『七夕祭り』2
ガタンゴトンと電車に揺られること数十分。
雪柳学園大学のキャンパスに近い駅で降りる。
「兄さん」
「なに?」
「手を繋いでも?」
「そりゃ構わないけどさ」
華黒と手を繋ぐ。
このくらいならお茶の子さいさいだ。
「ほらほら」
黛がルシールの背中を押す。
「ルシールもお姉さんと手を繋ぐチャンスだよ」
「………………ふえ……でも」
ルシーるルシール。
「僕は構わないけど?」
「私も構いませんよ?」
僕と華黒はホケッと言う。
今更遠慮する間柄でもない。
ましてルシールは従妹だ。
気がおけないと言っていい人間である。
「ほら」
僕の右手は華黒が握っているから、僕は空いている左手を差し出す。
「………………あ……う」
おずおずとルシール。
右手を握っては開き開いては握る。
それから意を決したのか、
「………………ありがと……お兄ちゃん」
そう言って僕の左手をとるルシールだった。
うわ。
何これ。
何この可愛い生き物。
真っ赤になってルシーるルシールはとてつもなく可愛かった。
うーん。
九十点。
とまれ、
「黛はいいんですか?」
華黒が問うた。
「は? 黛さんが? 何で?」
意味がわからないと黛。
だろうけどさ。
「ふぅん」
と華黒。
「お姉さんの腕が三本あれば手を繋ぐのも吝かじゃありませんが……」
無茶言うな。
インド神話の神かなんかか僕は。
「それに四人で手を繋いで横に広がったら迷惑ですし」
確かに……。
「そんなわけで黛さんは後ろをついていかせてもらいますよ」
黛は飄々と。
シャツとジーパン姿で腕を後頭部にまわしてテクテクと歩く。
僕は浴衣姿にして晴れ姿の不世出の美少女コンビ……華黒とルシールを両手に捕まえて歩いているのだ。
嫉妬の視線が刺さる刺さる。
そういえば去年はナンパされたっけ。
僕と華黒とルシールを誘うような形で。
「…………」
無言になった僕を不審に思ったのだろう、
「どうかしましたか兄さん?」
華黒が僕の瞳を覗きこむ。
「別に」
「兄さんがそう言う時は何かしら憂いを抱えていますから」
「…………」
見透かされてるなぁ。
それとも僕が単純なのだろうか?
問いただしたいけど聞きたくもない。
そんなわけで、
「何でもない」
と僕は言う。
サングラス越しに華黒を見ながら。
「ただ」
「ただ?」
「そういえば去年は女の子と間違われてナンパされたなぁ……なんて」
「そんなこともありましたね」
しみじみと華黒。
「………………ふえ……真白お兄ちゃんは……可愛いから」
フォローになってないよルシール。
「お姉さん、ナンパされたんですか?」
「不本意ながらね」
「……ふむ」
黛は考えるように空を仰いだ。
「まぁお姉さんは美人さんですしね」
考えた末の結論がそれか。
泣きたくなるね。
「それで今回はグラサンを?」
「まぁ」
「ナンパ対策ですか?」
「そうとも言う」
少なくとも僕を男ととってはくれるだろう。
そして僕を男ととってくれるなら、
「真白が華黒とルシールを独占している」
という状況は作れるはずだ。
即ち、ちょっかいをかけようという十把一絡げもいなくなるはず。
………………多分。
そう思っての男装である。
男装も何も男ではあるんだけど。
それでも僕の特性上、
「可憐な女の子に見える」
ことは変わらない。
そんなわけでグラサンをかけてシャツとジーパン。
なるたけ男らしく見えるように……というわけである。




