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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生編
206/298

『エピローグ。そして、』5


「とりあえず」


 閑話休題。


「あがらせてもらえませんかね?」


「……どうぞ」


 女性は、僕たちを、誘導した。


 ダイニングに通された僕たちは、アイスティーでもてなされた。


 華黒の淹れたやつが、うん倍美味い。


 言ってもしょうがないけどね。


「それで?」


 これは女性。


 黛薫子の母親。


「何の用?」


「…………」


 わかってるくせに。


 言葉にはせず、皮肉る。


「薫子はどうしているんですか?」


 これは黛。


「楓ちゃん……」


 表情を、悲哀に歪ませる……女性。


「知らないの?」


「何を知らないのかを知らないのか知りえないとその質問には答えられませんよ?」


 通常営業な黛だった。


「…………」


 女性は、僕に視線をやる。


 棘のような視線だ。


「勘弁」


 僕は、両手を上げる。


 降参の意思表示だ。


「それを知らせるために、ここに来たんですから」


 欺瞞を口にする。


 それは真実でもあったが。


「楓ちゃんは薫子と仲が良かったものね……」


 女性は言う。


「今更ですけどね」


 黛が皮肉る。


「で?」


 これも黛。


「どこで薫子はのうのうとしてるんですか?」


「会いたい?」


 女性の言に、


「無論」


 黛は頷く。


 当然だろう。


 それこそが、黛の傷なのだから。


「じゃあ、ついてきて」


 女性は、席を立つ。


 僕とかしまし娘も、それに続く。


 唯一、黛薫子の事情を知っている僕だけが、飄々としていた。


 そして女性は、僕たちを、一つの間に案内した。


 そこには、仏壇が飾ってあり、遺影が供えてあった。


 遺影は、僕が目を通した……白坂家の資料と同じ写真が使われてあった。


 即ち、


「薫子……」


 黛の言で、正解だ。


 黛薫子の遺影が、仏壇に供えられていたのだ。


 それはつまり、


「薫子は……」


 もういない。


 他に言い様もない。


「ごめんなさい」


 薫子の母親が謝る。


「薫子は……三年前に死んでいるの」


「……っ!」


 絶句する黛。


 それはそうだろう。


 自身を裏切ったと思っていた親友が、既に死んでいるなぞ、想像の埒外だ。


「薫子が……」


 ひたすら打ちのめされた後、


「なんでソレを黙っていたんです!」


 黛は、そう反撃した。


 対する女性の答えは、こうだった。


「楓ちゃんの中の薫子には……生きていてほしかったから」


「……っ!」


 言葉を見つけられない黛だった。


「薫子は交通事故で死んでいたんだ」


 僕が真実を告げた。


「で……」


 肩をすくめる。


「それを黛に伝えたくない薫子の両親は薫子に代わって文通を送ったわけだな」




 ――――『もうこれっきりにしよう』




 そう言う文面を。


「じゃあ薫子は……!」


「うん。黛を裏切ったわけじゃない。既に死んでいたんだ」


『楓ちゃんの中の薫子には……生きていてほしかったから』


 薫子の母親は、そう言った。


 そして、それが全てだった。


 遺影に映った、薫子とやらの顔は、さっぱりとしていた。


 変えようもない現実。


「じゃあ……薫子は……黛さんを……裏切ったわけじゃ……!」


「うん。なかったね」


 黛の独白に、僕は頷くことで答えた。


 火葬されて、取り返しのつかない供養をされて、今は既に墓の下。


 それが薫子の運命だ。


「ふえ……」


 黛の瞳に涙が溜まり、それが流れ出すのに、大した時間はいらなかった。


「えええ……えええええ……!」


 黛は泣きに泣いた。


 絶望の涙。


 それを止められる者はここにはいなかった。


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