『夏休み突入』6
市立図書館からの帰り道。
四人組……つまり僕こと真白と華黒とルシールと黛は仲良く集団で帰路についた。
途中スーパーに寄る予定だ。
今日は黛が僕と華黒とルシールに手料理をふるまうことになっている。
ルシールも料理に参加することになっているけど……さて、いったいどこまで干渉できるのやら……。
基本的な料理なら僕も一通り心得がある。
少なくとも去年の文化祭……華黒と距離をとった時には僕が夕食を準備していた。
それについては過去の事だからいいとして、
「……ふむ」
現在のルシールの心境もわからないではないのだ。
「自身の手料理を食べてもらいたい」
そんなところだろう。
ある意味で乙女。
いやまぁ……ある意味じゃなくてもルシールは十分乙女なんだけど。
「そういえばお姉さん」
「なぁに?」
「ラブレター……もらいましたよね?」
「だね」
数日前にやっぱり市立図書館で勉強した帰り……僕と華黒の城の郵便ポストに差し込まれた懸想文について言っているのだろう。
それくらいは察せられる。
なにより僕自身の問題だ。
華黒にしてみれば憂いの原因だろうけど、だからといってラブレターを押し留めるには情報が足りないのも事実である。
そもそもにして薫子とは誰なのか。
なぜ僕を慕うのか。
なんの意図があって僕に懸想文を渡すのか。
わからないことは多分にある。
僕は華黒を想っていたいだけなんだけど、この手紙のせいで華黒が不機嫌になっていくのもまた事実なわけで。
ん?
もしかしてソレが狙いなのかな?
「モテますね」
黛は嬉しそうだ。
「意味不明だけどね」
僕は憮然とする。
「けれどその……薫子さん? その人は……お姉さんを慕っているのでしょう?」
「それはそうだけど」
なんだかなぁ。
「薫子さんの愛に心揺さぶられたりしないんですか?」
「…………」
この沈黙は恐怖故。
答えを間違えれば僕の身が危ない。
少なくとも、
「……っ!」
そんな殺気を華黒から感じた。
何とか動揺を抑え込み、
「僕には華黒がいるしねぇ」
平静を装ってぶっきらぼうに僕は言う。
「別に人が愛する人が一人だけでなければいけないのだと……そんなことが決まっているわけじゃありませんよ?」
「…………」
まぁそうだけどさ。
「それでも、ね」
僕は苦笑するばかりだ。
「………………ふえ」
ルシーるルシール。
残酷だね僕は。
そんなことは百も承知だけど。
「なんだかなぁ」
これは黛。
「黛さんとしては修羅場に発展……みたいなものを期待していたんですが……」
それは華黒と薫子さんとがですかい?
聞くのが怖いから聞かないけど。
「もうちょっと薫子さんの純情に応えてもらうという方針はないんですか?」
「気が向いたらね」
他に言い様もないだろう。
「兄さん?」
「大丈夫」
殺気と怒気とを膨らませる華黒に僕は軽くキスをした。
うーん。
カグリズム。
「ふえ……兄さん……」
ルシーる華黒。
僕のキスはそれほど華黒の純情をかき乱したらしい。
いや、いいんだけどさ。
僕が勝手に思っていることだけど……愛とは証明するものだ。
言葉で。
文面で。
行動で。
それは薫子さんの手紙もそうだし僕のキスもそうだ。
少なくとも僕の愛情がまっすぐ華黒に向けられていることは常時証明しなければいけないことは十二分に承知している。
そして僕は華黒のことが好きだ。
それ故に……責任のとれる範囲で……愛情を示すのは本意ではある。
「………………ふえ」
ルシーるルシール。
「薫子さんについても考えてほしいのですけどね」
何故か薫子さんの肩を持つ黛。
「まぁ……」
さりとて、
「僕と華黒はラブラブだからね」
他に言葉は見つからなかった。
「兄さん……! 私も兄さんを愛してます……! 今日こそ愛の契りを……!」
「却下」
身も蓋もなく僕。
校則でも不純交遊は禁止されている。
それを破ろうとは思えなかった。