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超妹理論  作者: 揚羽常時
外伝
212/298

『クリスマスキッス』1

クリスマスのエピソードです。

クリスマスにでも読んで貰えれば。


「フライングボディハグ!」


 黛の宣言が、聞こえてきた。


「止めなさい!」


 制止する華黒の声が、聞こえてきた。


「………………やめて」


 否定的なルシールの声も、聞こえてきた。


 朝から何事だ?


 ギャーギャー騒ぐ、小鳥たちのさえずり(?)を、鼓膜で受け止めて、僕は起床した。


「現在の日本には独占禁止法というのがありましてですね……」


「兄さんの愛を受けていいのは私だけです」


「………………お兄ちゃんは華黒お姉ちゃんと……私の……」


「お? ルシールも言うようになりましたね」


「………………えへへ」


「いや、黛は褒めていないと思うんですけど」


「………………そなの?」


「成長したなぁと思っているのは事実ですよ?」


「どちらにせよ二人とも出ていきなさい。兄さんを起こすのは私の役目です」


 もう起きてるけどね。


「おはよ。華黒。ルシール。黛」


 くあ、と欠伸。


「ふや」


「………………ふえ」


「ふお」


 ビックリしたように、声を漏らす、かしまし娘。


「………………」


「………………」


「………………」


 しばしの沈黙。


「ほら。黛が騒ぐから兄さんが起きてしまわれたではありませんか。せっかく私が愛情のこもった起こし方をしてさしあげようと思ってましたのに!」


 うん。


 自発的に起きて……良かった。


「………………たまには私にも……真白お兄ちゃんを頂戴」


「むう」


 さすがの華黒も、ルシールを蔑には出来ないらしい。


 ルシールの無害な性格は、華黒の敵意のセンサーをすり抜ける。


 最初の内こそ、警戒していたものの、


「主食は私。朝昼夜は私を食べてください。ルシールは……まぁ三時のおやつですね」


 くらいは言えるようになっている。


「………………たまには黛さんにも……お姉さんを頂戴」


 これは、ルシールの舌っ足らずな言葉を、真似ながらの黛。


「駄目です」


 にべもしゃしゃりもなかった。


「何でですかぁお姉様~」


「黛は他人です」


 人間嫌いの華黒らしい言い草だ。


「先輩後輩ですよ?」


「であれば先輩に従いなさい」


「黛さんとお姉様の仲じゃないですか」


 ぬけぬけと言ってのける。


 こういうところは黛らしい。


 で、僕はと言えば、


「…………やれやれ」


 小声で、鬱屈を漏らす。


 首を振って、眠気を追い出した。


 今日も冷えるなぁ。


 当たり前だけど。


 ベッドから抜け出す。


 どてらを羽織って防寒対策。


 手をこすって摩擦熱。


「兄さん!」


 真っ先に、華黒が抱きついてきた。


 その黒い瞳には、真摯な愛情が浮かんでいる。


「今日が何の日かわかっているでしょう?」


「学校の終業式」


 あえての意地悪。


 ま、わかってはいるんだけどね。


「クリスマスイブです!」


「知ってるよ」


 んなもん、自覚しなくとも、耳に入ってくる。


 ましてクリスマスが近づくごとに、華黒がご機嫌になるなら、尚更だ。


 クリスマスイブ。


 それが今日だ。


 当然、季節は冬。


 暑いのや寒いのは、苦手だ。


 過ぎたるは……とは少し違うけど。


 ともあれ悪戯してみたくなった。


「華黒?」


「何でしょう兄さん?」


「メリークリスマス」


 そして、僕は、華黒の額に、キスをした。


「………………」


「………………」


「………………」


 場が沈黙する。


 それから、


「ふわわっ!」


 僕からの積極性に慣れていない華黒が、真っ赤になり、


「………………ふえ」


 とルシールがルシーり、


「お姉さんズルい!」


 黛が憤った。


「うん」


 可愛い可愛い。


「華黒は可愛いね」


 ギュッと抱きしめる。


「ああ、温かい」


「兄さん……どうしたんですか……?」


「たまには華黒をからかおうかと」


「意地悪です……」


 顔を真っ赤にしてる辺り、本音ではなさそうだけど?


 言っても詮方ないから、言わないけど。


「寒いからホットコーヒー頂戴な?」


「それは……構いませんけど……」


 おずおず……と言う華黒。


「………………うう」


「……うう」


 ルシールと黛は、不満そうだった。


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