『黒の歪み』2
ちなみに文化祭は、日曜日に行なわれる。
そうでもなければ、父兄が参加できないからだ。
で、それがそうである以上……日曜日は登校と云う形になり、月曜日は振替休日ということになるのだった。
僕と華黒は昨夜の風呂の中で……もちろんのこと健全な意味で……愛を確かめ合った後であるから一緒のベッドで寝た。
「昼まで起こすな」
そう華黒には厳命していた。
したはずなのだけど……、
「…………」
僕は、朝からコーヒーをすすっていた。
「はい兄さん! ベーグルサンドです!」
華黒は、絶好調だった。
昨日のやり取りが、響いているのだろう。
まぁ華黒がこんなに喜んでくれるのなら、たまには調子のいい言葉を吐くのも悪くはない……のかな?
なんとな~く致命的な状況に向かっている気がするのは……さてさて。
愛って何だろね?
形而上学的なことを考えながら、寝ぼけ頭で、状況を整理する。
僕は、コーヒーを飲んでいる。
華黒は、ダイニングテーブルの僕の隣の席に座って、ベーグルサンドを、さも嬉しそうに楽しそうに頬張っている。
それから、
「…………」
ジト目の黛が、僕の対面に座り、僕を睨み付けていた。
何だかな。
僕、何か悪いことした?
黛は、僕を睨むか、コーヒーを飲むか、のどちらかでしかありえなかった。
「…………」
無言で、モシャモシャ、と、ベーグルサンドを齧る。
さすが華黒の手作り。
丁寧に作られていた。
「美味しいですか! 兄さん!」
「美味しいよ」
「ありがとうございます!」
華黒絶好調。
感嘆符無しで喋れんのかチミは?
「なんだかお姉様ご機嫌じゃないですか?」
不機嫌そうに言う黛に、
「まぁ色々あって」
僕は誤魔化す。
コーヒーを一口。
まさか、ルシールをダシに、華黒との愛情を強化したことを、わざわざルシールの親友であるところの黛に話すことでもないだろう。
モシャモシャ。
ベーグルを食べる。
チーズが薫り高く、レタスがシャキシャキ、パンはふんわりとして火の味がする。
全てを呑みこんで、
「で?」
と僕は、本質を切り出す。
「何か用?」
「…………」
ジト目で、にらむ黛。
黙られると、恐いんですけど。
「はぁ……」
と嘆息する黛だった。
「お姉さん?」
「何々?」
「黛さんとデートしてください」
「いつ?」
「今日」
「フシャーッ!」
最後の威嚇は、華黒ね。
まぁ黛まで僕に手を出そうとしていることに、納得がいかないのだろう。
少なくとも華黒は、黛に、心を許してはいない。
猫を被って対応しているだけだ。
化けの皮は、すぐに剥がれるのだった。
道理である。
「ふむ」
僕はコーヒーを一口。
カフェインによって、目を覚ましはじめる。
「で?」
問う。
「なんでデート?」
「男女が互いに理解し合うならそれはデートでしょう?」
「…………」
まぁね。
そりゃね。
「でもこれは僕の偏見だけど、黛と理解しあえて、その先に何があるのさ?」
遠回しな拒絶。
それをわからない黛では……あるまい。
しかして、
「少なくとも黛さんにとっては利益があります」
「どういった?」
「まだ秘密です」
つっけんどんに言って、黛はコーヒーを飲む。
「で? デートしてくれるんですか? それとも断りますか?」
「僕はいいけど華黒がね」
「フシャーッ! グルルル!」
「というわけだから」
「黛さんはお姉さんの答えを聞いているんです。他者は不要でしょう?」
「何か僕に言いたいことがあるの?」
「然りです」
「それならば付き合ってあげるよ。ただしデートは人情的に出来ない。あくまで付き添いという形でどうかな?」
「それでお姉様が納得するならば」
「…………」
警戒しながらも、威嚇をやめる華黒だった。
つまり、
「認証した」
ということだろう。




