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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生編
173/298

『夏休み突入』2


「こっちが前置詞で……こっちがAアズB……」


 なるほど。


 わからん。


 僕は図書館にいた。


 僕たちの城からほど近い市立図書館。


 携帯の使用可能な勉強ルームなど色々と設備が充実しているので重宝している場所だ。


 ちなみに時間を言えば夏休み第一日。


 その午後一時。


「先に宿題を終わらせましょう」


 そんな華黒の言葉によって学校から提出された宿題や課題を七月中に終わらせることが決定事項となった。


 うんざり。


 当人には言わないけどね。


「華黒の回答を写すわけにはいかないの?」


「抱いてくださるなら構いませんが?」


 つまり無理ってことね。


 嘆息する。


 英語の宿題を片付けている内に、


「prr! prr!」


 と華黒の携帯電話が鳴った。


 通話ボタンを押して華黒は通信に応じる。


「もしもし。はぁ。それはまぁ……構いはしませんが。場所は市立図書館です。ええ、ええ。では後程」


 そしてピッと電話を切る華黒。


「誰からだったの?」


「黛からでした」


「何の用?」


「課題でわからないところがあるからご教授願えれば……と」


「華黒は天才だからなぁ」


「どれだけ勉強が出来たところで実質的に意味が無いというのが私の持論なんですが……」


「…………」


 否定はしない。


「それで?」


「ルシールを連れて市立図書館に来るそうです。まぁ気楽に待っていましょう」


「気楽……ねぇ……?」


 宿題を消化しながら気楽になんて無理難題だと思うんだけど。


 完璧超人百墨華黒にしてみれば当然の境地なんだろうけど……平凡な僕にしてみればうんざりする状況に違いない。


 言っても詮無いけどさ。


 そんなわけで僕は机に噛り付いて課題を消化する。


 英語。


 国語。


 古典。


 数学。


 そして物理。


「で、電子が撃たれて……電圧がこうで……」


 カリカリと物理方程式をノートに書きだす。


 さっぱりわからん。


 少なくとも僕の手には負えない。


「つまりですね」


 華黒が、


「さもわかっています」


 とばかりに解説をすることで何とか理解を深める駄目な僕だった。


 僕は僕を見てくれるなら誰でもいいと華黒は危惧しているけど、こういうところで言うのなら僕の傍には華黒しかありえない。


 答えを写してくれるなら尚のこと良いんだけど……そこまで求めるのは酷だろう。


 二律背反。


 うんうんと唸っている僕に、


「兄さん」


 華黒が声をかけてきた。


「何?」


「場所を変えましょう」


「どこに?」


「市立図書館の喫茶店に、です。コーヒーの一つでも飲みながら続きをしませんか?」


 ちなみに市立図書館の内部に喫茶店がある。


 図書館内では飲食禁止だから喫茶店を利用する人は多い。


「ルシールと黛にも伝えておきましょう」


 カチカチと携帯を弄る華黒。


 メールでも打っているのだろう。


 それから僕と華黒は市立図書館内部にある喫茶店で優雅にコーヒーを飲みながら課題を片付け続けていた。


 ノートに方程式を書き写し、課題に答えを書き込む。


 わからないことは華黒に聞く。


 ある意味で青春だ。


 もっとも華黒にしてみれば八月には課題をすっぱり終わらせて僕とデートしまくりたいと云う願望が透けて見えるのはご愛嬌だけど。


 そんなわけで喫茶店で課題を消化していると、


「やほ、です。お姉さん。お姉様」


「………………真白お兄ちゃん……華黒お姉ちゃん……やっほ」


 黛が爽やかに、ルシールがおずおずと、それぞれ現れた。


 二人とも鞄を持っていた。


 そこに夏休みの課題が入っているのだろう。


「で? わからないところはどこです?」


 あっさりと華黒は追及した。


「古文のここなんですが……」


 鞄から課題を取り出して黛は華黒にわからない所を示してみせた。


「ああ、ここは簡単ですよ。こう訳して配列をこうすれば……」


 さらさらとペンをふるって講義する華黒。


「ほほう。なるほど」


 黛は納得するのだった。


「ありがとうございますお姉様」


「いえいえ」


 本心だろう。


 少なくとも華黒は。


 それから出来の悪い真白・黛ペアと出来の良い華黒・ルシールペアとが市立図書館の喫茶店にて課題を消化するのだった。


 まぁ一日で終わる量ではなかったものの。


「やれやれ」


 他に言い様はないだろう。


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