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11話 巫女の心、オッサン読まず

ジークさんヘタレ度ウルトラMAXの巻。



※お気に入り2266件、評価、感想ありがとう御座います!

「……うぅぐ…」

「………どんな唸り声だよ」

薄暗い部屋の中、ベッドで眠るシャロンを見つめる。

此処は《酒場・オータムボーン》2階。シャロンの私室だ。

何故俺が此処に居るのかと言うと、話は数十分前まで遡る。


* * *


「……店主さん、気を失ってますね…」

巫女、誰に向けた訳でもなさそうな一言が店内に響く。

その時俺は、頭を強打しぐらりと体勢が崩れたシャロンを抱え込んでいた。

抱え込む瞬間、テーブル席で他の奴らと共有していた呪詛除けの御守りからシャロン手が放れそうになったが――その前にもう一つの御守りを持つ俺が彼女を支えたため、間一髪で呪詛にはあたる事は無かった。


「………」

腕の中で伸びているシャロンの間抜けな表情を見て、小さく安堵の息をつく。

…今回の呪詛は魔道騎士エリクの話を聞く限り、呪詛除けの御守りで弾く場合は身体に相当の負担を与えるらしい。

それを考えると、額に負った怪我は間抜けとしか言い様がないが、軽度の怪我で済んで良かった―――何て、俺もこいつに相当甘いなと思うがこればかりは仕方がない。

俺はその場に居た他の奴らに断りを入れ、シャロンを2階の私室に運んだ。


「で、これからどうすんだ?ジーク」

シャロンの部屋から戻った後、初めに切り出したのはアーノルドだった。

先程の珍展開で妙に焦っていた気持ちが落ち着いた俺は、いつものカウンター席に座りながらそれに答える。

「そうだな…もう、こうなったもんは仕方がない。開き直って上手く事が進む様に考えるだけだ。――とは言え、俺はまだそこの巫女様にどれだけの覚悟があるのか知らない。どう動くかはそれ次第だな」

と、手前のテーブル席から小馬鹿にする様な笑い声が聞こえた。

「くく、覚悟って…『暫く会わない』とか宣言してた割に何かある度フラフラ店にやって来るヘタレ野郎に言われてもねぇ」

思いもよらない発言に、ぎくりと一瞬固まってしまった。

「…黙れエレノア。何故知ってる…」

情報屋のくせに余計な情報ベラベラ喋りやがって――そうして周りを見渡すと、何とも不愉快な顔が三つも揃ってこちらを見ていた。

「っ、こらお前らニヤニヤするな!今は巫女の話をだな――」

「えー。オッサンもっとその話詳しく聞きたい」

いい年して駄々こねんじゃねぇよキース。潰すぞ。…と言う視線を相手に送ると、途端、奴は俺を無視して何事もなかった様に話を進めた。

「…だとさー、嬢ちゃん」

まあ、話を進める事自体に異存は無いため、喉まで出かかったツッコミは抑える事にした。


「………」

話を振られた、手前のテーブル席に座る少女が押し黙る。

…彼女自身は異界人ではあるが、魔王の結界が効かない事以外には何の特殊な力もない普通の少女だ。

シャロン程ではないが、俺だって全く同情していない訳ではない。

いきなり覚悟だ何だと問われたところで、回答に困る事くらい分かってはいる。

けれども、俺はこの国の事を第一に考えなければならない立場の人間だ。

目の前の少女の回答次第では、“巫女様”を暫く幽閉するつもりでいた。


「…私は多分、巫女として国の為、大陸の為とこれまで行動しながら、その実すべての物事を他人事の様に捉えていました。……だってそうでしょう。私の世界は此処じゃ無かった」

そう、静かに語り始めた“巫女様”に、皆の視線が集中する。

「ずっと違和感は感じていました。表面上は歓迎されていても、まるで道具の様に扱われたり、どこか余所余所しい態度で接せられてるなあって。…まあ、実際に余所者だし仕方がない。魔王さえ倒せば何とかなる。家に、元の世界に戻してもらえるだろう…そう信じて魔王討伐の話も請けました」

淡々と続くマドカの言葉に、数日前“巫女様”の仕組みを伝えた際のシャロンの表情を思い出した。

「全てが終わればこの世界から解放される。そう信じてましたけど、でも、違った。どんなに探しても、そんな方法この国には無かった。私の世界は此処だけになってしまった。―――今思えば多分、その時から私は誰かに依存しないと立っていられなくなってしまっていたんだと思います」

彼女に巫女の仕組みを伝えた訳ではない。恐らくはシャロンも、そこまでは伝えていなかったみたいだ。

それでもここまで感じ取れるものなのかと、俺はまるで他人事の様に感心していた。

同時に、異界人ではあるが彼女も人間なのだと、本当の意味で理解した。

…きっとシャロンが数日前、あの話を聞いた瞬間に感じただろう事を、今更自覚する自分の鈍さに少しだけ自嘲した。


二十に満たない少女の告白に店内が重い空気に包まれる中、でも、と彼女は続けた。

「今日、此処に――この店に来て良かったと思ってます。店主さんや皆さんと話して、自分がどれだけ甘えていたか…どれだけ現実から目を逸らしていたかを知る事が出来たから。あと、私は今、此処で生きてるんだって実感も持てた」

