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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生編
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『雨に唄えば』2


「華黒とルシールは百墨真白に二股をかけられている」


 その情報はあまねく男子生徒の嫉妬の炎を業火へと変えた。


 いや、いいんだけどさ。


 それこそが狙いなのだから。


 時間は昼休み。


 予報は夕方から雨だったけど、あくまで予報だったらしい。


 昼を過ぎた頃からザーザーと雨が降り出した。


 まぁ放課後に雨が降りだそうと昼休みに雨が降りだそうと放課後まで外に出る機会のない人間にしてみればあまり変わらないところだ。


 ひさかたの雨は降りしけ思ふ子がやどに今夜は明かして行かむ。


 まぁ華黒とは同居してるのだから少し事情は違うんだけど……。


 とまれかくまれ昼休み。


 僕と華黒とルシールと黛はお馴染みの光景となっている四人席のテーブルに座って昼食をとっていた。


 今日は中庭も屋上も使えない。


 つまり必然的に学食を利用する生徒が若干増えるんだけど、その衆人環視の視線の刺さること刺さること。


 睨まれること睨まれること。


 妬まれること妬まれること。


 華黒は美少女だ。


 ブラックシルクのようにサラサラの長髪。


 黄色人種にしては白い肌。


 唇は桜の花弁のようで。


 顔立ちは彫刻家でもこうはいかないとばかりに整っている。


 絶世の美少女だ。


 ルシールは美少女だ。


 金髪碧眼。


 白人よろしく白い肌。


 顔立ちは錬金術で錬成されたかのように整っている。


 おどおどとした小動物的態度がプラス点。


 絶世の美少女だ。


 黛は美少女だ。


 黒いショートはシンプルにしてベスト。


 切れるような瞳は男性的。


 顔立ちは悪魔と契約でもして手に入れたかのように整っている。


 不敵な態度が口の端に現れている。


 ボーイッシュな美少女だ。


 そんな人気のある三人に……あくまでと主張するけど……平凡な僕がちやほやされているのだ。


 他者にしてみれば面白いわけもない。


「…………」


 まぁいいんだけどさ。


 ズビビとカモ蕎麦をすする。


 少なくともソレによって華黒たちが余計な事柄から解放されるのなら僕は喜んで悪役を引き受ける。


「華黒先輩……何であんな奴に……」


「百墨ルシールさん……おいたわしや……」


「黛も何であんな男に……!」


 聞こえてくるのは怨嗟の声。


 僕に対する悪意に満ちた。


「…………」


 ズビビとカモ蕎麦をすする。


 言い訳はしない。


 意味が無いからだ。


 意味が有ってもしないけどね。


「そうだ」


 とこれは黛。


「お姉さん」


「なに?」


「放課後はルシールをお願いします」


「どういう意味で?」


「無事ルシールをアパートまで送り届けてください」


「…………」


 カモ蕎麦をズビビ。


 咀嚼、嚥下。


「黛は一緒に帰らないの?」


「黛さんとしてもルシールと一緒に帰りたいのは山々なんですが……」


 苦笑される。


「ちょいと用事がありまして」


 そう言ってポケットから封筒を取り出すと、ヒラヒラと中の手紙を振ってみせた。


「………………黛ちゃん……それって」


「そ」


 明朗快活。


「ラブレター」


 黛は言い切った。


「さすがにルシールやお姉様やお姉さんには敵いませんが黛さんも美少女ですけん」


 待てや。


 何故そこで僕の名前が出る?


 そう言うと、


「自覚無いんですか?」


 あっさりさっぱりと返された。


「いやまぁ……」


 自覚はないでもないけどさ……。


「ならいいじゃないですか」


「……むぅ」


 納得いかないなぁ。


「ともあれ黛さんの放課後はピンク色ですけんお姉さんにはルシールの護衛を頼みます」


「言われなくとも」


 その覚悟は僕にはある。


「うん。お姉さんならそう言うと思ってました」


 クスリと黛が笑う。


 カモ蕎麦をズビビ。


 なんだか黛を前にすると僕の思想や覚悟が見透かされる気がしてしょうがない。


 つまり黛がそれだけ聡いってことなんだろうけど。


 そんなわけで窓から雨を見ながらカモ蕎麦をすする僕。


 激しく降る雨の音は音楽にも似て。


 大合唱と云った様子だ。


 梅雨来たる……と言ったところだろうか?


 カモ蕎麦をズビビ。


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