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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生編
114/298

『与えられるモノ』6


「…………」


 僕は思案する。


 結果として言葉数は少なくなる。


 ピチョンと湯船に水滴が跳ねる。


 天井に溜まった水滴が風呂に落ちた結果だ。


 場所は僕と華黒の城。


 その風呂場。


 僕は髪と体を洗って湯船に肩まで浸かるのだった。


「何だかなぁ……」


 そう呟いてしまう。


「では失礼します」


 そう言って華黒が風呂場に入ってくる。


 同時に僕は目を閉じた。


 暗闇が視界を支配する。


 正確には明かりによって毛細血管の模様と幻像の跡とが見えるのだけど別に追及するほどのものでもあるまい。


 目を閉じている僕に、


「別に裸くらい見られても構いませんよ?」


 そんな華黒の声が聞こえてくる。


 シャワーの音も一緒に、だ。


「性欲が抑えきれなくなるからダメ」


「それも別に構いませんが?」


「僕が構うの」


「兄さんは堅物すぎます」


「誠意と言って欲しいね」


「私にはそんなに魅力がありませんか?」


 んなわきゃねーだろ。


「華黒は十分魅力的だよ」


「では……!」


「ただ僕が臆病なだけ」


 僕は目を閉じたままハンズアップする。


 降参の意思表示だ。


「私はもう結婚できる年齢です。大人なんですよ?」


「僕は違うけどね」


「兄さんも後一年じゃないですか」


「とは言っても学生である以上引くべき一線がある」


「セックスは快楽の一手段でしょう?」


「子を生す一大事業だ」


「兄さんは考えすぎです」


「華黒が軽視し過ぎなだけだよ」


「むぅ」


「華黒と子を生すのは未来のこととして……それより華黒と二人きりのイチャイチャを楽しみたいからって理由じゃ駄目?」


「駄目では……ないですけど……」


 躊躇するような華黒の言葉だった。


「それで? 兄さんは何に憂いていたんですか?」


「ん~? 僕と華黒の関係について」


「ラブラブですね」


 そうじゃなくて。


「僕は華黒にもらってばかりで何も還元できてないよね」


「は?」


 シャワーの音が止まる。


「ルシールと黛の関係性は共生だなぁって。ルシールが勉学をフォローして黛が家事をフォローする。対して僕と華黒の関係性は寄生だ。勉学も家事も華黒が負担している。僕は華黒に甘えてばかりで何も返せていない」


「……怒りますよ兄さん」


 危険な口調だった。


 長い付き合いだ。


 華黒が本気で苛立っていることは目をつむっている状況でも認識できる。


「何かまずいこと言った?」


「当然ですっ」


 そう言って華黒は湯船に入浴してくる。


 僕と華黒の肌が触れ合う。


 密着状態だ。


「兄さんは私に大切な傷跡をくださいました。愛と云う名の傷跡を」


「でも今の僕は華黒に頼ってばっかりだ」


「いいんです。かつての私だって兄さんに守られてばかりでした」


「だからこそ……!」


「はい。今度は私から兄さんに愛情を注げるように私は強くなる必要がありました」


「…………」


「今の私のソレは返しきれない負債を兄さんに少しでも返そうとしての行為です。兄さんが気兼ねする必要は何処にもないんです」


「でもさぁ……」


「壊れているのは兄さんも私も同じです。そして私にとって兄さんこそ世界の全て。なればこそ兄さんのためになるならその全てをしてあげたいんです」


「…………」


「いつか言いましたよね」


 何て?


「自分を卑下するのなら兄さんさえも私の敵です……と」


「世界を敵視する華黒が僕の敵であるかのように……かな?」


「ええ、まぁ、そうでしょうね」


 コクリと華黒は頷く。


 僕は自分に対して壊れた。


 華黒は世界に対して壊れた。


 だから僕らは密接に繋がった。


 しがらみだ。


 しかしてそれを否定するのはレゾンデートルを否定することにもなる。


 少なくとも僕も華黒もそれを望んではいない。


 改善はせねばならないけどね。


「いいのかな?」


「いいんです」


「本当に?」


「兄さんが負い目を持つ必要なんてありません。まぁそんな兄さんであるからこそ私は慕っているのですけど」


 …………。


「兄さんは一生かかっても返しきれないほどの愛を私に注いでくれました。であるからこそ私は兄さんを好きで、愛して、慕って、想いを寄せるんです。ただ兄さんにありがとうと言うために私は生を謳歌するんです。いけませんか?」


 ……そんなことは……ないけどね。


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