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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生編
116/298

『巡る業』2


 放課後。


「さて……」


 気合を入れるために呟いてみる。


 鞄を持って立ち上がると、


「兄さん」


 と声がかかった。


 華黒だ。


「今日の夕食にご希望はありますか?」


「華黒」


「…………」


「…………」


 …………。


 ……………………。


 ………………………………。


「……ふえ……ふえ!」


 意味を理解したのだろう。


 面白いように華黒が狼狽した。


 華黒の認識が意識に追いつく前に、


「冗談」


 僕は鞄を持ったままハンズアップ。


 閑話休題。


「ざるラーメンが食べたいな」


「私の体に麺を乗せて箸でつつくんですか? なんて高度な……」


「はいそこ。黙る」


 妄想を暴走させる華黒を牽制すると、僕は教室の扉へと目をやる。


「お姉さーん。お姉様ー」


 ヒョコヒョコと黛が元気良く手を振っていた。


 クラスメイトが、


「またか」


 という視線を僕に向ける。


 華黒とルシールと黛のかしまし娘をはべらせている……ように見えるのだ。


 甘んじて嫉妬の視線を受け入れる。


 クラスの男友達とつるんでいる統夜に視線をやると、


「わかってるよ」


 とばかりに頷かれるのだった。


 ……それもどうだかなぁ。


 ともあれルシールと黛と合流する僕と華黒。


「待たせたね」


「こっちも今来たばかりです」


 ベタやなぁ。


「それじゃ時間もおしていることですし屋内プールの裏に行きましょう。ルシール……心構えは出来てる?」


「………………どうだろう?」


 ま、そんなところだろう。


 それが僕の率直な感想だった。


 当然ながら場所のわからないルシールと黛に対して先導する僕と華黒。


 ちなみに華黒は片方の腕を僕の逆の腕に絡めている。


「ウサギか」


 というツッコミは心の内でだけ。


 華黒の……百墨真白に愛情表現しないと死んじゃう病は今に始まったことじゃない。


 そんなこんなで屋内プールの裏手に足を運ぶ僕たち。


 待っていたのは一人の男子生徒。


 まずラブラブな僕と華黒の登場に眉をひそめ、黛の登場に少なく混乱し、最後のルシールのおずおずとした登場にいたって状況を理解したらしい。


 男子生徒の双眸が迷惑だと言っていた。


 それにへこたれる黛ではない。


「いやーすみませんお待たせしてしまって」


 快活で、かつ後ろ暗い感情を持ち合わせずに、明朗な笑顔を件の男子生徒に見せると、怯える様なルシールの背中を押してズズイと強調する。


「どうぞルシールに想いの丈をぶちまけちゃってください」


 まったく遠慮というものを知らない口調だった。


「無粋だ」


 と男子生徒の目は語っていたけど僕は苦笑するに留め、その場を去りはしなかった。


 これも憂世のしがらみだ。


 男子生徒も諦めたみたいだった。


 黛に押し出されて狼狽しきるルシールと視線を交錯させる。


「………………どうも」


 おずおずとルシールは頭を下げた。


「手紙……読んでくれた?」


「………………はい」


「返事を聞かせてくれるかな?」


「………………ごめんなさい」


「理由……聞いてもいい?」


「………………好きな人が……いるから」


「本当に?」


「………………本当に」


「…………」


 沈黙。


 き……気まずい。


 僕は苦し紛れに食指で頬を掻き、そんな僕に華黒が寄り添って幸せオーラをふりまき、黛は納得したように頷き、ルシールはおどおどしていた。


「本気で目は無いの?」


「………………はい」


 言葉はいとも容易く心を傷つける。


 ルシールの言はそれを憂いているかのようだった。


 男子生徒は一つ溜め息をつくと、


「そう」


 とだけ呟いた。


 無念。


「さて」


 やはり快活に黛。


「では用事も終わりましたし帰りましょうか」


 既に告白劇を過去のモノと捉えての発言だった。


「なんならまた夕食を一緒しませんか? お姉さんにお姉様……」


「却下」


 華黒の一刀両断。


「ちなみに夕食プレイは禁止だよ?」


「そんな!」


 んなことだろうとは思ったけど。


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