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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生編
142/298

『雨に唄えば』1


「兄さん……」


 なに?


「ズボンを下ろしていいですか?」


 駄目です。


「起きるよ。起きればいいんでしょ」


 僕はガシガシと頭を掻きながら腹筋運動の要領で上体を起こした。


 無理矢理目を覚ます。


 華黒の手は今まさに僕の寝巻の下を脱がそうとしている状態だった。


「起きた!」


「何驚いてんの? こっちの方が驚くんだけど……」


「兄さんのモノが……その……苦しそうだったので……」


「…………」


 無言で華黒の頭部にチョップを落とす。


 わりと全力で。


「あうっ」


 華黒は頭を押さえてうずくまった。


 弁解の余地もなく自業自得だ。


「華黒」


「何でしょう兄さん?」


「コーヒー」


「はいな」


 立ち直るとテケテケと寝室から出ていく華黒。


 ダイニングを通ってキッチンへ。


 お湯を沸かし、フィルターに粉砕したコーヒー豆をいれて、抽出。


 見てはいないけど華黒の行動としてはおおかた合っているだろう。


「くあ……」


 僕は欠伸する。


 それから寝間着姿のままダイニングに顔を出す。


「………………おはよ……真白お兄ちゃん」


「やほ、です。お姉さん」


 もはやいつもの朝の光景となっているルシールと黛がダイニングでくつろいでいた。


 華黒の淹れたのだろうコーヒーを飲んでいる。


 華黒が僕以外の人間に奉仕するようになったのは、華黒が世界に妥協できたか……あるいはルシールと黛の人徳か……それはわからない。


 今度聞くとしよう。


 ともあれ、


「おはよう」


 僕は軽く挨拶を返してダイニングテーブルに着く。


「はい兄さん。コーヒーです」


 僕専用のコーヒーカップにコーヒーを注いで手元に置いてくれる華黒。


 うん。


 一家に一台華黒を普及させたくなる手際の良さだ。


 気が向いたらメイド服でも勧めてみようかな。


 少なくとも僕の言葉にならうんと言うだろう。


 メイド服姿の華黒にご奉仕されるのも悪くはない。


 問題は、


「華黒のリミッターか……」


 誰にも聞こえないようにボソリと言う。


 コスプレをプレイとしてみて華黒の欲望が暴走するだろうことがネックと言えばこの上なくネックだ。


 ので、華黒メイド服計画は先送りにしようね。


 コーヒーを飲みながら携帯で今日の天気を確認する。


 人工衛星からの情報が載っていた。


 ここら一帯は夕方から雨が降るらしい。


 どうせ華黒は承知しているだろう。


 だから問題は無かった。


 後は華黒に任せればいい。


 それから華黒が朝食を運んでくる。


 トーストに目玉焼きに焼いたウィンナーにレタスサラダ。


 それらをもふもふ食べながら聞きたいことを聞いてみる。


「ルシール……黛……」


「………………なに?」


「何でしょうお姉さん?」


「いつも僕が起きると我が家のダイニングでくつろいでるけど、何でそんなゆとりある生活が出来るの?」


「………………あう」


 赤面するルシール。


「あはは」


 ケラケラ笑う黛。


「もちろんのこと黛さんもルシールもお姉さんと一緒に登校したいからですよ」


「ふぅん?」


 シャクリとトーストを食む。


「黛さんたちは無粋ですか?」


「まさか」


 シャクリとサラダを食む。


「言いたいことはわかったよ」


 まぁ……、


「光栄だ」


 そう言わざるをえない。


 それからテキパキと朝食を片付ける。


 華黒が食器を回収して水場につけた。


 僕はといえば私室に戻って学校制服に着替える。


 ワイシャツ、パンツ、ネクタイ。


 夏用の服だ。


 ワイシャツとパンツからは温かみが感じられた。


 華黒が毎度の如くアイロンをかけてくれているためだ。


 こういうところには華黒の真摯な愛が感じられる。


 普段がああだから印象としては薄くなるけど華黒は僕に対して優しさを惜しみなく注いでくれる貴重な存在だ。


 普段がああでなければもっといいんだけど……そればっかりは二律背反だ。


 愛あるところに優しさがあって、優しさあるところに愛がある。


 だから華黒は僕だけを愛する代償として僕以外に優しさを向けられない。


 猫を被るのは得意なんだけどね~。


 内心で唾を吐きながら他人に優しく接するということにかけては華黒の右に出るものはそういない。


 自慢にもならないけど。


 ともあれ僕は登校の準備を終えると華黒たちとともに玄関に立った。


 ちなみに雨と知っていてなお僕は傘を持っていない。


「お姉さん……相変わらずですねぇ……」


「まぁね」


 ニコリと笑って僕はアパートの部屋に施錠した。


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