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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生編
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『いざ避暑』6


 皆で風呂に入った後、それぞれがそれぞれの使用人によって寝床を用意してもらった。


 ビバ金持ち。


 アーンド権力。


 太陽の匂いのする布団に潜り込んで横になる僕だった。


 別荘は大きく……十二人を泊めてなお広い。


「あー……疲れた」


 もちろん風呂でのことである。


 美少女五人とお風呂に入ったのだ。


 これで気疲れしない人間がいるのなら見てみたい。


 部屋はエアコンが効いており風呂で茹った体温を静かに下げてくれる。


 心地よい一瞬。


 ふと窓を見る。


 窓から夜の海が見えた。


 エアコンを止めて窓を開ける。


 ザザーンと波音が響いた。


 夜風が涼しい。


 夏の夜の風が僕の上半身を叩いた。


「…………」


 僕は風を受けた後、


「ちょっと……ね」


 外に出ようと部屋を後にした。


 寝間着姿のままサンダルを履いて別荘を出る。


 夏の夜ではあるけど蒸し暑さはなかった。


 まぁ避暑地だ。


 このくらいは考慮の内だろう。


 海に流れ着いた流木に腰を下ろして月と海とを肌で感じる。


「…………」


 多分昼間や風呂のバカ騒ぎが動なら、これは静の楽しみだろう。


「中々ロマンチックなことをしてますね」


 ふいに。


「…………」


 声がかかった。


「黛……」


 僕はその声だけで人物を言い当てる。


「何か用?」


「いえ、黛さんも涼みに」


「そう」


 他に言葉も見つからず僕は肯定した。


「隣……いいですか?」


「ルシールに譲らなくていいの?」


「はて? 何ででっしゃろ?」


 まぁ君がそれでいいならいいんだけどね。


 黛は隙あらば僕とルシールをセットにしたがる。


 おそらくだけどルシールが僕に惚れていることに気付いているのだろう。


 だけど残念ながら僕には華黒がいる。


 それが楔となっているはずだった。


 そういう意味では海から流れ着いた流木に腰かけている僕こと百墨真白を見つけたならルシールに声をかけるのが必然というものだ。


 だが今回はそれをしなかった。


 何故だろう?


 考えたけど答えは出なかったため思考を放棄した。


「で、何か用?」


「別に用があったわけじゃないんですよ」


 だろうね。


「単に涼みにきたらお姉さんを見つけた次第で」


 だろうね。


「でも黛さん驚きました」


 ん?


「お姉さんは色んな人に愛されてるんですね」


「あー……」


 否定はできない。


 少なくともする資格がない。


「ルシールも……お姉様も……酒奉寺先輩も……白坂さんも……みんなみーんなお姉さんが大好きなんですから」


「…………」


 まぁ否定はしない。


 ふ、と吐息をつく。


 黛が苦笑した。


「お姉さんはいいですよね。憧れます」


「僕としては悩みの種だけどね」


 目下それ以外のモノではない。


「女の子の……生涯を賭けるに足る想いを掌握してるんですから」


「前も聞いたね。その言葉……」


「黛さんは友情としてそれをルシールに見出しているんですよ」


「いいことじゃないか」


「そうでしょうか?」


「何か問題でも?」


「高校はいいですよ。まだ……」


 吐息をつく黛。


「でも同じ大学に? 同じ就職先に? いつも一緒にいて苦楽を共にする関係がこの先一生続くと思いますか?」


「…………」


 まぁ無茶ではあるね。


「でも先輩は学校も年齢も違うのに酒奉寺先輩や白坂さんとも仲良くなっている。その絆を断ち切ろうとしない。率直に言えば……嫉妬してしまいます」


「別々の場所に身を置いたって電話やメールがあるでしょ?」


「でもその内そんな想いも廃れて摩耗していくとは思いませんか?」


「否定はしないけどさ」


「生涯を賭けるに足る想い……それを私は本当にルシールに持っているんでしょうか。ルシールは私に持っているんでしょうか」


「さてね」


 僕の答えはいっそそっけない。


「そこまでして何故ルシールに入れ込むの?」


「親友……だからでしょうか。ルシールには幸せになってほしい」


「十分な友情だよソレは」


「でもまだ足りない」


「何が?」


「ルシールを幸せにするには最後のピースが足りてない」


 それは僕には理解不能な言葉だった。


 そして避暑旅行の時間は過ぎて行く。


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