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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生編
149/298

『薫子の懸想文』2


 手紙。


 そう言って差し支えないだろう。


 封筒に入っているのは、だ。


「おい」


 統夜が驚愕を抑えて言う。


「それって……」


「うん」


 多分だけど懸想文。


 あるいはラブレター。


 そう呼ばれるものだろう。


「羨ましいな、おい」


「そう?」


 本気でわからない。


 統夜の憧憬も。


 懸想文の主の意図も。


「とまれ」


 僕は一息つくと、


「とりあえず保留ということで」


 封筒を鞄に入れる。


「開けないのか?」


 意味がわからないと統夜。


「別に今確認することでもないでしょ」


 僕は言う。


「今日の放課後の時間は統夜に使うと決めてるんだ。それならば……誰であれそれを阻む者は敵だよ」


「傲岸不遜だな」


 統夜は苦笑した。


「そう?」


 僕には統夜の意図がわからない。


「モテるねお前は」


「わずらわしいだけだよ」


「それが傲慢だって言ってるんだよ」


 七つの大罪。


 そんな十字架を背負うつもりはないけれど。


 ともあれ僕は懸想文のことを忘れると、


「じゃ、ゲーセンに行こうか」


 心機一転。


 統夜にそう言うのだった。


「ラブレターの主に応えなくていいのか?」


「それは何時だろうと取り返せるでしょ」


「恵まれた奴の傲慢だな」


「…………」


 好きでこの容姿に生まれたんじゃないやい。


 そう言いたかったけど止めておいた。


 楽しからざる話だ。


 今でも夢に見る。


 実体を伴った悪夢なぞ御免だ。


 少なくとも華黒の愛する僕にとっては。


 そんなわけで、


「統夜」


「なんだ?」


「ゲーセンに付き合う代わりにお願いしたいことがある」


「だからそれがなんだ?」


「クレーンゲームでぬいぐるみ取って」


「そりゃ構わんが……」


 ガシガシと後頭部を掻く統夜。


「自分で取った方がいいんじゃないか?」


「僕は苦手なの」


「…………」


 沈黙される。


「ま、お前がそれでいいんならいいんだけどな」


 苦笑される。


「…………」


 この沈黙は僕。


 まぁ。


「いいんだけどさ」


 言葉を振り絞る僕だった。


 それじゃ、


「行こっか」


 僕はそう言って昇降口を出る。


 天気は曇り。


 分厚い水分の塊が空を覆っていた。


 まぁね。


 梅雨だからしょうがない。


 そんなわけで僕と統夜は迎えを寄越すのだった。


 主に統夜が。


 携帯で一本。


 それだけで酒奉寺家の使用人が車を回す。


 五分後。


 リンカーンが瀬野二の正門の前に現れた。


「さすが酒奉寺……」


 僕は感嘆とする。


「リンカーンでお出迎えですか」


「別に俺の稼いだ金じゃないから自慢は出来んがな」


 飄々と統夜。


「ロールスロイスの方がよかったか?」


「とんでも八分、歩いて十分」


 僕は否定する。


「ただここまでさらっとされれば扱いに困るだけ」


「先にも言ったが俺の功績じゃないしな」


「でも酒奉寺家だ」


「後継者は姉貴だよ。どうでもいいことだ」


「…………」


 この僕の沈黙は困惑故だった。


 僕は昴先輩と結婚する意志はないけど……先輩の方はその気満々であるからだ。


「お前が義理の兄になるのも悪くはない」


「やめてよね」


 本気で抗議する。


 今はまだ華黒を想っていたい。


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