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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生編
195/298

『そして文化祭』6


 屋上は風が強かった。


 夏の残暑は残っているものの相殺できるほどには。


「うん。いい眺め」


 屋上から見る俯瞰は校庭を捉えており、人がゴミのようだった。


「………………ごめんなさい」


「何が?」


「………………最後に……こんなつまらないところを選んで」


「気にしてないよ」


 苦笑してしまう。


 こういう謙虚さはルシールならではだ。


 朗らかな気持ちになるね。


 何せ僕の周りには我の強い人間ばかりだから。


 例外があるとすれば統夜くらいだろう。


 アレはアレでちょっと人と違うけど。


「で?」


「………………あう」


 ルシーるルシール。


「僕に何か用があるんでしょ?」


「………………はい」


 真っ赤になるルシール。


 わかっていたけどわからないふりをするのが懸命だろう。


 少なくともルシールにとって。


 ともあれルシールは懐から一通の封筒を取り出した。


「………………これ……なんだけど」


 差し出すルシールに受け取る僕。


 封筒には「薫子より」……と書かれていた。


「薫子さんからの手紙……ルシールが届け役?」


「………………違うの」


「じゃあ何さ?」


「………………私が……薫子」


 ルシールはそう告げた。


 ふむ……。


「………………今までの手紙は……全て私の手によるもの」


「つまり架空の人間を演じて僕に愛を綴っていたってこと?」


「………………うん」


 首肯された。


「薫子さんの手紙はベタ惚れっていうか極度の慕情に溢れていたけど……それはつまりルシールの僕に対する正直な気持ちってことでいいのかな?」


「………………うん」


 首肯された。


 何だかなぁ。


「ルシールは僕と華黒が相思相愛だって知ってるでしょ?」


「………………だから……面と向かって言えなかった」


 道理だ。


「で、この手紙を読めばいいの?」


「………………うん」


 ハートのシールをはがして封筒から手紙を取り出す。


 書かれていたのは案の定だった。


「………………私を二号さんにしてください」


 僕が簡素に書かれた手紙に目を通すのと同時に、文面と同じ言をルシールが紡いだ。




『二号さんにしてください』




 それはつまり僕と華黒の仲を認めたうえで自身にも愛を注いでほしいと……そんな手前勝手な意見だった。


「ルシールは僕のどこにそんな価値を見出すの?」


「………………格好良くて……優しいところ」


「…………」


 五十点ってところだろう。


 無論百点満点で。


 ルシール自体にはわかるはずもないだろうけど……本来の僕はそんな高尚な存在では……まったくない。


「そっか」


「………………駄目……かな?」


 不安の瞳で僕を見るルシール。


「ごめんね」


 それが僕の答えだった。


「僕には華黒がいるから……ルシールに割く愛情は無い」


 どこまでも残酷に言を紡ぐ。


「………………っ……そう」


 クシャリと、ルシールの表情が悲哀に歪む。


「………………うう……うえ……」


 ポロポロと真珠のような涙を零し泣き出すルシール。


 悪者だね……僕は……。


「………………うう……ううう……ううううう」


 涙の止まらないルシールが愛おしくて僕は抱きしめた。


「………………うえええええええええええええ」


 僕の腕の中で泣くルシール。


 とても残酷な百墨真白。


 しかし真白には華黒しかいないんだ。


 それはもう信念……僕こと百墨真白に課された魂の形だ。


 そういう風に創られた。


 そういう風に出来ている。


 そうでなければ……僕と華黒は生きている意味が無い。


 だからルシールの勇気と慕情をむげにする。


「ごめん……ね」


 ギュッと泣き止まらないルシールを抱きしめる。


 罪深いことだと自分でも思う。


 こんなに綺麗な子が僕を慕ってくれている。


 それを無かったことにしているのだ。


 本来ならあり得ないだろう。


 でも、


「ルシールを都合のいい女の子にするわけにはいかないんだ」


 それが僕の本心だった。


「………………うええええええええええええええ!」


 ルシールが泣く。


 僕が抱きしめる。


 ウェストミンスターチャイムが鳴る。


 それは終わりの鐘の音。


 僕とルシールの関係の。


 そして文化祭の。


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