『あくる日』4
そして昼休み。
今日はいつもと趣向が違った。
いつもは僕とかしまし娘(華黒とルシールと黛のことである、念のため)は学食の四人掛けのテーブルを占拠する。
そして妬み嫉みの視線を受けながら昼食をとるはずだ。
しかして今日は違った。
本格的に夏が始まり、太陽はカンカンと……諤々と……。
梅雨なんだけど四六時中雨が降られてもしょうがない。
というわけで晴れ。
僕とかしまし娘はブルーシートの上にあぐらをかいていた。
まぁあぐらをかいているのは僕だけで、かしまし娘は各々スカートの中が見えないような座り方をしているのだけど。
場所は中庭。
一般棟と特別教室棟に挟まれた芝生の空間だ。
そこにブルーシートを敷いて昼食をとっている僕たちだった。
サンドイッチ。
ルシールと黛(主に黛主体であろうことに関してつっこんではいけない)お手製のサンドイッチである。
カンカン照りのお日様の下、ブルーシートを敷いて、黛の用意した水出し紅茶を飲み、ルシールと黛の用意してくれたサンドイッチを頬張る。
うん。
美味美味。
ちゃんとバターが塗られてパンは乾いており、そこにみずみずしいキュウリやトマトの水分が噛んだ瞬間にはじける。
総じてレベルが高かった。
「どうですかお姉さん?」
僕に紅茶のお代わりを注ぎながら感想を求める黛に、
「ん。美味しい」
賛辞を贈る。
「よかったねルシール」
「………………あう……黛ちゃんの……おかげ」
「そんなことないって」
「………………ある」
「ない」
「………………むう」
「何さ」
「待った待った。つまらないことで喧嘩しないで」
茶を飲みながら僕がいさめる。
「本当に美味しいですよルシール……」
華黒もフォローしてくれる。
「………………あう」
照れ照れとルシール。
ルシールがおどおどしたり照れ照れすることを、
「ルシーる」
と名付けるのはどうだろう?
あ、どうでもいいですか。
さいですか。
「ありがとねルシール」
僕はクシャクシャとルシールの金髪を撫ぜる。
「………………ふえ」
おどおどとルシーる。
そんなこんなで中庭でひと時の時間を過ごしているのだけど、
「お姉さん大人気ですね」
黛が現状をケラケラ笑いながら的確に指摘してきた。
「慣れたものだけどね」
今更だし。
何かというと妬み嫉みの視線のことである。
学食では学食なりの嫉妬の視線があった。
中庭では一般棟の通路から窓を通して中庭を一望できるので嫌でも僕と華黒とルシールと黛のキャッキャウフフが目に入るという仕様だ。
いいんだけどさ別に。
「………………真白お兄ちゃん」
「なに?」
ズズと紅茶を飲む。
「………………私たち……迷惑?」
「はぁ?」
何を言ってるんだこの子は。
僕はまじまじとルシールの瞳を覗きこむ。
碧眼は憂いに満ちていた。
それから僕の瞳を真っ向から見つめ返し、照れて赤面するルシール。
可愛いなぁ。
とまれ、問わねばなるまい。
「どういうこと?」
「………………私がお兄ちゃんと一緒にいることで……お兄ちゃんはやっかみの視線に……晒されてるんじゃないかって」
「まぁね」
「………………ごめん……なさい」
「別にルシールに謝られたって意味不明なんだけどね」
「………………ふえ?」
ポカンとするルシール。
僕はズズと茶を飲む。
「別にルシールのせいじゃないでしょ?」
「………………私のせい」
「違うって」
うんざりと僕は言う。
「妬み嫉みの視線を送っているのは十把一絡げだ。衆人環視だ。スクールカーストだ。ルシールを勝手に想って、ルシールと一緒にいる僕を勝手に敵視している。そこにルシールの意図や責任は存在しない。違う?」
「………………でも」
「ルシールが謝るならこうだ。絶世の美少女でごめんなさい、なんてね」
「………………ふえ……美少女じゃ……ない」
「じゃあなんでルシールを独占している僕に敵意の視線が向けられるのさ?」
「………………あう」
ルシールはちょろいなぁ。
華黒や黛ほどアイデンティティを確立できていない。
純粋とも言う。
「とまれ、ルシールが気に掛けることじゃないよ」
そう言って最後のサンドイッチを頬張る。
御馳走様。