そうして彼女は、シャロンがいつもそうする様に姿勢を正し、視線を真っ直ぐ此方に向けて。

「私は、皆さんの居るこの国を、私の所為で失いたくない―――ジークさん、お願いします。私にも、この国を護る為に頑張らせて下さい!」

そうして彼女――マドカは、俺達全員に向けて頭を下げた。


そして、少しの沈黙の後。


「……いやぁ、青春ってやつだな…」

「キース、お前…本当に空気読まねェな」

いつ如何なる時も空気を読まないオッサン共の、緊張感のない会話でシリアスムードは終了。

誰だよ「キースさんも偶には空気読むんですよ」とかほざいた馬鹿。全力で矯正してやるから楽しみにしてろ――と、至極どうでも良い事を考えた瞬間、2階で眠るシャロンが身震いしていたなど俺が知る由もなく。

一気に脱力した俺は、幽閉だ何だと考えていた自分自身が急に馬鹿らしくなってしまった。

「まあ…何だ、何かやる気有り余ってるみたいだし、分かった。俺もあんたを信じてみるわ」

「えっ、あれ…?ちょっ、ジークさん何かその言い方軽すぎませんか!?」

折角認めてやったというのに、投げやりな態度の俺に何故かマドカが噛み付く。

それでも宰相様なんですか!?…と続けられ若干イラっときたが、…そう思うならお前も宰相に対する態度改めたらどうなんだとか、何気に順応性高過ぎないかとかも思ったが、とりあえず面倒なんで流した。


「っつー事は、嬢ちゃんもめでたく正義の味方に仲間入りって訳だ!…所でジーク、嬢ちゃんの呪詛は解かなくていいのか?」

って言うか解いちまえば解決するんじゃね?と続けるアーノルドに、突っ込む気力はもう無い。

「ド阿呆、アーノルド。突然嬢ちゃんの呪詛が消えたら、敵さんに俺等が動いとる事がバレるだ、ろ、う、が!」

と、何やら鈍い音がすると共に、アーノルドの声にならない悲鳴が店に響いた。

「イッテェェ!!!!ロッジさんいてぇ!何も全力で拳骨する事ないだろ。容赦無いにも程があり過ぎる…」

「五月蝿いなそこの採鉱コンビ。少し大人しくしないと大事なとこ潰すよ」

「エレノア様まじおっかねぇ」

…相変わらず常連共の漫才は止まらなかったが、無視を決め込み話を進める。

「巫女に呪詛をかけた人間を見極める必要がある」

途端、キースがすぐに反応した。

「あ?見極める?…っつー事は、ある程度絞り込んでるのか?」

「ああ。元々この件が発覚してからずっと調べていたし…実際に魔王討伐に同行していた魔道騎士エリクの話も、今日聞き出せたからな」

「ふうん。一つ足りない呪詛除けの御守りは、あのエリク坊ちゃんが持っているのかい」

そうしてニヤリと笑ったのはエレノアだった。…流石に情報屋だけあって話は早い。


そう、シャロンの父・ダインは現在、再婚した妻と異国を渡り歩いている。

そして定期的に手紙と共に、現地で購入したお土産――大抵が趣味の悪いガラクタだが――を送りつけてくる。

数は決まってシャロンと今は亡きシャロンの母親、そして俺とシャロンの友人の四人分だ。

一つはシャロンの友人・レインが既に使用している為、手持ちは三つ。

その内の一つを、エリクに渡していた。


「エリクの話だと、まず初めに様子が可笑しくなったのは魔王だったらしい。そして呪詛は魔具のある魔法と違って、遠隔からの術の成功率はほぼ皆無。――つまり、そこの巫女が魔王と対峙した瞬間、その場に居合わせた人間が一番疑わしい」

「…と言う事は、ヴィルさん――ヴィルフレッド王子とエリクさん、僧侶のエダ、格闘家のマリーンさん、狩人のジャックさんと、一応魔王のレグルスも…ですね」

当時の記憶を辿っているのだろうマドカが、頭に手を当てながら呟く。

「バカ王子とエリク、僧侶のエダは除外だ。巫女一行に出発当初からいたメンバーはそれぞれ役職持ちばかりだからな。俺自身や部下を使って裏で徹底的に洗ってみたが、怪しい点は特になかった」

まあ、その情報を得る代償に第三バカ王子のふざけた罠に引っ掛かり、そこのちんちくりん娘の世話を一晩させられた挙げ句、王宮中からロリコン呼ばわりされるわシャロンには誤解されるわと散々な目に遭ったがな―――…と、当時の苦労を思い出し、若干やさぐれた目で遠くを見つめてしまった。


