07話 執務室とジークと俺と
秋生大好きオッサンのターンです。
語り口調が強いので、苦手な方はお気を付け下さい。
※お気に入り1600件オーバーありがとう御座います…!
「ヨォーッス、喚ばれて飛び出た傭兵キースちゃんでぇーす。……なァ、ジーク。この部屋異様にムサくないか?」
28と言う年齢にしては、宰相と言うご立派な役職を持つちんちくりん坊ちゃんの執務室を見た俺の第一声。
そんな、折角面倒くせぇ手続きまでして来てやったオッサンに対し、奥の席で執務をこなす部屋の主は、此方に一切目もくれずに淡々と答える。
「当たり前だろ。既婚でムサい奴かジジイばかり集めてんだから。」
「おま、せめて一度はこっち見ろよ…っつーか、宰相てそんな感じ悪くても務まるモンなのか?」
「んな訳ないだろ。お前ら常連共だけの特別待遇だ。光栄に思え。」
「うっぜぇぇぇぇえ」
何故か得意気に語るジークの野郎に、俺は本音を隠す事なく吐き出す。
周囲の連中がハラハラと成り行きを見守っているが―――大丈夫大丈夫。コイツ今、長年アプローチしても微妙にズレた感じでしか報われなかった好きな女と盛り上がってて、すげぇ機嫌良いから。と、心の中でフォローする。
ずっと入り口に突っ立ってるのも邪魔かと思い、ずかずかとジークの手前まで進む。
そうして、ふと思った疑問に思った事をジークにぶつけた。
「………なぁ、俺どっち要員?まさかジジイとか言わねーよな?」
「両方。」
「………。」
ひっでぇぇぇぇぇ!!!!!!!……目の前の鬼畜の非人道的な発言に、俺は思わず美声を執務棟に響かせてしまった。
…あ、ちょっとジークさん。虫螻見る目でこっち見んの止めて。オッサンコレでも結構繊細。
今のは俺が悪…いや、やっぱオメーが悪いわ。
「たく、シャロンにゃ何だかんだで紳士様(笑)なクセによ。」
「………。」
「いやもう、悪かった許せ辞典の角で狙うの止めれそれマジ痛い!」
「ホホ、宰相殿と紅蓮の狼殿は仲が宜しいですなぁ…。」
ふと、ジークの隣に控えていた老人――確か、前宰相サマだったか――が、そう言いながら愉快そうに髭をさする。
あ、因みに紅蓮の狼ってのは俺ン事だ。この近辺じゃちったぁ名の知れた傭兵だったりするんだぜ!
……と、いやいや、今はそんな事よか爺さんちょっと待てと言うかだな。
「「テメェの目は節穴か!」」
「……いやん。」
「「……………。」」
爺さん頬染めまじきもい。
―――俺の登場でざわついていた室内が一気に静まり返る。…皆、どうやら気持ちは同じらしい。
「はあ……もう良い。キース、例の物はきちんと持って来たんだろうな。」
何とか持ち直したらしいジークから、今日俺が此処に来た本題の確認をされる。
「おうさ。俺ァ、お遣いは得意だぜ。ちゃんと二つとも持って来てんよ。」
と、俺はウエストポーチに突っ込んでいた物を取り出し、ジークの前にぶら下げた。
―――シャロンの親父さんが仕入れたと言う、異国の呪詛除けの御守り。
何故、俺がそんなモンを持って宰相サマの執務室に現れたのかというと、話は数日前の夜に遡る。
《三日前、酒場・オータムボーンにて》
「「「「巫女様が呪詛にかかってるだァ?」」」」
「ああ。」
昼間のド修羅場展開のその後―――主に、意気消沈気味だった店主・シャロンの様子が気になって店に来ていた俺達は、店内で何やら深刻そうな話をしている二人に割り込むタイミングを逸し。
店の外から健気にもタイミングを見計らって突入した途端、ジークの野郎から一発ずつ拳骨をお見舞いされた。
人の恋路の邪魔なんざ、馬に蹴られてなんぼだぜ!
