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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生編
196/298

『黒の歪み』1


 文化祭はつつがなく終わり、生徒たちも家に帰す。


「うちあげだ」


 と、称して、飲酒し停学になる生徒が出てくるに一票。


 ともあれ、僕と華黒は、帰るなり、一緒にお風呂に入っていた。


 華黒やルシールを連れ、午後いっぱいをかけて食べ歩いたのだ。


 夕食の必要は無かったし、なら余計な手間を華黒に取らせなくてもよい。


 それより問題があった。


「え? じゃあルシールをふったんですか?」


「愛人契約の撥ねつけに『ふる』って単語が適用されるならね」


 僕と華黒は、重なるように、湯船に浸かっていた。


 僕が下で、華黒が上。


 僕の胸板に、華黒が背中を預ける格好だ。


 水着姿ですら、華黒は神々しい。


 そういう意味では、後頭部しか見えないのは、僕にとっても良好かもしれない。


 もう一人の僕が、水着越しとはいえ……華黒のお尻に当たっているのが、問題と言えば問題だけど……それについては、最小限の被害と云うことで納得。


「何故です?」


「何故って言われてもね……」


 言葉に窮する僕。


「ルシールに限って言うならば二号さんくらい問題ありませんよ? ルシールの心は澄み切っている。アレは天性のモノでしょうね。兄さんに次いで恐くない他者というのは私にとっても異例のケースです」


「…………」


 それについては、同意する。


 おどおどして他者を恐がるのは、華黒とルシールの共通項だ。


 二人の態度に違いがあるとすれば、


「決意があるかどうか」


 だろう。


 それは、


「猫を被れるかどうか」


 と言い換えてもいい。


 華黒には、その決意がある。


 僕が手首を深く切った時、華黒は自身に決意を求めた。


「今度は私が兄さんを守るために強くなる」


 と。


「もう兄さんが私のために犠牲にならなくて済むような人間になる」


 と。


 元が優秀な素体だ。


 その決意さえあれば、優秀な人間になるのも、必然だった。


 華黒にとって、僕は王子様で、僕以外は十把一絡げだ。


 そして愛されたいと想い、その愛に応えられるだけの人間へと相成った。


 若干未熟な部分があるけど、それはお互い様だ。


 だから僕は壊れてしまって、そして華黒は玄冬巌を殺したのだ。


 歪み。


 一生の呪であり、一生の絆だ。


「かくあらねばならない」


 そんな縛りを受けて、僕と華黒は生きている。


 閑話休題。


「ルシール、可愛いじゃないですか。私が嫉妬するくらい……」


「華黒も可愛いよ」


 僕は、華黒の髪を撫ぜる。


 水に濡れても艶やかな髪は、神に愛されている証拠だ。


「誤魔化さないでください」


「おや、通じないとは珍しい」


 僕に可愛いと言われれば、忘我の境地になるのが華黒だろうに。


「兄さんは何故そんなルシールの申し出を撥ねつけたのです?」


「僕には華黒がいるから」


 キッパリと断言してやる。


「…………」


「僕も華黒と同じく愛情定量論者だ。他者に割ける愛情には限度があると思う。その全てのコストパフォーマンスを華黒に捧げると決めた」


「…………」


「僕は確かに言ったよね? 華黒に世界を見せてあげるって。華黒が世界を恐がるならば僕が隣にいて背中を支えてあげるって。もしそれで世界が広がらなかったら、その時は華黒の隣で死んであげるって。そうやって二人で生きていこうって。結婚……しようって」


「……っ!」


 気づけば、華黒の肩が震えていた。


「どしたの?」


「兄さん……」


「何さ?」


「本気ですか?」


「あのね……答える余地もない質問だよソレは」


「ですか」


 華黒の肩が震えているわけに……要約、気付く僕。


「華黒……泣いてるの?」


「当然です」


 当然なんだ……。


「何か僕に不備があった?」


「ある意味では」


 そりゃ、すまんこってす。


「どうやったら泣き止んでくれる?」


「私を絶望させてくれれば……あるいは」


「そんなこと出来ないのは知ってるでしょ」


 何を言うんだ、この妹は。


「泣いてる相手を絶望させられるわけもないじゃないか」


「だってこれは嬉し涙ですから……」


 あ、なるほど。


「でも無理だね」


 僕は優しくそう言って、僕に背中を預けている華黒を、抱きしめる。


「僕は華黒のことが大好きだから」


「私も……」


 華黒の声は、かすれていた。


「私も兄さんのことが好きです」


「ん。よろしい。ならルシールの介在する余地なんてないでしょ?」


「はい。はい」


 コクコク、と、頷く華黒。


「愛しています兄さん」


「僕もだよ」


「今夜こそ抱いてくれますね?」


「却下」


 台無しだよこの野郎。


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