『隠密親衛隊の変遷』6
「要するに牽制ですか」
身も蓋もないね……。
華黒の言葉に対する……それが僕の率直な感想だった。
時は引き続き放課後。
僕と華黒はスーパーで買い物をしていた。
今日の夕食はグラタンだ。
無論、華黒お手製。
ルシールと黛にもふるまう予定である。
ちなみにルシールと黛には先に帰ってもらっている。
僕と華黒。
ルシールと黛。
この二人ずつはお互いにちょくちょく夕食に招くのだった。
そんなわけで……四人で夕食をとるのもさして珍しい風景というわけでも無い。
今回はこっちが招待する番だというだけのことだ。
僕は料理に携わらないんだけどね。
僕にとっては華黒の料理を食べるかルシールと黛の料理を食べるかの違いでしかない。
ダメ人間だ。
もっとも華黒が、僕がキッチンに立つのを嫌がるという背景もないではないんだけどね。
牛乳。
玉ねぎ。
マカロニ。
チーズ。
エトセトラエトセトラ。
それらをホイホイと買い物籠に放り込む華黒。
荷物持ちくらいは僕がやってる。
閑話休題。
「気持ちがわかるだけにどうにも……ね」
僕は困ったように頬を掻く。
対して華黒は言葉を切り捨てた。
「文句を言う相手が違うでしょう」
「…………」
「何で兄さんが悪者になっているんです」
二律背反。
いや、いいんだけどさ。
「ルシールに文句をつけられるならとっくにやってるはずさ。それが出来ないから僕のところに来たんでしょ?」
「それが醜いと言っているのです」
そーですねー。
相も変わらず容赦のない……。
それでこそ華黒だけどね。
ある意味で安心さえする。
さて、
「ま、昨年度の凶行を今年度も繰り返してると思われたならルシールに要らぬ火の粉を浴びせなくて済むし」
ポンポンと華黒の頭を優しく叩く。
「代わりに兄さんが贄となっているんですよ?」
「気にする僕じゃないのは華黒の知ってる通りでしょ?」
「兄さんは悪意に慣れ過ぎです」
「そうなんだけどさ……」
それは言わぬが花じゃないかな?
「いいですか兄さん?」
「兄さんに敵対する者全てが私の敵です……って?」
言葉の先取りに、
「…………」
華黒は沈黙した。
心が重なった瞬間だったけどあんまり嬉しくはなかった。
苦く笑う。
あるいは苦しく笑う。
「意地悪です……兄さんは……」
拗ねる華黒は可愛かったけど、それを言葉にはしない。
「ルシールは弱いからね。誰かが守ってあげなくちゃ」
「兄さんは私だけを守ってくだされば十分です」
華黒の言葉は願いのようなものだった。
「そうはいっても……さ。それが僕の歪みだから」
「治す気は?」
「華黒が自分の歪みを治そうと思っているくらいには思っているよ」
「むぅ」
ことこの件に関しては平行線な僕ら。
話題を転換しよう。
「華黒」
「何です兄さん?」
「プリン買っていい?」
「どうせだから四人分買いましょう」
良かれ良かれ。
買い物籠にプリンを放り込む。
華黒の方もあらかた材料は揃えたらしい。
レジを通る。
荷物持ちが僕で支払いが華黒。
レジ袋に食材を詰め込み、それから華黒と肩を並べてスーパーを出る。
さてさて。
「華黒のグラタンが楽しみだ」
「腕によりをかけますね」
「うん。期待してる」
「えへへぇ」
ほにゃっと表情を笑みに崩して華黒は僕の腕に抱きついてきた。
「華黒は甘えんぼさんだね」
「兄さんにだけです」
「光栄の極み」
他に言い様もない。
僕と華黒の影が一部重なる。
「周りから私たちはどう見えているのでしょうね?」
「仲の良い兄妹」
「兄さんは意地悪です」
「冗談だよ」
クスリと笑ってやった。
「大好きだよ華黒」
「……ふえ。わ、私もです」
あたふたする華黒も趣があった。
可愛い可愛い。




