇者を無視して僕たちは場を離れる。


 せっかくのクリスマスイブだ。


 好きな人と一緒にいたい心理は……何も彼らだけに限定するものじゃない。


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