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10話 隠し事はいずれバレます

エレノアさん無双。



※お気に入り2143件、評価、感想恐縮です…!

「――この国を狙っている国の誰かが、私に呪詛をかけた?」

「はい。」


それが、レインから貰った“日記帳”とエレノアさんの情報、そしてロッジさんとアーノルドさんが入手した情報から導き出された結論でした。


「勿論まだ仮説段階の部分もあるので、絶対ではありません。ですが、それでも情報は信頼性の高いものばかりなので可能性は非常に高いです。」

「………。」

まだ信じられない、と言った感じの彼女に、私は一つ一つ持っている情報を説明していく事にしました。


――まずは巫女・マドカ様の呪詛について。

“日記帳”には、呪詛はその年齢や性別によってそれぞれ効力が異なると記されていました。

同年代の男性であれば、まるで熱に浮かされた様に甘ったるい恋人の様に、同年代の女性であれば盲目的に彼女を盛り立てる親友の様に。

既婚者や壮年以上の男性および女性であれば、兄弟や親戚、娘の様に溺愛する様になるとの事。

症状が出だすタイミングは、彼女と接した直後から。共に過ごした時間に比例して、症状は顕著になっていく様で。

そして、どのパターンも総じて言えるのは、ジーク様が言うところの“色ボケして使い物にならない”状態に陥りやすいと言う事でした。

「…心当たりは、ありませんか?」

「……あ、ります。」

戸惑いながらも肯定するマドカ様。スカートを掴む力が、少しだけ強くなりました。

「あー。そういや今日、ジークの執務室行ったらやたらムサい奴や爺さんばっかだったな。」

と、口を挟んだのは本日王宮へ“お遣い”に行ってきたキースさん。

「ジークもその辺は気付いてたんだろうさ。若い奴の方が症状が深刻みたいだし、面倒を避けたかったんじゃないか?」

「かもなー。何かそれっぽい事言ってたわ。」

「………。」

エレノアさんの言葉に納得するキースさん。

マドカ様も心当たりがあるのか、表情が暗くなります。

「おい、嬢ちゃん大丈夫か?」

「…あ、はい。大丈夫です。続けて下さい。」

アーノルドさんの問いかけに何とか持ち直した彼女は、彼にそう答えながら再び俯いていた顔を上げました。

……それでは話を再開しましょうか。


―――次は巫女の呪詛にあてられたと思われる人物に関する噂について。

こちらは“日記帳”とエレノアさんの情報で分かった事ですが…これが思いの外、噂が流れるスピードが早く。

エレノアさん曰く、殆どの場合が当日もしくは翌日には国外まで伝播している事もあり、誰かが意図的に流していると考えて間違いないとの事でした。

「ふざけた内容は兎も角、単なる噂好きな人間が流したにしちゃ正確な情報が広範囲に流れてるからね。…あたしゃ情報屋だ。出所は流石に店主達にも言えないが、何かしらのルートがあるのは確実だよ。」

「…情報屋さん、ですか。」

意外そうにエレノアさんを見つめるマドカ様。…そう言えば、自己紹介していませんでしたね。

「ああ、新たな世界の扉を開く情報屋・エレノアとはあたしの事さ。何か知りたい情報があればいつでもどうぞ。勿論、金は取るけどね。」

「ちゃっかり営業してんじゃねーよ。」

「はいはい、エレノアさん、アーノルドさん。マドカ様が戸惑ってます―――話、進めますよ。」

私はマイペースな常連さんへのツッコミを放棄し、サクサク話を進める事にしました。


―――三つ目は、採鉱員ペアが現場のお仲間さんから入手した北の採鉱場での目撃情報について。

巫女一行が魔王討伐から戻って来た前後から、度々怪しい人影が目撃されているとの事。

複数ある目撃者達の証言をまとめたところ、動向および人数、身体的特徴がほぼ一致しており―――これはまだ、推測の域を出ていませんが、採鉱場付近で定期的に何らかの取り引き、もしくは報告等をしているのではないかと考えられます。


