表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生編
194/298

『そして文化祭』5


「百墨真白さん。あなたは人に優しく出来る分、自得さえ他人に譲ってしまうところがあります。それは時に優しさとは違う感情と捉えられる場合があり、あなたにとっての長所とも短所ともなります。まず自分と他人を意識するところから始めた方がいいでしょう。今年の運勢は難あり。努力すべきを怠らないことです」


「はあ」


 ぽやっと僕は首肯した。


「………………お兄ちゃんらしいね」


 クスリとルシールは笑う。


 そうかなぁ?


 とても、


「はいそうですか」


 にはならないんだけど。


 いったい誰のことを言ってるのかわからない。


 僕はそんな高尚な存在じゃないのだ。


 占いに文句を言っても始まるまいが。


「それから百墨ルシールさん。あなたは自己中心的な優しさが純粋な優しさと他人に取られ誤解されることが多いです。あなたが憂うほど他人はあなたを意識していません。そのあたりの意識改革が必要かと。今年の運勢は災いあり。精神的自衛手段を準備しておいて損はありません」


「………………あう」


 凹むルシール。


 言ってることはわからんじゃないけどルシールとしては納得したくない評価だろう。


「まぁ占いだから」


 僕はルシールの金髪を優しく撫ぜる。


「………………やっぱり私……自己中心的なんですね」


 だーかーらー……占いだって。


「………………いいんです……わかっていた……ことですから」


「当たってるの?」


「………………全部が全部じゃ……ありませんが」


 碧眼に憂いを乗せてルシール。


「最後に」


 これは占い師。


「お二人の相性ですが……」


「…………」


 僕は飄々と、


「………………っ」


 ルシールはゴクリと唾を飲んで、耳を傾けた。


「良好です。少なくとも苦楽を共にできる関係になれるでしょう。時に優しさが互いを傷つけあうかもしれませんが……それが良き関係の根底にあるのも否定できません。結論として平和的な相性の双方と言えます」


「へえ」


 無感動な僕に、


「………………ふわ」


 ルシーるルシール。


 まぁね。


 そりゃね。


 ルシールの思っていることを推察するのは簡単だけどさ……。


 ちなみに何をやっているかと言うと先述したように占いである。


「占いの館」


 と看板を掲げた一年生の教室があったので冷やかし半分で入ってみたのだ。


 入った瞬間誘導されてこうやって占いの訓示を受ける羽目になった。


 名前と年齢と血液型と星座を入力して結果を出力する占いソフトを使っているらしく、黒いマントに黒いツバあり三角帽の魔女っ娘スタイルの占い師……女子生徒の隣にはノートパソコンが置いてあった。


 有難味もへったくれもない。


 いや学園祭の占いに本格的なものを期待するのがそもそもの間違いなのだけど。


「………………平和的……良好」


 ルシールはさっきから忘我の境地だ。


 僕との相性が良いと言われたのがよほど嬉しかったのだろう。


 この辺りは、


「乙女だな」


 と思わせる。


 パソコンに打ち込まれて出力された妄言を信じられるだけ幸せな性分なのかもしれない。


 そして僕とルシールは手を繋いで占いの館から出た。


 羨望と嫉妬の視線が刺さる刺さる。


「いいんだけどさ」


「………………何が?」


「何でもないよ」


 ギュッと強くルシールの手を握る。


「………………ふわわ……っ」


 ルシーるルシール。


「次はどこに行く?」


 ちなみに時間は午後の四時半。


 あらかたは行きつくして、デートとしては十分満喫できただろう。


 ちなみにタイムリミットまであと三十分。


 午後五時で瀬野第二高等学校文化祭は終了だ。


 少なくとも表向きは。


 夜にはキャンプファイヤーが燃え盛ってフォークダンスをするんだけど、それはおそらく華黒が僕を独占するだろう。


 招かれた父兄や客のように部外者にとっては五時で文化祭は終わりだ。


 そして僕とルシールのデートも。


 結局ルシールの意図は何だったのだろう?


 ルシールが勇気を出して僕を誘ったところで僕は違和感を覚えた。


 何かあるかなと思わないでもなかった。


 しかしてその兆候見当たらず。


 色々なところに行きつくして、ついには僕のクラスのまったく薬にも毒にもならない展示会まで見る始末だ。


「このまま終わるのかな?」


 そんなことを思いつつ、校舎にある自販機でブラックのコーヒーを飲む僕。


「………………真白お兄ちゃん」


「何?」


「………………あのね」


「うん」


「………………あの……あのね……あの……」


「大丈夫。ちゃんと聞いてるから慌てず紡いで」


「………………屋上に……行かない?」


「……ふむ。まぁ別にいいけど」


 案の定ルシールの顔は真っ赤になっていた。


 可愛い可愛い。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