『エピローグ。そして、』3
さて……どうしよう?
そればかりを、最近は、考える。
正確には白花ちゃん……というか白坂家に裏付けを頼んで、その資料に目を通してから今まで……である。
「関係ない」
と言えば、ひたすらその通りなのだけど、喉に引っかかった小骨のように、その情報は僕を苦悩させうるのだった。
「なんだかなぁ」
思わず呟いてしまう。
「何か憂うことでも?」
即座に華黒が拾う。
ぬあ、ぬかった。
「まぁ色々あってね」
「その色々について問うているのですが」
「華黒が心配することじゃない」
「私が悩んでいるときに、兄さんは同じ言葉を吐かれたらどうします?」
「むぅ」
分が悪い。
愛の勝利では、あるが。
さて、どうしたものか。
白花ちゃん同様に、華黒についても、真実を語るわけにはいかない。
何度も言うが、血を見ることになる。
「あー……」
カモ蕎麦をすすり、咀嚼、嚥下。
ちなみに今は平日……学校の昼休み。
場所は学食。
衆人環視の視線は痛いけど、それについては今更だ。
「例えば華黒は……」
「ふむふむ」
「人生を賭けるに足る想いは、あると思う?」
「愚問です」
ですよねー。
聞いたことさえ馬鹿らしいし、華黒にしてみれば、問われることこそ馬鹿らしいだろう。
「その想いの対象が、手の届かぬところへ行ったら?」
「死にます」
これまた即答。
「華黒? わかっていると思うけど……」
「はい。兄さんが死んだら私も死にます」
「…………」
何もわかっちゃいなかった。
と、ふいに、
「相席よろしいですか?」
そんな声がかかる。
「どうぞ」
と即答。
それから、声の主を、見やる。
「ルシール……黛……」
後輩二人が、料理を御盆に載せて、際に立っていた。
「………………あう」
「それでは失礼」
ルシールを拒絶して、黛を下して、――それから僕を避けるようになった二人が、寄ってきたのだ。
驚くな、という方が無茶だろう。
「僕を避けるのは止めてくれたの?」
皮肉気に問うと、
「………………あう」
ルシールは言葉に詰まり、
「お隣さん同士、気を使うのも、いい加減馬鹿らしくなりまして」
黛は、飄々と語る。
どうやら乗り越えたらしい。
ルシールもそうだし、黛もそうだ。
衆人環視の視線も、いっそう険しくなったけど、それについては以下略。
「先日は失礼しました」
黛が言う。
「別に気にしてないよ」
僕は何気なく。
「何の話です?」
華黒が、疑問を持つ。
「実は――」
僕は一部嘘をついた。
――黛が僕とルシールを取り持とうと拷問した――
――ではなく「口論した」と云う風に。
「ふうん?」
と華黒。
焼き鯖を、ほぐしながら。
「………………黛ちゃん……そんなことを」
ルシールも、初耳だったらしい。
いっそう、事実を告げるのが、心苦しくなった。
「お姉さんは、それでいいんですか?」
「無論」
むしろ、何がいけないのか?
それこそ疑問だ。
「ルシールは気持ちに決着つけたの?」
水を向けると、ルシールは狼狽えて、それから言った。
「………………諦めましたよ」
「どう諦めた?」
「………………諦めきれぬと諦めた」
でっか。
勝手に思い煩う分には、好きにしていい、と僕は思う。
だから返答は、何気なかった。
「黛はそれでいいの?」
「いけませんが黛さんが詰め寄っても無益でしょう」
状況は、十二分に、把握しているらしい。
なら頃合いか。
「黛……今度の日曜日に連れて行きたいところがあるんだけど」
「デートですか?」
「華黒、瞳孔が開いてるよ。ルシール、落ち着いて。心配なら同伴しても構わないからさ」
やはし、こうなるか。
僕は早速釘を刺す。
華黒の警戒と、ルシールの安堵に、なんとなく許可を覚える。
なんだかなぁ。