……で、これだ。
細かい経緯は知らないが、国内どころか下手したら大陸中に広まっている一連の泥沼愛憎劇は、実は巫女様が魔王討伐時にかかった呪詛が原因らしい。
そこで、俺達にも力を貸して欲しいと。
「王宮ン中ってそんなにヤバいのか?」
「ああ。王族連中は全員アウトだし、騎士団もほぼ使い物にならねぇ。議会は議会で回りゃしねぇし、ハッキリ言って最悪だ。」
思ったよりも深刻な状況に、誰一人として酒に酔えない。
「何でもっと早くに気付かなかったんだ?」
一番若いアーノルドが率直な疑問を投げる。確かに、こんな酷い事態になる前に防げた筈だ。
「…誰もが疑う前にやられちまうんだよ。俺は俺で、目の前の問題ばかりに捕らわれすぎていたし。…直接巫女に関わりたくなくて逃げ回っていたのも、悪かった…。」
はあ、と珍しくうなだれるジーク。その頭に、ふわりと気遣わし気にシャロンの手が乗る。
いつもなら口笛を吹きながらからかう所だが――こんな調子じゃ、そんな気も起きなかった。
「まあ、過ぎちまったモンはしゃーねェし。ジークもあんま抱え込むなや!」
「そーだそーだ、大事なのはこれからどうすっかだろ?」
重い空気を払拭する様に、ギューンとロッジがジークを励ます。
今のジークは確かに宰相と言う職につき、同い年の連中よりも立派に仕事をこなしているかもしれないが、それでも俺達にとっちゃまだまだ餓鬼だ。
しかも俺達はコイツがまだ18の、今以上にクソ餓鬼だった頃から見てきたんだ。…シャロン同様に、実の息子か弟かという位にはこのクソ餓鬼が可愛いと思っている。
―――そんなジークが、人一倍高いプライドも捨てて助けを求めてきたんだ。応えてやるのがオトナってもんだろ!
と言う訳で、俺達はジークに協力する事にした。
酒場のシャロン、採鉱員のロッジとアーノルドは城下町でより多くの人から正確な情報を仕入れる情報担当に。
宮大工のギューンと傭兵の俺は王宮に出入り可能なため、それぞれ必要なタイミングで王宮入りし、役目を果たす。
―――そうして、決められた役目を果たす為に、俺は今王宮に居るって訳だ。
因みに、ギューンの親父は今日は休みだ。
何せ呪詛除けの御守りは、ジークの分も含めて三つしかないからな。
…え?一つ余るじゃないかって?
まあその辺は、今からの俺のお遣いっぷりを見ていてくれって所だな!
「じゃー、俺ァ今からサクッとだらしない騎士団の野郎共を鍛え直してくるわ。」
「ああ、頼む。あいつらも良い刺激になるだろう。―――そう言えば、今なら魔道騎士エリクも鍛練場に居るかもしれないな。」
「マジでかラッキー。久々にお手並み拝見とすっかな。」
そうして俺は後ろへ向き直し、片手を振りながら退室する。
パタンと閉じられた扉の向こう側で、ジークが凶悪な笑みを浮かべているのが何となく想像出来た。
「さて、鍛練場へ向かうか―――。」
そうして俺は、久々の王宮入りと言う事で若干の注目を浴びながら鍛練場を目指した。
だだっ広い王宮を寄り道もせず直進し、鍛練場の入り口まで辿り着いた、その時―――――。
ドンッ!
「……ってぇぇぇ…。」
突然開いた入り口から飛び出してきた男とぶつかった。
「…ッ!すまない、考え事をしていて……。」
そうして、謝ってきたのは他でもない。つい先程ジークから話があったばかりの魔道騎士エリクだった。
…相変わらず全身真っ黒で、如何にも魔道騎士と言った風体してやがる。
「いーっていーって。気にすんな!」
「!……貴方は、紅蓮の…そうか、宰相殿が言っていた講師とは貴方だったのですね。」
「んな大したモンじゃねーって。お前さんはもう稽古済んだのか?」
「はい。…残念ながら、今から別件で移動しなければなりませんので。」
「そりゃ残念だ。また今後手合わせしようぜ―――あ、ちょっと待った。」
「はい?」
慌ててその場を離れようとするエリクを、俺は引き止める。
「何か落ちてたぞ。―――お前さんのじゃねぇ?」
「それは申し訳ない。」
そうして俺は、《落とし物》を差し出されたエリクの手の平に乗せた。
「――――!」
ぶわっとエリクの体から、黒い霧が抜けていく。
「……っ、あ…私は……。」
「はよーッさん、魔道騎士さん――調子はどうだ?」
王宮入りして半刻。
傭兵キースちゃん、お遣いと言う名のファーストミッション早速クリア。
……なあジーク、オッサンもなかなか捨てたもんじゃねェだろ?
まさかのオッサンがチートキャラと言う誰得展開の巻でした。
本当に誰得なんでしょうね(笑)