『黒の歪み』4
目を覚ました。
辺りを見渡す。
狭い空間だった。
石を積んで出来た個室。
そう呼ぶのが妥当だろう。
湿気が充満して、残暑の厳しい季節だというのに、冷ややかな水分の支配する空間だった。
まるで、
「地下牢か何かだね」
決して的外れでもない、僕の言葉だ。
で、僕自身は、その地下牢でどうなっているかというと、
「趣味の悪いことで……」
手錠で両手両足を拘束されて、身動き一つできない状況だった。
芋虫みたいにクネクネと動いて移動する可能性は……首についている首輪と鎖に固定されて、出来そうもない。
真っ先に出てきたイメージは、
「拉致監禁か……」
妥当なソレだった。
ちなみに記憶がとんでいる。
たしか僕は黛と一緒に、ファミレスにいたはずだ。
そしてルシールについて、アレコレと議論し合い……、
「……えーと」
それからどうしたんだっけ?
思い出せない。
気づけば、この状況だ。
「起きましたかお姉さん」
そんな声がかかった。
存分に聞き覚えのある声だ。
黛。
他にいない。
「ああ、知り合いがいて良かった。ちょっとこの手錠と首輪外してくれない?」
「断ります」
「何で?」
「捕まえた獲物をなんで解放しなきゃならないって話ですから」
「…………」
ということは、
「この状況は君がつくったの?」
「忌憚なく言えば」
コクリ、と、頷く黛だった。
「で?」
僕は拉致監禁の首謀者たる黛に問うた。
「ここは何処?」
「酒奉寺姉さんの屋敷の地下牢です」
「昴先輩の……」
ついつい納得してしまう。
ん?
「ということは酒奉寺家が、これには関わっているってこと?」
「まぁ手伝いくらいはしてもらいました」
「何で僕はこんな状況になってるの?」
「簡単ですよ。ドリンクバーに催眠薬を溶かしてお姉さんの意識を奪い、酒奉寺姉さんの使用人にお姉さんを運んでもらい、拘束して地下牢に監禁。ただそれだけのことです」
「なるほどね」
あのメロンソーダか……。
納得がいった。
前提については。
「で?」
「とは?」
「こんなところに僕を拉致監禁して何をしようっていうの?」
「まぁ率直に言えば懇願を」
「脅迫じゃなくて?」
「別にそう捉えてもらっても間違いじゃありませんが……」
「何だかなぁ……」
苦笑する僕だった。
「ちなみに僕はどれくらい気を失っていたの?」
「三時間ってところですね」
十分範囲内……か。
「ちなみにここは通信も効きませんから」
助けを求めるだけ無駄ってか。
「昴先輩の意見は?」
「面白そうでしたよ?」
「…………」
あの人らしい。
「風呂やトイレはどうすればいいのさ?」
「大丈夫です。自己申告していただければ使用人が処理しますから」
それの何が、
「大丈夫」
になるのかわかんないけど……、
「さいですか」
他に答えようもなかった。
「二人きりですね」
黛は淡々と言った。
「二人きりだね」
僕も淡々と言った。
「さて……」
といって、鉄格子の扉を開けて、僕の監禁されている地下牢に、入ってくる黛。
「で?」
「とは?」
「僕を凌辱でもするの?」
「まさか」
黛は苦笑した。
「黛さん自身はお姉さんに興味はありませんよ」
「にしては手枷足枷首輪の拉致監禁状態だけど」
「まぁ色々ありまして」
色々……ね……。