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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生編
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『雨に唄えば』6


 時間が経って昼休み。


 相も変わらず僕たちは学食の四人掛けのテーブルを四人で支配していた。


 衆人環視の嫉妬の視線も今更だ。


 僕……つまり百墨真白にしてみれば針のむしろではあろうけど、痛覚を持たないのでしょうがない。


 カチャカチャと食器を鳴らして昼食をとる。


「それにしても」


 話題は一つ。


 朝の件だ。


「もうちょっと言い様があったんじゃない?」


 けんもほろろにされた美少女に同情しながら僕が言うと、


「黛さんは心の狭い人間ですけん」


 飄々と。


「それに期待を持たせる方が残酷な場合もありますし」


 肩をすくめる黛。


「そりゃそうだけどさ」


 ナイフで切ったハンバーグを口に放り込む。


「黛も愛情定量論者なんですね」


 これは華黒の言。


「愛情定量論者?」


 なんじゃそりゃと黛が首をかしげる。


「私の持論です」


 コーヒーを一口飲んで滔々と続ける。


「愛情は多人数に注ぐほどに一人あたりの量は減り、逆に少ない人間に注ぐほど一人あたりの量は増える……という理論です」


「ああ、なるほど」


 ……納得するんだ。


 まぁ僕も当理論を支持してるんだけど。


「黛さんの場合は愛情じゃなくて友情ですが……そうですね……ルシールだけで友情が手一杯というのはつまりそういうことなんでしょう」


「………………黛ちゃん……友達増やそうよ」


「ルシールがそれを言うの?」


「………………あう」


 緑茶を飲みながら気持ちだけ引き下がるルシール。


 まぁルシールは積極的に友達を作れる人間じゃないことは僕も華黒も重々承知している事実だ。


 黛もそうだろう。


「黛さんにとってルシールは親しい友と書いて親友であり心の友と書いて心友なんだよ。そしてそれ以外に友達はいらない」


「………………あう」


 これは照れたルシール。


 茶を一口。


 僕は黛の言葉に思念だけで問いかけながら最後のハンバーグの欠片を食べ終えて昼食を終える。


 食後のコーヒーを飲む。


「では」


 華黒が口をはさむ。


「私や兄さんは友達ではないと?」


 言葉にすれば責めているようだけど……事実としての華黒の表情および声質はむしろそっけない。


 元々華黒はマシロニズム宣言者だ。


 百墨真白以外に価値を置いていないし興味すら抱いてはいない。


 心の目を凝らしてしか確認できないけど最近は世界に対して調和……あるいは妥協する場面も目にしているけど根本的な部分ではやはり超真白主義者だ。


 すなわち黛がどう思っていようとどうでもいいのだろう。


 単なる興味本位だと声が語っていた。


「まぁ言い難くはあるんですが黛さんとしてはお姉様やお姉さんはある種の尊敬の対象ですね。友達の友達は皆友達の理論を借りるなら友達なのでしょうけど」


「華黒はともかく僕まで尊敬の対象?」


「ノーコメントで」


 おい。


 喧嘩を売られているのだろうか?


 買わないけどさ。


 昨日華黒は、


「黛から同類の匂いを感じる」


 と言っていた。


 そういう意味では百墨真白に執着する華黒とルシールを唯一の友と定める黛は近似しているととれなくもない。


 視界の狭い人間ばかりだ。


 僕に言われたくはないだろうけど。


 コーヒーを一口。


「………………なんでそこまで……私に執着するの?」


「友情に理由が必要かな」


「………………そんなことは……ないけど」


 おずおずとルシール。


「あえて言うならルシールがルシールだから……かな」


 黛は苦笑した。


「………………私が……私だから?」


「そ」


 首肯する。


「ルシールは可愛いから」


「………………ふえ……可愛く……ないよ?」


「そういうところも含めて、ね」


 ね、が半音高かった。


「ルシールと仲が良いのなら黛さんはそれで充分なんですよ」


「………………あう」


 ルシールは言葉を見つけられなかったらしい。


 僕に困ったような視線を向けてきた。


「いいんじゃない?」


 悪いが他人事だ。


 何ゆえそこまで黛がルシールにこだわるかは知らないけど……少なくともそこにルシールに対する悪意は無い。


 それだけは断じられる。


 だから僕は言った。


「ルシールも黛との友情を大切にするべきだと思うな」


「………………そうかな?」


 ルシールはクネリと首を傾げる。


「いいこと言いますお姉さん。宿題を写させてくれるルシールと親睦を深めるのが黛さんの第一義です故」


 台無しだった。


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