―――そして四つ目は、エレノアさんが入手した諸外国の近況について。

どうやら、数ヶ月前から北方にある同盟国・フローディアにて武装強化等の不穏な動きがあるとの事。


…………そこまで話した時、マドカ様が何か思い出したかの様に、ポツリと呟きました。

「…そう言えば、魔王が潜伏していた城はフローディアとの国境付近にありました。まさか―――。」


「今回の黒幕は間違いなくフローディアだろうな。」

「―――――!」


ふと、此処にいらっしゃる筈のない御方の声が真後ろから降りてきました。

「………まさか。」

振り返れば、其処には――何故か我らが愛しの宰相様が。

…入り口のベルが鳴らなかったと言う事は、いつかお渡しした合鍵で裏口から店に入ったのでしょう。

「………ジーク様…。」

つい先日、暫くは店に来れないと言っていた筈なのに、どうして此方に――。

「おお、ジーク!ジークじゃないか!やっぱり若い餓鬼より味のある大人…。」

「うるせぇ黙れ。」

テンションMAXで出迎えるキースさんの、その言葉が終わるのを待つことなくジーク様の地を這う様な声が店内に響きました。

「え、ジークさん…?」

オンオフの切り替えが凄まじい宰相様の、その劇的な豹変ぶりに付いていけていないらしいマドカ様が一人戸惑っています。

ですが、すみません。今は私もフォローする余裕を失っています。


「で、これは一体どう言う状況なんだ?シャロン。」

そうしてジーク様は私の肩に手を置き、それはもう素敵に凶悪な笑みを下さいました。目は全く笑っちゃいませんが。

「…………ええと。」

心なしか、ジーク様の背後から地鳴りまで聞こえてくる様な錯覚に陥ってしまいます。

「俺、本当は“魔王”って呼び名はアイツの為にある気がする…。」

「奇遇だな、俺もだ。」

アーノルドさん、ロッジさん。お二人共、頼みますから傍観決め込まないで助けて下さい。


「説明してくれよ、なあ?」

「………はい。」

嗚呼、せめて一晩は心の準備がしたかった―――そう思いながら、私はこれまでの経緯をジーク様に全てお話したのでした。


* * *


「この馬鹿。」

全てを聞き終わったジーク様から、見事なチョップと直球なお言葉をお見舞いされました。

「そこの巫女様に情報流すとか、本当何勝手にリスク高いことやってくれてんだよ。どんだけこっちが毒キノコ食べたかの様な訳分からん謎のテンションに巻き込まれるのに耐えたり、水面下で調整したか知ってるだろ、この馬鹿シャロン。」

「……申し訳御座いません。」

此方も勿論、その辺は承知の上での行動でしたが。

それでもジーク様の言い分は十分分かると言いますか…正論なので、ぐうの音も出ません。


そんな私とジーク様のやり取りに止めに入ったのは、黙って静観している常連の皆さんではなくマドカ様でした。

「ジークさん止めて下さい!私は、今日この話しを聞けて良かったと思っています。――自分の置かれている状況も、十分理解しました。」

真っ直ぐにジーク様へ訴えかけるマドカ様の様子に、ジーク様は一瞬だけ見開いて…でもすぐにいつもの無愛想顔に戻しながら再び此方に向き直りました。

「…ふん。まあ、確かに思ったよりは脳みそも根性もあるみたいだな。――だがな、シャロン。お前は彼女に嘘が付けると思うか?事実を知った今、このちんちくりん娘が何も知らぬそぶりを王宮全員相手に貫き通せると本当に思っているのか?」

