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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生編
144/298

『雨に唄えば』3


 ウェストミンスターチャイムが鳴る。


 ホームルームが終了する。


 担任の教師が出ていく。


 さて、放課後だ。


 相も変わらず雨は大合唱を唄っていた。


「に・い・さ・ん?」


 軽やかかつ洗練された声が僕を呼ぶ。


「うん。まぁ」


 いつものことだ。


 華黒は今日は僕の腕に抱きつかなかった。


 両手が塞がっているからである。


 片方の手には学生鞄が……もう片方の手には必要以上に大きい傘が握られている。


「さて」


 僕が言う。


「ルシールを迎えに行こうか」


「ですね」


 華黒も頷く。


 というのも今日は黛が同伴しない。


 故に引っ込み思案のルシールが一人で上級生の教室を訪ねるのは大層な労力を必要とするというわけだ。


 そんな感じで昼休みに打ち合わせをし、今日は僕と華黒が放課後にルシールの教室を訪ねることになっていた。


 一年生のクラスは一階。


 二年生のクラスは二階。


 三年生のクラスは三階。


 杓子定規のように決められている。


 故に階段を下りて一年生の空間に顔を出す。


 ルシールのクラスに顔を出して、同じくホームルームを終えたのだろうルシールのクラスメイトに声をかける。


「ちょっとごめん」


 これは僕。


「百墨……真白……先輩……!」


 声をかけられた女生徒は僕を見知ってくれていた。


 業だ。


 気にしないのが精神安定に一番良い。


「百墨ルシールって子を呼んでくれない?」


「はい……! ちょっと待っててください……!」


 慌てたように女生徒は僕の言葉を受け入れてくれた。


 そこに悪意は感じなかった。


 とは言っても……その特質上として僕は自身に向けられる悪意には鈍感なんだけど。


 そうぼやくと華黒は、


「もしかしたら百墨隠密親衛隊真白派閥かもしれませんね」


 舌打ちとともにそんな推測を述べ立てる。


 あからさまにイライラしていた。


 僕に好意を持つ人間は華黒にとっては全て敵だ。


 特に色恋沙汰となれば害意すら発しかねない勢いである。


 ともあれ百墨親衛隊真白派閥……そういえばそんな団体もあったね。


 多くが新入生の女子によって構成されていると統夜に聞いたこともある。


 わずらわしいだけで憎んだり妬んだりされた方がはるかに気が楽なのだけど……こればっかりは本人次第だろう。


 そんなこんなでルシールと合流。


「………………真白お兄ちゃん……華黒お姉ちゃん……ありがと」


 いつも通りおずおずとルシール。


 片方の手に鞄を、もう片方の手にはビニールの傘を持っていた。


「………………お兄ちゃんは……やっぱり……傘持たないんだね」


 やはりおずおずとルシール。


 まぁね。


「ちなみに僕と華黒が恋人同士になった時に買った一品なんだよ。華黒の傘は」


「………………ふえ?」


 人一人を雨から遮るには大きすぎる傘を華黒は示してみせた。


「………………そうなんだ」


「そうなんです」


 大体一般的な傘の二倍はある。


「兄さんと相合傘をするために買ったものです」


「………………だよね」


 切なそうにルシールだった。


 表情に陰りが見えたけど気づかないふりをする僕。


 もう立派な悪党だ。


 口にはしないけど。


「さて、じゃあ帰ろうか」


「そうですね」


「………………うん」


 昇降口にて外履きに履き替える。


 それから華黒とルシールが傘を開く。


 ルシールの傘は一人分のスペースを……そして華黒の傘は二人分のスペースを……それぞれ確保するのだった。


 僕は華黒のさした傘に入る。


 相合傘だ。


「えへへぇ」


 華黒の相好が崩れる。


 よほど嬉しいらしい。


 もっとも僕も嬉しいんだけど。


 それは言わない方向で。


「兄さん」


 意味もなく僕を呼びながら華黒は自身の肩を僕の肩にぶつける。


 嫌味なほど密着して僕と華黒の相合傘。


「えへへぇ」


 三文安く出来てるね。


 この妹は。


「………………お兄ちゃんとお姉ちゃん……仲良し」


 恋人ですけん。


 傍から見れば嫌味だろう。


 気にする僕じゃないし気にする華黒でもないけど。


 そんなこんなで雨の降る中、傘をさして僕と華黒とルシールは自身の城へと帰っていくのだった。


 案外近場だ。


「………………お兄ちゃん……お姉ちゃん……うちでお茶飲まない?」


 帰宅すると同時にルシールがそんな提案をしてきた。


 ……よかばってん。


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