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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生編
203/298

『エピローグ。そして、』2


 ベロチュ~。


 そして爽やかなミントの香り。


 僕は覚醒した。


 咳き込みながら。


「………………おはよう華黒」


「おはようございます兄さん」


 屈託なく笑う、華黒だった。


 ディープキスも、ミントの錠剤の口移しも、


「なんとも思っていない」


 そういう態度だ。


「もうちょっと穏便な起こし方は無いの?」


「兄さんが起きないのが悪いんじゃありませんか」


「そうだけどさ」


 反論できなかった。


 駄目だなぁ僕。


「なら素直に起きろ」


 と言われれば、それまでだけど、朝の微睡は黄金に勝る。


 これは常世界法則だ。


 真理である。


「ルシールと黛は?」


「今日も来ていませんよ」


 さいでっか。


 ここ二週間は、顔をあわせない日々が、続いていた。


 おかげで華黒は、ご機嫌だ。


 ライバルがいない、と云うのは、華黒の心理に多幸感をもたらす。


 僕を独占できるのが、素直に嬉しいのだろう。


 こういうところは可愛いと思える。


 口にはしないけど。


「くあ……」


 と欠伸。


 そして質問。


「今日の朝御飯は?」


「白米と納豆と雌株と松茸のお吸い物です」


「よかれよかれ」


 僕は頷く。


 そして華黒に手を引かれて、ダイニングへと顔を出す。


 朝食が揃っていた。


 僕は、口内のミントの香りを、コーヒーで追い出して、それから朝食に手をつけた。


「いただきます」


 と一拍し、もふもふと食べる。


「どうですか?」


「美味しいよ」


 いつものやりとり。


「なんだか一年生の頃に戻ったみたいだね」


「あの頃から相思相愛でしたしね」


「…………」


 否定はしない。


 というか出来ない。


「なんだかなぁ」


 というのが本音だ。


 去年のことは、あまり思い出したくない。


 楽しい記憶じゃないからだ。


 いつか郷愁を誘うような思い出になるかもしれないけど……そこまで風化するには今はまだ時間が短すぎる。


 というわけで、


「今が大事」


 が僕のモットーだ。


 さて、


「ご馳走様でした」


 一拍。


 犠牲への感謝を。


 それから僕と華黒は、制服を纏って、身支度を整える。


 全てを終えて……とは言っても華黒の身支度が八割を占めるのだけど……僕と華黒は玄関から外に出た。


 そこで、


「おや……」


「これは……」


 僕と華黒は、声を漏らした。


 ちょうどルシールと黛も、外に出てくるところだったからだ。


 鉢合わせ。


 次の瞬間、バタン、と、隣の部屋の玄関の扉が、閉じられた。


 ルシールと黛は、


「百墨真白の顔を見たくない」


 という共通見解を持っている。


 つまり逃走だね。


「しょうがないよね」


 ガシガシと後頭部を掻く。


「に・い・さ・ん?」


「何?」


「今日も二人きりですね」


「ソウデスネー」


 華黒は、僕の右腕に、抱きついてきた。


 そのまま仲睦まじく、登校する。


 妬み嫉みの視線は、慣れたものだ。


 今更、華黒をはべらせて、穏当に済むなぞ思ってもいない。


 華黒は、恋文をもらったり、告白されたりすることも、多々あったけど、その全き全てを、けんもほろろにするのだった。


 もちろん僕も巻き込んで。


 相も変わらず、僕は瀬野二の嫌われ者だ。


 いいんだけどさ別に。


 全ての人間に好かれようなんざ望んでいない。


 わかる人間だけがわかればいい。


「ご愁傷様だな」


 教室に入ると、統夜が苦笑してきた。


「まぁ……贅沢な悩みだよ」


 僕も苦笑で返す。


「何かあったか?」


「色々ね」


 少なくとも、仔細を話すほど、野暮じゃないつもりだ。


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