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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生編
166/298

『七夕祭り』1


 ズズとコーヒーを飲む。


 場所はお隣……つまりルシールと黛の部屋。


 そのダイニング。


 黛によってコーヒーでもてなされてダイニングに一人。


 このアパートは2DKだ。


 そのルシールの私室から、


「ほら、動かないでください」


「………………あう」


「いいですよぉ。いいですよぉ。色っぺえですよぉ」


 かしまし娘の声が聞こえてきた。


 心頭滅却。


 六根清浄。


「…………」


 無言でコーヒーを一口。


 僕はかしまし娘から締め出された格好だ。


 もっともそうじゃなくても自分から出ていくんだけど。


 そんなわけでキャッキャウフフしているかしまし娘の声を扉越しに聞くにとどめる。


「ふむ……成長しましたねルシール」


「………………あう」


「けしからんです」


 何やってんだか。


 コーヒーを一口。


 で、かしまし娘が何をやっているかと言えば……誤解を承知で一言に訳すのならば着替えに他ならない。


 今日は七月の第一日曜日。


 電車でちょっとの雪柳学園。


 その学園大学の学園祭が行われる日である。


 いわゆる一つの七夕祭り。


 そう呼ばれている。


 時刻は午後の三時。


 既に祭りは始まっているんだけど……ぶっちゃければ最初から最後まで祭りを満喫するほどの元気はない。


 要するに六時から行なわれるファッションショーにかしまし娘を送り出し、出店で夕食をとり、祭り最後の打ち上げ花火を見ればミッションコンプリート。


「…………」


 コーヒーを一口。


「むう。たわわな」


「………………あう」


「黛さんにも少しは分けてほしいですなぁ」


 そんな声が聞こえてきた。


 何やってんだか。


「…………」


 コーヒーを一口。


 で、かしまし娘が何をやっているかと言えば先にも言ったように着替えである。


 七夕祭りも祭りは祭り。


 つまり祭り用に浴衣に着替えているのだ。


 晴れ姿。


 あるいはハレ姿。


 日常とちょっと違う衣装を纏う。


 儀式の一種ととれるかもね。


「ほら、動かないでください」


「………………あう」


「今ならルシールを好き放題できますねぇ」


 さっきから黛は何を言っているのだろう。


 とても着替えを手伝っている声には聞こえないのだけど。


 コーヒーを一口。


 しばし時間が流れ、


「もういいですよ兄さん」


 そんな声が聞こえてきてかしまし娘はルシールの私室から出てきた。


 僕は振り返る。


「……っ」


 言葉を呑むとはこのことだろう。


 華黒とルシールの晴れ姿はどこまでも可憐だったからだ。


 華黒は松模様の浴衣を着ていた。


 長く艶やかな黒髪はシュシュで纏められている。


 去年のクリスマスに僕が贈ったシュシュだ。


 抜き衣紋からうなじが覗く。


 我が妹ながらとても色っぽい。


 ルシールはアジサイ模様の浴衣。


 常套句でしかないけどとても愛らしい。


 瑠璃色の玉のついた簪をしていた。


 この簪も僕が贈ったもの。


「どうでしょう?」


 華黒が挑発めいたように問うてくる。


「二人とも可愛いよ」


「………………あう」


 照れ照れとルシール。


「ところで……」


 僕はかしまし娘最後の一人に視線をやる。


 まゆずみだ。


 着ているのはシャツとジーパン。


 とてもラフな格好だった。


 もとの気質と相まって綺麗な男の子とも見て取れる。


 慎ましやかながらも確かに有る胸がそれを裏切っているけど。


「黛は浴衣を着なくてよかったの?」


「ルシールが浴衣姿になるだけで黛さんはお腹いっぱいです」


 ああ……そう……。


 コーヒーを一口。


「お姉さんこそ浴衣が似合いそうですが……」


 喧嘩を売られているのかな?


 ムッとする僕に、


「降参です」


 黛はハンズアップ。


 ちなみに僕の衣服も黛と同じくシャツとジーパンだ。


 ついでにグラサン。


 男に見てもらうための必要な処置だ。


 かしまし娘には、


「似合ってない」


 とぼろくそに言われたけど。


 ともあれ準備は終えたのだ。


 さぁ行こう……七夕祭りに。


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