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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生編
137/298

『偽恋真恋』2


 そして次の日。


 日曜日。


 時間は午の刻。


 つまり昼。


「うー……あー……」


 僕はもそもそとオムレツを箸で切り分けて口に運んでいた。


 丁寧に作られておりフワリとした食感を持つ極上のオムレツなんだろうけど……眠気が邪魔して味わうには状況が足りていない。


「うー……むー……」


 眠い。


「………………真白お兄ちゃん……大丈夫?」


「お姉さんはヒュプノスがお好きで」


 ルシールと黛が好き勝手に言ってくる。


「はい、兄さん。コーヒーです」


「ありがと」


 目覚ましにはちょうどいい。


 僕の眠気を吹き払うために華黒がコーヒーを用意してくれるのはもはや慣例と言っても過言ではない。


「いえいえ」


 華黒は謙虚に恥じらった。


 うーん。


 九十五点。


 コーヒーを飲む。


 香り高い苦みが口内に広がった。


 とはいえカフェインが利くには多少なりとも時間がかかる。


 いきなり目が覚めようというのは無茶もいいとこだ。


「いきなり目を覚ましたいんですか?」


 華黒がキョトンとして聞いてくる。


 まぁそうだね。


 僕は頷く。


「簡単ですよ」


 何?


「に・い・さ・ん」


 華黒は箸を持っていない方の僕の手を取ると、


「えい」


 と自身の体に押し付けた。


 正確には胸部に。


 ムニュウと柔らかい感触。


 電撃的に意識が覚醒する。


 同時にコーヒーを吹く僕とルシールと黛。


 吹いたコーヒーはスタッフが処理しました。


「あん。兄さんったら……」


「何するのさ!」


 いきなりの凶行に僕は完全に目が覚める。


「兄さんに胸を揉まれています」


「揉ませている……の間違いでしょ」


「些事な事柄です」


「僕に喧嘩を売っているんだね? そうなんだね?」


「でも目は覚めたでしょう?」


「結果論だよ」


 僕の皮肉に、


「ええ、結果論です」


「………………華黒お姉ちゃん……大胆」


「さすがお姉様。そこに痺れる憧れる」


 華黒はサッパリと、ルシールは敬意を込めて、黛は苦笑しながら言葉を紡いだ。


 それでいいの君たち?


 確かに目は覚めたけども。


「どうせ兄さんは浮気デートするんですからこれくらいの役得はありませんと」


 いや、その理屈はおかしい。


「華黒はもうちょっと恥じらいを覚えるべきだね」


「誘惑するのは兄さんにだけ……ですよ?」


 例えそうでも問題だっ。


 不本意ながら完全に覚醒した僕はテキパキと昼食を終えた。


「ああ、着替えはお姉さんの部屋に用意しておきました。どうぞそれを着てください」


「え? 黛が用意したの?」


「まぁ色々ありまして」


 両の手の平を僕に見せて差し出す仕草をする黛。


 華黒が不機嫌になるのが見て取れた。


「大丈夫」


 僕は華黒を安心させるように言う。


「僕を信じるのも華黒にとっては大切なことだよ?」


「わかってはいます。割り切れはしませんけど」


 うん。


 それでいい。


 そして華黒は食器を片づけて黛とともにキッチンで洗い物にとりかかった。


 僕は自分の寝室に顔を出すと、アニメっとした絵がプリントされたティーシャツと、ダメージ加工のジーパンが用意されていた。


 勘ぐることなくソレを着る。


 そしてダイニングに戻り、黛の意図を察した。


「………………あう」


 ルシールが赤面する。


 無理もない。


 僕のと寸分違わぬプリントティーシャツにダメージジーンズという格好だったからだ。


 つまり今日の僕とルシールはペアルックだった。


「なるほどね……」


 偽とはいえ今日のルシールは僕の恋人。


 ペアルック上等なのだろう。


「やれやれ」


「………………真白お兄ちゃん?」


「何?」


「………………お兄ちゃんが嫌なら……着替えてくる……よ?」


「構わないよ」


 僕はルシールに不安を覚えさせないために爽やかに笑った。


「ルシールこそいいの?」


「………………ちょっと恥ずかしいけど……こういうのも」


「そっか」


 なら文句のつけようもない。


 恋人を演じるならこれはこれでいいか。


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