『夏休み突入』3
「というわけで」
というわけで?
「黛さんはお姉様と今日の献立について一緒に考えるのでお姉さんとルシールは食べたいお菓子でも見繕っていてください」
時刻は午後五時。
場所はスーパー。
ちなみに図書館で課題の一部を消化した帰り道。
今日は四人で……つまり僕と華黒とルシールと黛とで一緒に夕餉をとろうということになって家事担当の華黒・黛ペアと乞食担当の真白・ルシールペアはいったん別れることになった。
というか黛はどうやら僕とルシールをくっ付けたがっているようだ。
「お姉様、今日は何にしましょうか?」
「そうですね。夏らしい涼しい料理を兄さんに堪能してもらいたいですね」
色々と論議しながら華黒と黛はお魚コーナーへと消えていく。
残されたのは僕とルシール。
ルシールを見やる。
目が合う。
ポッと赤くなるルシール。
抱きしめたくなったけど、そんなことをしたらルシールが華黒に殺される。
ので……自重。
僕は買い物籠を持つと、
「じゃ、いこっか」
なるたけ自然にルシールの手を取った。
「………………あう」
ルシールは急に僕と二人きりになった状況についていけていないらしく、俯いたまま僕に手を引かれて歩く。
「何か食べたいお菓子ある?」
「………………あう」
「夕食後のデザートになるのがいいよね」
「………………あう」
「ケーキとかどうかな? スーパーのなら安いし」
「………………あう」
「…………」
「………………あう」
どうにかならんのか、この子は。
「もしもーし。ルシール?」
「………………ふえ……なに……お兄ちゃん?」
「食べたいお菓子について聞いてるんだけど?」
「………………あう……ヨーグルト」
「好きなの?」
「………………最近の……マイブーム」
さいでっか。
というわけで乳製品のコーナーへ。
ヨーグルト……と一口には言うものの商品は多彩なわけで、
「どれがいい?」
「………………お兄ちゃんが……好きなもので……いいよ?」
「良し悪しを決めるのは僕よりルシールの方が適任だ」
そういうわけなのだった。
おずおずとルシールが一つのヨーグルトを選択する。
そして華黒・黛ペアと合流。
清算……後の帰宅。
「で、今日の晩御飯は何になったの?」
一応断言するが僕は男だ。
ので、荷物持ちを率先して引き受けた。
無論そんなことを華黒が見逃すはずもなく多少言い合いになったのだけど。
妥協案として僕と華黒が荷物を半々で持つことで問題は沈静化する。
「今日は冷やし中華です」
これは黛。
「うん。涼しげでいいね」
「後はスズキのあらいです」
「わ。大好物」
「そう思って選択しました」
華黒がニコリと笑う。
うーん。
手の平の上で転がされているなぁ。
そんな感想を持つ。
今に始まったことじゃないけど。
とまれ楽しみだ。
このワクワク感は止められない。
「食後のヨーグルトも楽しみですね」
華黒が言う。
「………………あう」
罪悪感を持つルシールだった。
勝手に決めたことを恥じているのだろう。
それくらいは僕にもわかったし華黒にもわかっているだろう。
華黒は荷物を持っていない方の手でルシールの金髪を撫ぜる。
「ルシールは謙虚すぎます。ここは素直に喜んでいい場面ですよ?」
「………………あう」
まぁ意識改革は後日の事としよう。
そもそも意識の問題で華黒がどの口をって話ではあるんだけど。
「………………よかった……の?」
ルシーるルシールに、
「当然です」
と九十八点の笑顔を見せる華黒。
ちなみに、
「ヨーグルトだけだと寂しすぎるので」
とバナナを買い込んだのが華黒である。
まぁヨーグルトにフルーツは鉄板だ。
食後のデザートとして及第点だろう。
そんなこんなで僕たちはアパートに着く。
どちらの部屋で夕食を準備するか。
華黒と黛が話し合い、
「今日は僕と華黒の部屋で」
ということになった。
そんなわけで僕は僕と華黒の部屋の扉の前に立つ。
鍵を開けようとして、郵便が来ているのが発覚した。
手紙の入ったファンシーな封筒だ。
送り主は薫子さん。
住所……ばれてるのかぁ。




