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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生編
172/298

『夏休み突入』1


 終業式は退屈だった。


 健全な生活をどうたらこうたら。


 学校の生徒という自覚をうんたらかんたら。


 そんなもの……言われなくともわかる。


 わからない奴は言われてもわからない。


 少なくとも校長の話を真剣に聞いているのはいったい何人いるのか……そもそも存在するのか……さてさて。


 それから各々のクラスに、こう言っちゃ悪いだろうけど分配される生徒たち。


 僕たちもクラスの席に着く。


 教師が何やかやと給料分の忠告をした後、ホームルームは終わる。


「では羽目を外しすぎないように」


 とだけ忠告して担任は教室から出ていった。


 夏休みである。


「に・い・さ・ん?」


 う。


 わけもなく胸が痛くなる。


 チラと見た後方には華黒が。


 カラスの濡れ羽色のロングヘアーに白磁器も道を譲る白い肌。


 それは黒い制服によってコントラスト過多となっていた。


 白いワイシャツに灰色のズボンの男子の夏服と対照的だ。


 華黒に限って言えば黒が何より似合うのだけど。


 名前に黒ってついてるし。


 だからって僕……つまり真白に白が似合うということはないのだけど。


 劣等感。


 閑話休題。


「なに?」


 僕は問い返す。


「夏休みです」


「夏休みだね」


 それはもう間違いない。


「開放的です」


「開放的だね」


 少なくとも一か月とちょっとは学校に縛られることもない。


「乙女が大人になる季節です」


「昴先輩によく伝えておくよ」


「私は兄さんと大人の――!」


「待った」


 即座に華黒の口を封じる。


 周囲を見る。


 誰にも聞こえてなかったみたいだ。


 少なくともクラスメイトたちは各々のグループで固まって会話をしたり駄弁っていたり下校したりしている。


「あのね、華黒……」


「何でしょう兄さん」


「毎回毎回毎回言ってるんだけどさ」


「ならもう言う必要は無いのでは?」


「エロ方面は禁止だって理解している?」


「それでは進展がないじゃないですかぁ」


 進展の必要が無いからね。


 そう言うと、


「私はもう結婚できる年齢なんですよ?」


「僕はまだだ」


「何とかします」


「止めて」


 華黒なら本気で何とかしかねない。


 こと百墨真白に関する限り華黒に不可能はない。


 それは重々承知している。


 だから矛先を変える。


「華黒がそれだけ僕を想ってくれるのが僕にとっての幸福だよ」


「兄さん……」


 憂いと至福の半々の表情で言葉を失う華黒。


「焦らないの」


 淡々と僕は言う。


「僕たちはまだ子どもだ」


 説得するように。


「子どもの内は子どもにしかできない恋をしよう。それが僕と……それから華黒のためだ」


「兄さん……」


「交合はいつでも出来る。やろうと思うのなら今だって出来るさ」


「では今……!」


「でも逆に言えばそれは僕たちの純情を貶めることに他ならない」


「…………」


「華黒は僕の体が目当てなの?」


「違います!」


 だろうね。


「僕も華黒の体が目当てじゃないよ」


「……っ!」


「だからさ……そうすることで僕や華黒の純情が目減りするってことを華黒には理解してもらいたい」


「…………」


「だから子どもの内は子どもの恋をしよう。それとも不満?」


「だって……兄さんには色んな女の子がいるじゃないですか……」


 それは……まぁ……。


「白坂白花。酒奉寺昴。百墨ルシール。黛。碓氷さん。兄さんには自分が無いから他人を求める。そしてそれは私じゃなくてもいいじゃないですか」


 そうなんだけどさ。


「そんなの私は嫌です」


 押し殺したような声で言を吐く……吐き出す華黒。


 ああ……それはなんて感情……。


「大丈夫だよ」


 僕は華黒の髪をクシャリと撫ぜる。


「言ったでしょ? 華黒を支えて一緒に世界と向き合うって。あの時の言葉に偽りはないよ。そりゃ華黒の不安もわからないではないけどさ」


「兄さんがその気になるまで誘惑し続けます」


 華黒には僕しかいないからね。


 自分がない僕と、僕しかいない華黒。


 それはとても歪で……とても曲解な感情。


 しょうがないことではある。


 結局のところ華黒のエロ光線攻撃は止まらないのだろう。


 それについて責める気にはならなかった。


「お姉さーん。お姉様ー」


 クラスの扉の前ではルシールと黛が待機していた……いつものことだ。


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