『あくる日』3
「っ!」
僕はボールを蹴る。
それはゴールに吸い込まれるように軌道を描いた。
キーパーの反射神経を超えて飛躍する。
これで二対零。
僕のチームが勝っていた。
「ナイスシュート」
「ナイスアシスト」
僕と統夜はハイタッチをした。
統夜がドリブルでディフェンダーをかいくぐり……僕にパスを与えて、僕がそのボールを蹴ってゴールに放り込んだのだ。
サッカー。
そう呼ばれるゲームである。
ちなみに授業は四限目。
科目は体育。
僕と統夜はストライカーの立ち位置だった。
「統夜は器用だね」
僕がそう言うと、
「昔とった杵柄だな」
苦笑される。
「どういう意味さ」
「秘密だ」
飄々と統夜。
「もしかして昴先輩も統夜よりサッカーが上手かったり?」
「よくわかったな」
「…………」
いや。
なんとなくなんだけどね。
「先輩も大変だなぁ」
「大学の方では体育の講義は教師過程の単位以外じゃ必要ってわけでもないからとってないみたいだぜ?」
「そなの?」
「そなの」
へぇ。
まぁ酒奉寺の次期当主が教員免許をとっても、
「だから何?」
ってことにしかならないだろうけど。
逃げるという選択肢は先輩には無いんだろうか?
かつてソレを推奨したことのある僕だ。
先輩なら一人でだってそれなりにやっていけるだろう。
わざわざ僕を婿にもらって酒奉寺を継ぐ必要もない。
もっとも……酒奉寺に居るときほど好き勝手は出来ないだろうけど。
ちらと統夜を見る。
「なんだ?」
統夜は僕の視線に気づいたのだろう。
「言いたいことがあるなら言え」
と目で語っていた。
「例えばだけど」
「それを言え」
「統夜が酒奉寺を継ぐってのは有り得ない?」
「はぁ?」
意味がわからない、と。
「何言ってんだコイツは?」
と統夜。
「だから例えばって言ってるじゃん」
「有り得んな」
「有り得んか」
「有り得ん」
なして?
僕が問うと、
「まぁ色々あってな」
ぼやくように統夜は言う。
「完璧超人の姉貴が酒奉寺を継ぐことは決まっている」
「統夜も捨てたものじゃないと思うけど」
「男ってだけじゃあな」
統夜は苦笑する。
「これが契約前なら俺でもよかったかもしれんが……」
「契約?」
「まぁなんだ」
ポリポリと頬を掻く統夜。
「色々あって姉貴が完璧超人になったんだから後継者は姉貴だろうってことさ」
「でもそうすると先輩は好きでもない男と結婚させられる羽目になる」
「お前がいるじゃないか」
「仮にそうだとするならバッドエンドしか見えないよ」
それだけは確信を持って言える。
「華黒ちゃん……か……」
「然り」
僕が昴先輩の伴侶となった瞬間、僕を溺愛している華黒が酒奉寺の家に害意を持つのは火を見るより明らかだ。
殺傷事件に発展する可能性さえある。
「しかして姉貴はお前に本気だぞ」
「それなんだよねぇ……」
難しい問題だ。
「ルシールちゃんが愛人的な立ち位置なら姉貴にもソレは通用しないか?」
「ふむ……」
多少思案して、
「無理かな」
そう結論付ける。
「華黒はルシールに対しては甘いけど先輩に対しては厳しいから」
「なんだかなぁ」
しぶしぶと統夜。
虚脱と呆れに満ちた言葉だった。
それについてアレコレと会話をしているとクラスメイトの放ったサッカーボールが統夜目掛けて飛んでくる。
それを受けてストライカーの統夜は敵のゴールにシュートを放つ。
ゴールネットを揺らして得点が入った。
これで三対零。
もうこっちのチームの勝ちは決まったようなものだった。
まぁ体育の授業でのことなんだけどさ。




