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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生編
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『船頭一人にして以下略』5


 帰宅した僕を迎えてくれた華黒はその一秒後に開けた口をへの字に歪めた。


「やあ華黒くん。黒という絶対色の美少女よ。空間の深淵にも似た宇宙規模の乙女よ。世界は君によって輝いているね」


 まぁ気持ちはわからんでもない。


 人の言うことを聞かない華黒に対抗できるのは同じく人の言うことを聞かない人間に限られる。


 僕の狭い交友関係でそんな性質を持っているのは昴先輩のみだ。


 それゆえに華黒は先輩を天敵としていた。


 口をへの字に曲げるのもしょうがないことだったろう。


「兄さん?」


 空間の深淵から起こる恋心ビッグバンを押さえつけているかのように怒気をはらませて、しかしてニコリと表情では笑って華黒は問うた。


「どういうことですか?」


 表情はともかく瞳がちっとも笑っていない。


「兄さんは一人になりたいんじゃなかったんですか? 兄さんは酒奉寺昴とデートしたんですか? 兄さんは浮気したんですか? 兄さんは私に事実を隠して酒奉寺昴と待ち合わせをしたのですか? 兄さんは……兄さんは……兄さんは……兄さんは……」


 兄さん地獄に陥った華黒に、チョップを打ち込む。


「あう」


「安心して華黒。浮気したわけじゃないから。デートと取られるのはしょうがないけど僕が愛してるのは華黒だけだよ」


「あう」


「つまり真白くんは私の嫁になって、ついでに華黒くんも私の嫁になる……という理屈でいいのかい?」


 いや、その理屈はおかしい。


「ともあれ華黒」


「なんですか兄さん?」


「夕食は五人分用意して。今日のメニューは決まってるの?」


「はぁ。まぁ。カレーですが」


「ん。ちょうどいい」


「よくありません」


 憤然と華黒。


「五人分ということは私と兄さんとルシールと黛……にもう一人加わるということじゃないですか……!」


「はぁい」


 昴先輩が突き出した手を握っては開き開いては握った。


「敵に与える施しなんてありません!」


「そう言わず。お兄ちゃんからのお願い」


「むぅ……」


 僕の願いと自身の抵抗感の狭間で揺れる華黒だった。


 もう一押し。


「今ならおやすみのチューもつけるから」


「………………わかりました。酒奉寺昴の分まで作ります」


 ぜえええっと溜息をついた後、心とは裏腹に納得する華黒だった。


 申し訳ない………………なんて気持ちはこれっぽっちもない。


「もう一つ。ルシールと黛を呼んで人数分の茶を用意して。できるでしょ?」


「できますが……」


 何でコイツに、と華黒の目が語っていた。


「そんな惚れ心のこもった熱視線で見つめられると私といえども照れるよ」


 都合よく華黒の視線を解釈する先輩だった。


 ともあれ僕は先輩を誘導してダイニングに顔を出す。


 四人掛けのテーブルだからもう一つ椅子を用意する必要があった。


 自身の部屋にあるデスクの椅子を一時的にダイニングに持ってきて、僕はイレギュラーの位置に座る。


 同時にピンポーンと玄関ベルが鳴る。


 華黒が応対した。


「はいはいはーい」


「どもっす! 黛さんゴチになりにきたっす! 無論のこと食事の準備くらいは手伝わせてもらいますが」


「………………どうも……です」


 愛らしい声が二つ玄関から響いてきた。


 当然だけど聞き逃す先輩ではない。


 湯呑をテーブルに置いて玄関兼キッチンへと視線をやり、


「ふわお!」


 と感嘆した。


 ……感嘆……なのだろうか?


「久しぶりだねルシールくん。息災にしていたかい? ふふ、罪深い子だ。私をこんなにも魅了するなんて……。その輝く髪を愛情で撫ぜても構わないかい?」


 一瞬でルシールへと間合いを詰め、ルシールのおとがいを持って口説きにかかる先輩だった。


 おとがいを持ち上げられてキス寸前まで接近させられて愛の言葉を囁かれたルシールは、


「………………ふえ……ええ?」


 わたわたと慌てた。


「ちょいとちょいとお姉さん? 黛さんのルシールにちょっかいをかけるのは止めていただきたいのですが?」


「……ほう! こちらも随分な美少女だ。どうだい? 私と夜明けのエスプレッソを飲まないかい?」


「遠慮します」


「そう言わずに。与えられうる悦楽の全てを提供しようじゃあないか」


「黛さんは身持ちが固いもので」


 ハンズアップ。


「ふむ。ではまたの機会にするとしよう」


「ていうか誰です?」


 至極もっともな質問だ。


「僕と華黒の先輩。去年の瀬野二の生徒会長で、今は大学一年生。ついでに言えばレズレズだね」


「そっちの趣味は黛さんには無いからなぁ」


 ほけっと言う黛に、


「………………私には……好きな人が……いますから」


 丁寧に断るルシール。


 ちょっと罪悪感。


「なんだかな。真白くんが憎らしくさえ思えるね」


「別にどんな評価を下されようと関係ないからいいんですけどね」


 飄々と言って僕は茶を飲む。


 ルシールと昴先輩もダイニングへと……そして茶を飲む。


 黛は夕食の準備をしている華黒を手伝うためにキッチンに立った。


 四方山話が聞こえてきたけどあくまで聴覚の範囲内だ。


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