『夏は過ぎ風あざみ』6
「ご馳走様でした」
パンと一拍。
僕は夕食を終えた。
はたして未だ日曜日。
今日の夕食は焼き素麺だった。
梅肉の香り爽やかな……食欲の湧くメニューである。
ちなみに製作者は黛とルシール。
僕と華黒は招待された形になる。
もとより僕こと真白と華黒とルシールと黛はこうやって食事を共にすることが多い。
そのせいで僕の立場は危うくなっているけど閑話休題。
「美味しかったよ」
僕は笑ってそう言った。
「………………本当?」
「嘘でもいいけど」
僕は爪楊枝で歯に挟まった梅肉を取り出す。
「………………あう」
と怯むルシール。
「おねーさーん?」
「悪かったよ」
僕は爪楊枝をくわえたままハンズアップ。
つまり降参。
「嘘でもなんでもなく美味しかったよ」
おべんちゃらを口にした。
「………………お粗末さまでした」
ルシーりながらルシール。
何この可愛い生き物?
しかしてそんなことはおくびにも出さず僕は問う。
「そういえば昼はいなかったみたいだけど文化祭の準備だったって?」
「はいな」
答えたのは黛。
「黛さんのクラスは喫茶店をするので教室の模様替えや衣装作成……茶葉の選定に四苦八苦……といった感じです」
去年の僕たちだね。
苦笑する。
「ところでお姉さん?」
「なぁに?」
「黛さんはアイスを食べたいです」
「さいでっか」
「ルシールを連れてコンビニまで一往復してもらえませんか?」
「別にいいけどさ」
しかして黛の意図がどこにあるかがわからない。
「兄さんが行くなら私も……!」
「お姉様は黛さんとイチャイチャしましょう?」
「私の体は兄さんの物です!」
「そう言わず。たまには酒奉寺姉さんの趣味に浸ってもいいかと」
まぁ華黒と黛の爛れた関係について言及する気力もわかず、
「じゃ、行こっかルシール」
「………………はい」
僕はルシールを連れて夏の夜に出ていった。
アパートから歩くことしばし。
「それで?」
僕は問う。
「………………それで……って?」
「誤魔化さないの」
僕は断じる。
「黛は僕とルシールの二人きりにする口実があったんでしょ?」
「………………あう」
追い詰められてルシーるルシール。
「………………あの……ですね」
「ふんふん」
「………………来週の文化祭……ですけど」
「ふんふん」
「………………私とデートしてくださいませんか?」
なるほどね。
華黒の前じゃ言えないわな……それは。
「別にいいけどね」
楽観論で僕は頷く。
「………………本当?」
「嘘でもいいけどね」
皮肉気になるのはしょうがなかった。
「ま、ルシールは僕の愛人ってことになってるし……学校内でデートしたって不思議には思われないだろうさ」
「………………ありがと」
紅潮しておずおずと言われる。
可愛いなぁもう!
僕は思わずルシールを抱きしめた。
「………………でも……華黒お姉ちゃんが……許すかどうか」
「ああ、気にしなくていいよ。僕がダメっていえば最終的には譲る妹だから」
そも、そうでなければ僕と華黒の関係は有り得ない。
「………………じゃあ真白お兄ちゃんは……私とデートしてくれるの?」
「そう言ってる」
抱きしめて、それからクシャクシャとルシールの金髪を撫ぜる。
体温の共有。
それは最も愛に近い行為。
「………………じゃあ……当日はよろしく」
「うん。ルシールもね」
「………………あう」
ルシーるルシール。
僕はルシールと手を繋いで恋人のように振る舞った。
それからアイスを四人分買ってルシールと黛の城へと戻る。
「兄さん?」
その一言だけで華黒の意図は察しえた。
「何もしてないよ」
僕は弁解する。
「他の女子と仲良くするだけでも裏切りですよ」
「だから華黒は世界をもっと広く定義すべきだと言ってるじゃないか」
「兄さんに近づく者皆敵です!」
「さいでっか」
やれやれ……。