「――っつー事は途中参入した残りのメンツを調べる必要があるのか」

「ああ。除外したメンバー以外に関しては情報量が圧倒的に少ない。格闘家と狩人の二人は消息不明だし、王宮に居座ってやがる魔王も動向が掴み難い」

げぇ、とアーノルドが呻く。

「目茶苦茶しんどそーだな、オイ」

「何とかするしかないだろ。一応此方は此方で動いてるが、あまり目立つわけにもいかない。…と言う訳でシャロン、エレノア、ロッジ、アーノルドにも消息不明の二名について情報を集めてもらいたいと思ってるんだが、頼めるか?」

“あたしらは王宮の連中とは違う。別にあんたの駒じゃない”―――先程エレノアから指摘された言葉を思い出す。

全てに納得した訳ではないが、確かに好意で動いてくれている相手に対して、これまでの俺の態度は些か傲慢過ぎたかもしれない。

そんな事を考えていた所為か、いつもよりも少しだけ語気が弱くなってしまった。

(ちなみに、表向きには依頼の形を取っているため、勿論後で謝礼はするつもりだが…今はそう言う問題ではないだろう)

そんな俺の様子を見て、何だかんだでアンタも真面目ねぇ…とエレノアが呆れた。

「まあ、今回ばかりは仕方ないね。あたしも久々に本気でやる事になりそうだ」

「…ああ、宜しく頼む」

たまに行き過ぎるところもあるが、身分や立場に関係なく言いたい事を言い合えるこの店の雰囲気が、俺は嫌いではなかった。

「じゃあ、次はギューン、キース、マドカ、エリクだな。このメンバーについては、王宮で魔王の調査と―――」


そうして、これからの話をいくつか話した後、俺以外のメンバーは各々の帰路についた。

流石に巫女様が夜中に一人で王宮へ戻るのは問題があったため、マドカは俺が送るつもりでいたが、その場に居た全員から店に残るようニヤけ顔で言われた。

…いつの間にかマドカまで常連連中と同じノリで人の反応をおちょくってきたのには呆れを通り越して脱力したが、まあこれで纏わりつかれる事も無くなると思えば幾らか気が楽になった。

そんな彼女は、王宮の隠し通路を把握していると言う爆弾発言を投下しやがった要注意人物・キースに連れられ、王宮へ戻っていった。


で、今に至ると言う訳だ。

…キースの事は明日問い詰める事にする。


* * *


「にしてもよく寝てんな」

全力で頭を椅子にぶち当てたんだから当然と言えば当然なのだが。

額に貼られた酒精綿が如何にも間抜け無様だ。

そんな目の前で恥を晒す馬鹿の顔を見ていたら、いつの間にか手がその頭を撫でていた。


「………ヘタレ野郎、ね…」

数十分前、エレノアに指摘された言葉を思い出す。

“『暫く会わない』とか宣言してた割に何かある度フラフラ店にやって来る”。

そう、俺が一番矛盾していて、自分に甘くて覚悟が固まりきれていない事はよく分かっている。

数日前の件、あれだってそもそもは予想以上にマドカとの噂が広まってしまった事に焦って店に顔を出してしまったのが始まりだ。

で、危険を避けるため、暫くは穏便なやり方で関係を断ち切ろうとして失敗。

結局、誤解させたままフェードアウトする勇気も無く、勝手に王宮を抜け出してまた店に行って。

「確かに、情けないにも程があるな」

もしこれが第三者であれば、俺はそのヘタレ野郎を扱き下ろしていただろう。

「今日にしたってそうだ」

本来、今日この店でシャロンから聞いた情報は、明日王宮にてギューン経由で伝わる筈だった。

それなのに、たかが魔道騎士エリクとその婚約者のやり取りを見ただけで、無性にシャロンに会いたくなったから店に来ただなんて女々しいにも程がある。

どれだけシャロンに依存してるんだ、俺。


「いつか、この甘さの所為で身を滅ぼしかねんな…」

自分で呟いておいて、あまりの洒落にならなさに苦笑する。

きっと、俺とシャロンだけだったら、その事態に陥るのはすぐだっただろう。

でも、今の俺には諌めてくれる人間がきちんといる。

それはシャロンとシャロンの義母が、この酒場でそうした人間と引き合わせてくれたからだ。

「意味の無い事なんて無かったんだな、か」

いつだったか、没落後に何とか立て直したシャロンの父親が言っていた言葉も、今なら素直に受け止められる気がした。


―――そうして、シャロンの柔らかな髪に触れているうちに、俺の意識は夢の中へと消えていった。

巫女の心(本音)、オッサン(空気)読まず(、メインはヘタレる)

そろそろサブタイトルが辛いことになってきました。


メイン二人が一番格好悪いと言う残念な展開が止まりませんが…そろそろ、いい加減脱皮してくれそうな気がしなくもないと信じています。(どっちなんだ)

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