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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生編
154/298

『船頭一人にして以下略』1


「ん……むに……」


 まろやかな目覚め。


 瞬き。


 現実に位相を合わせる。


 認識。


 了解。


 僕は覚醒した。


「くあ……」


 欠伸を一つ。


 それから右腕に重みを感じる。


 意識せずともわかった。


 華黒が僕の腕に抱きついて寝ているのだ。


 ムニュウ。


 その感触は心地よいけど……まだ責任をとれる立場に僕はいない。


 ので、華黒を振りほどく。


 同時に華黒がパチリと目を覚ました。


 黒真珠にも例えられる澄んだ瞳が僕を捉える。


 せわしなく華黒の瞳孔が動き、それから、


「おはようございます兄さん」


 状況を察したのだろう華黒がそう言った。


「おはよう華黒」


 脊髄反射で返す僕。


「珍しいですね。兄さんが私より先に起きるなんて」


 百墨真白は百墨華黒より先に寝て遅く起きる。


 それは地動説くらいに当たり前のことだ。


 ……駄目だなぁ僕は。


 ともあれ、


「ま、こういう日もあるさ」


「どうしましょう?」


 疑問を口にしながら華黒はくまさんパジャマの姿で身を起こす。


「もう朝食をとられますか? なんでしたらお作りしますが」


「ん~……」


 呻いた後、


「いや、いいや」


 遠慮する僕。


「ではせめてコーヒーでも淹れましょうか」


「華黒はいい子だね」


 よしよしと頭を撫でてやると、


「えへへぇ」


 と相好を崩す華黒だった。


 何これ可愛い。


「では準備をしてきます」


 と言ってパタパタと寝室から出てキッチンへと向かう。


 僕はその背中を見ながら、


「やれやれ」


 と頭を掻くのだった。


 決意は一瞬。


 容易いものだ。


 僕もベッドを抜け出てダイニングに向かう。


 頭を振って眠気の残滓を振り払い華黒の淹れてくれたコーヒーを飲む。


 二人分のコーヒー。


 僕と……それから華黒の分だ。


「こんな早くに兄さんが起きるなんて……。これからどうしましょう?」


 困惑する華黒。


「華黒は朝食をとってルシールと黛と一緒に学校に行くこと」


「兄さんは……」


「僕は今日はサボるよ」


「…………」


 ズズとコーヒーをすすった後、


「私がついていくことは?」


 哀願と躊躇の二重奏で華黒は質問した。


「許可しない」


 キッパリ。


「たまには一人にさせて」


「兄さんがそう言うのなら否やはありませんが……」


 どこか不満そうに華黒。


 まぁ、


「いつも兄さんの隣に」


 が信条の華黒だ。


 僕の孤独願望と華黒の密着願望は相反する。


「今日一日だけだよ。また明日からちゃんと華黒のお兄ちゃんするから」


「兄さんの言を疑うわけではありませんが……」


 それでも不満は拭い去れないらしい。


 マシロニズム。


 しょうがないと言えばしょうがない。


 諦めろと言われれば諦めるしかない。


 それは真白だけじゃなく華黒にも言えることだけど。


 とはいえ華黒としては危ういことなのだろう。


 僕が、


「一人になりたい」


 と言うのは、


「華黒とのしがらみから解放されたい」


 と同義だ。


 無論僕は華黒を愛しているし華黒も同様だろう。


 ただ理屈で理解しても心情で納得できるかは別の問題だ。


 華黒は華黒から真白が離れるのを強烈に警戒する。


 する他ないのだ。


 僕らはそういう風に出来ているのだから。


 だから僕は、


「大丈夫だよ」


 華黒の髪をクシャクシャと撫ぜる。


 安心させるように。


 納得させるように。


「僕が華黒以外に心を許すことはないから」


 うるっとした瞳を向ける華黒。


「本当ですか……?」


「本当です」


 嘘でも肯定する場面だけど煽る必要もないだろう。


「では夕食を準備してお待ちしております」


 華黒は誠心からそう言った。


 ありがたいことだね。


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