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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生編
120/298

『巡る業』6


 放課後。


 散々なレッテルを張られて這う這うの体で逃げ帰る僕だった。


 無論のこと華黒はともかく問題となるルシールと……その友人の黛と一緒に。


 ちなみに昨日の悪行について問題となったのは僕だけで、華黒と黛は不問に付された。


 というよりスルーされた。


 こういう時……美少女は得だ。


 そんなわけで僕だけが、


「ルシールちゃんへの告白を邪魔した人間」


 という十字架を背負うことになった。


 異論はない。


 けど不満はある。


「さて……どうしたものだろう?」


 僕は湯呑みを傾けて緑茶を飲みながら今後の身の振り方について考える。


 ちなみに自身の城へと逃げ帰って華黒の用意した夕食をとった後の……食後の一時である。


 ボソリと小声で言ったつもりだったけど、


「何がです? 兄さん」


 華黒が目ざとく……というか耳ざとく僕の声を拾って問うてくる。


「ん~」


 何と言ったものか……。


「例えばキリストやジャンヌのように清らかでありながら人に排斥された人間ってのはどういう感想を持つんだろうね?」


「絶望でしょうね」


 華黒は躊躇なく即答した。


 さすが。


「でもそれと兄さんの状況とは似通っていても本質的に別のものですよ?」


「うん。まぁね」


 僕は湯呑みを傾ける。


「華黒は僕が周りから嫌われることに怒ったりしないの?」


「半々……といったところでしょうか」


「半々?」


 わからないと首を傾げてみせる。


 華黒は自身の湯呑みを傾けて緑茶を飲むと言葉を紡いだ。


「正確には半々と言うより二つの感情が並行しているというだけのことですが」


 だからそれがわかんないんだって。


「まず兄さんに悪意を持つ人間は死んでほしいです」


「……さいですか」


「同時に兄さんの理解者は少なければ少ないほど良いとも思います」


「……なるほどね」


「兄さんに悪意を持つ人間は苦しみながら死んでほしくはあるんですが、かといって兄さんを純粋に理解する人間の登場は歓迎すべきことじゃありません。少なくとも私にとっては……ですが」


「二律背反だね」


 苦笑してしまう。


「ですから……まぁ兄さんへの理解者を作らないという一点に置いてはどんどん周りに嫌われていいと思いますよ」


 最低なことをあっさりと言ってのけて華黒は湯呑みを傾ける。


 何だかなぁ。


「嫉妬もそこまでいけば清々しいね」


 やはり苦笑してしまう。


 わかっていたことではあるけどさ。


「嫉妬?」


「違うの?」


「無いとは言いませんがこの件に関して言えばそれよりも深刻な問題です」


「へえ?」


 湯呑みを傾ける。


「先の私の発言の根幹にあるのは危機感です」


「ん~?」


 わからない。


「兄さんに理解者はいらないんです。少なくとも私以外は」


「何でさ?」


「兄さんが自分に対して壊れているからです」


 世界に対して壊れている君が言うか。


「人間関係という奴はしがらみです」


「極論で言えばね」


「いえ、普通に言ってもです」


「続けて」


「もし兄さんが新たな理解者を多数得るとしたのならば兄さんはその全ての人間を救おうとするはずです」


「違う……とは言えないなぁ」


 華黒の言っていることはもっともだった。


 実際関係すらない碓氷さんを助けた身としては反論の余地は無い。


「ですから……」


「だから?」


「周りにはガンガン嫌われていいと思いますよ? 人間不信になって落ち込んだりしたら私の付け入る隙も出来ますし」


 ニッコリと笑う華黒だった。


 結局そこに行きつくのか……。


 ブラコンにもほどがあるだろう。


 でも納得。


 理解できない話ではない。


 少なくとも華黒がそう思っていることを聞けただけでも収穫だ。


 緑茶を一口。


「それに……」


「それに?」


「私は愛情定量論者です」


「だね」


「……兄さんに理解者が増えれば、その数だけ兄さんが私に割く時間が無くなるってことでしょう?」


 シュンとする華黒はとても愛らしかった。


 僕は隣に座る華黒を引き寄せて、華黒の頭部を僕の肩に安置させると、


「大丈夫だよ」


 安心させるように言う。


「たとえ何があっても華黒を見捨てることはしない。華黒の隣で死ぬ。それだけは確約してあげる」


 華黒の頬が熱っぽくなる。


「……はい……兄さん」


 おずおずと華黒は至福の時に肩まで浸かるのだった。


 可愛い可愛い。


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