『あくる日』5
ウェイストミンスターチャイムが鳴る。
古くはロンドン。
ビッグベン。
何はともあれ今日の過程は全てこなした。
放課後。
そう呼ばれる時間帯だ。
「兄さん兄さん兄さん」
「あいあいあい?」
「私の私の私の兄さん」
「華黒の華黒の華黒の僕だよ?」
「一緒に帰りましょう!」
まぁ言われなくてもそうするつもりだけどさ。
「…………」
チラリと統夜を見る。
ニヤリと笑われた。
なんの意図があってのことだか。
ともあれ統夜は社交的に男子生徒と四方山話をしながら教室を出ていった。
「兄さん!」
ワンコのような華黒。
尻尾があればブンブンと振っているだろう。
「…………」
犬耳に犬の尻尾をつけた華黒。
ありだね。
ともあれ、
「なぁに?」
僕は言葉を返す。
「夕食にリクエストはありますか?」
「パスタ」
即答だった。
「じゃあスーパーに寄りませんと」
「うん。付き合うよ」
「もう付き合ってます!」
「男女関係じゃなくて……」
「ほんの冗談です」
「…………」
本当だろうね?
言っても無駄なのは百も承知だ。
と、
「お姉さーん。お姉様ー」
教室の扉に隣接している廊下から快活な声が聞こえてくる。
言葉の意味を吟味しなくとも誰であるかは瞭然だ。
黛。
黒いショートカットのボーイッシュな美少女である。
その隣にはルシーるしているルシール。
「かーえりーましょー」
黛の快活ボイスが聞こえてくる。
「に・い・さ・ん?」
「なぁに?」
「腕を組んでもよろしいですか」
「レディのエスコートはもっと別の場所でもいいんじゃない?」
「見せつけたいんです」
誰に?
衆人環視に。
そんなことは言葉にしなくてもわかった。
虚しい心の共有だけど……。
僕は華黒と腕を組んでルシールと黛と合流する。
「………………お兄ちゃんとお姉ちゃん……仲良し」
まぁ恋人同士だしね。
言葉にできないのは僕の罪悪感故だ。
「さて」
どうしたものか。
「お姉様は今日の夕飯は決まっているのですか?」
黛の言に、
「パスタです」
即答の華黒。
「なら夕食を共にしませんか?」
「私は構いませんが……」
華黒は僕をチラリと見る。
コックリと僕は頷く。
「いいんじゃない?」
廊下を歩きだしながら僕は首肯した。
「結局のところ兄さんは何のパスタが食べたいんですか?」
「じゃあ鉄板焼きナポリタン」
「わかりました」
わかっちゃうのかよ!
ジョークで言ったつもりなんだけど華黒にとっては茶飯事らしい。
「黛にも手伝ってもらいますよ?」
「構いやしませんけどね」
飄々と黛。
「僕の理解者はルシールだけだね」
僕はルシールの金髪を撫ぜた。
「………………あう」
プシューと茹で上がるルシール。
可愛い可愛い。
さて、
「ぐだぐだ言っていないで行こ? スーパーに寄るんでしょ?」
「まぁ色々と準備もありますし」
「ですね」
「………………あう……私……足手纏い」
それを言うなら僕もだけどね。
「気にしない気にしない。僕も気にしてないから」
やっぱりクシャクシャとルシールの髪を撫ぜる。
そして僕とかしまし娘は昇降口へと。
外履きに履き替えようと靴箱を開けると、
「おや」
ヒラリと封筒が落ちた。
「兄さん……それって……」
バーイ薫子さん。
そんなことは百も承知だ。




