『エピローグ。そして、』4
で、文化祭より数えて、約三週間後の日曜日。
日が落ちるのも、加速していく時期だけど、暑さは相変わらずだ。
そろそろ衣替えの季節だろうけど、こうなると、違和感を覚えないでもない。
で、文化祭より数えて、三週間後の日曜日に、僕がどうなっているかというと、車上の人となっているのだった。
ただし車ではなく電車。
それも新幹線。
御供は、華黒とルシールと黛。
本来なら僕と黛だけでいいのだけど、そんなことを許す華黒やルシールではない。
結果、いつものメンバーで、日帰り旅行と相成った。
某県某市の駅につき、僕は、
「うーん」
と、背伸びをする。
座りっぱなしと云うのも、これで中々堪える。
ちなみに、親同伴ではなく遠出するのは、ブルジョアジーな体験を除けば、これが初めてだ。
都会と田舎の……折衷みたいな都市だった。
「ええと……」
僕は、地図を見ながら、歩き出す。
「結局……」
と、これは黛。
「何がしたいんですか?」
当然の疑問だろう。
だけど、種明かしには、まだ早い。
「ひ・み・つ♪」
僕は、軽快に言った。
「なんでもいいですけどね」
諦めたような声質だった。
ネタバレは、本質に出会ってからが、望ましい。
そんなわけで、僕が先行して、かしまし娘が、ぞろぞろとついていく、と云う構図になった。
衆人環視が、ジロジロと見るのは、規定事項。
そんなこんなで、僕たちは、目的の場所についた。
ドミノ式住宅街の一角。
その一軒家。
表札を見れば、
「黛」
と表されていた。
「……まさか……!」
と、これは黛。
僕の意図を、察したらしい。
「?」
「?」
華黒とルシールには、わからないことだろう。
二人して、首を捻っていた。
だから、ついてこなくていいって言ったのに……。
「お姉さんは黛さんに復讐の機会を与えたのですか……っ」
「そうしたいならそうすればいいさ」
むしろ、ぶっきらぼうに、僕は言った。
そして、黛じゃない黛さん家の、インターフォンを押す。
ピンポーンと一つ。
「あーい」
と幼い声が、聞こえてきた。
黛さん家の玄関が、開けられる。
出て来たのは、幼女だった。
幼い。
だがしかし黛薫子の遺伝子が、見て取れた。
この子が成長すれば、第二の黛薫子になる。
そんな風に思える幼女だ。
そして、それを黛も把握したのだろう。
「……っ」
絶句していた。
「お客……さん……?」
出迎えてくれた幼女は、怯えたように、そう言った。
この時点で、事情に精通しているのは、僕と幼女だけだ。
「可愛いね」
僕は、クシャクシャと、幼女の髪を撫ぜた。
「お父さんかお母さんを呼んでくれる?」
幼女に、そんな提案。
唯々諾々と、幼女は玄関を閉めて、パタパタと……おそらく親を呼びにいったのだろう……来た道を引き返していった。
玄関口に取り残された……僕とかしまし娘の中で、
「薫子じゃなく両親なんですか?」
黛が、真っ先に、疑問を呈した。
もっともである。
だが、同時に、愚問でもある。
そして、
「はいはいはーい」
と、明朗な声が、聞こえてきた。
女性の声だ。
お客さんを迎えるための言である。
「どちら様でしょうか?」
そう言って、一度閉じられた玄関が、開けられる。
「どうも」
僕は言う。
「ぶしつけに申し訳ありません。ちょいと事情がありまして……」
僕が、間をもたそうと言うのを遮って、
「……おばさん?」
黛が、ポツリと、零した。
その声に、女性は過敏に反応した。
「楓……ちゃん……?」
カエデ。
黛楓。
それが黛のフルネームだ。
そして、それを黛薫子の肉親は、十二分に知っているのだった。
「何故ここに!」
「ああ、すいません」
衝撃の出会いはスルーして、僕が頭を下げる。
「ここまで黛楓を連れてきたのは、偏に僕によるものです」
「なんでそんなことしたの!」
薫子さんのお母さんの意見は、ごもっとも。
しかし、こちらも引くに引けない。
「事実を事実として受け入れさせるために」
他に言い様は無かった。