彼女ならば大丈夫です――出来れば、彼女を信じてそう言い切りたい。ですが、そう言い切れる程には、私はまだ彼女を知らない。

「………。」

今度こそ沈黙してしまった私に、ジーク様が深いため息をつかれました。


「ちんちくりん坊ちゃんに言われてもなあ。」

と、そこに口を挟んてきのはいつもの通りキースさんでした。

「黙れ外野。と言うか大の大人がそんだけ揃っておいて、何で誰もシャロンが暴走すんの止めなかったんだよ。脳まで筋肉なのか?」

「やだこの子マジギレしてる怖い。」

ピリピリとイラつきモード全開なジーク様と、相変わらずな調子のキースさん。二人の落差が凄い事になっています。


そんな二人の様子に一瞬ポカンと置いてきぼりになっている内に、今度はエレノアさんが口を開きました。

「後から来といてキャンキャン煩い坊ちゃんだねえ。これだから器の小さい男は嫌いだよ。」

「な。」

「大体ねえ、アンタいつもならこの位のイレギュラーでここまで取り乱さないだろ。何だかんだ言って店主に関わって欲しく無いだけじゃないか。」

「店主さんに関わって欲しくない…ってどういう事ですか?」

相手が宰相様だろうが遠慮なく発言するエレノアさん。そんな彼女に、マドカ様が何故か片手を挙げながら質問されました。

「ああ、こいつら婚約者同士――と、今は一時的に白紙にしてるんだっけか?まあ、そう言う間柄だからねえ。」

「えっ、そうだったんですか!?」

「エレノア!」

それまでよりも強い調子で責めるジーク様。

マドカ様はやっぱり涙目になってしまいましたが、流石に付き合いの長いエレノアさんはこの程度では怯まない――どころか、余裕のないジーク様を見て嘲る様に笑いながら、どこか愉しげに言葉を続ける。

「ほらすぐ噛み付く。宰相殿はよほど渦中の巫女様と店主を会わせたくなかったんだ。店主もこの何年かで世間知らずっぷりはいくらか無くなってきたけど、何だかんだで甘ちゃんのお人よしだからね。――現に、店主はもうこの嬢ちゃん自身のことが見過ごせなくなってるだろう?」

「え、まあ、はい。…そうですね。」

突然エレノアさんから話を振られて。

一瞬戸惑いながら私が素直にそう答えると、ジーク様が苦虫を噛み潰したかの様な表情で再び大きなため息をつかれました。


「ジーク、あんたさっき言ったね――何故店主を止めなかったのか、って。何勘違いしてるのか知らないが、あたしらは王宮の連中とは違う。別にあんたの駒じゃない。ただの協力者だ。」

尚もエレノアさんの話は続きます。エレノア容赦ねえな、と誰かの呟きが聞こえました。

「あたし達はあたし達が最善と思った事をしているだけだよ。店主が巫女の嬢ちゃんに情報を伝えようとした事も、これからを考えて必要だと思ったから止めなかった。…人間、何も知らないまま・傍観したまま過ごすよりも少しは痛い目見とかないと、本当の意味で幸せになんてなれやしないんだよ――店主も、この嬢ちゃんもね。」

「すげえ、エレノアがまともな事言ってやがる。」

「お黙り。あたしゃいつでも真面目に全力投球だろうが。」

感心するアーノルドさんをエレノアさんが睨む。

それに対してアーノルドさんが「おー、こわ。」と御守りに触れていない方の片手で降参ポーズを取ると、今度はそれを見てエレノアさんが「あんたが余計な一言挟むからだろ。」と呆れる。

そんな二人のやり取りに、ほんの少しだけ張り詰めていた場の空気が和らいで。

そして。


「ジーク様。」

私は意を決して、黙り込んでしまったジーク様に声をかけました。

「ジーク様、勝手な事をしてしまったのは本当に申し訳ありませんでした。ですが、彼女に事実を伝えた事自体は後悔していません。…真実を知らないまま過ごすのは、それを突きつけられた時よりも遥かに不幸です。」

「…シャロン。」

そう。私は以前、母を失ってからの父の苦しみに長い間気付く事が出来なかった。

そして父の借金により家が没落した際には、その事実よりも何も知らずに過ごしてしまっていた自分の愚かさに絶望した。

――そんな私の過去を、目の前のこの人は知っている。

「彼女に事実を伝えたのは私です。その事に関する責任も自覚しています。――これが単なる私の我儘である事も、最悪の場合、皆さんに甚大な影響を及ぼしかけないと言う事も、理解しているつもりです。」

目の前のこの人は自分勝手で独善的な行動が大嫌いだ。

今回の件で見放されてしまう可能性は十分にある。それを考えると体の震えが止まらない。

でも、この件だけはどうしても譲れなかった。

私は真後ろのカウンター席に座るジーク様を見上げる。そして――。

「それでも――お願いします!私と、そして彼女を信じて下さ…。」


ガン!


頭を下げた瞬間、全力で自分が座っていた椅子の背凭れで頭を打ちました。

「…は?おい――シャロン!」

「あっ、ちょ…オイ、まさかこのタイミングでそんなボケかますか!?」

…などと言う皆さんの声を聞きながら、私は意識を手放したのでした――。

精神的なものから始まり物理的に強制終了したフルボッコタイム。

メイン二人はもうちょっと苛めた方が良かった気もしますが、まあ、機会があればと言う事で…!



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