01話 とうとうこの日がやってきました
暇つぶしに流し読む感じで宜しくお願い致します。
※11/3 少し修正しました。
我が国に、 所謂“巫女様”と呼ばれる異界の少女がやってきて半年。
その半年の間に、この世界の勢力図はガラッと変わった。
こちらにやって来たばかりの頃の巫女様は慣れない環境に戸惑うばかりの様でしたが、持ち前の前向きさと溢れんばかりの魔力、魅力で次第に周りと打ち解け始め。
――仲間を引き連れ見事に『魔王から世界を救う』という偉業を達成されました。
ところがどっこい。
いつの間にか味方側だけではなく、敵であるはずの魔王までをも魅了した我らが巫女様の勢いは衰えを知らず。
当初から巫女巫女ウゼェと宣っていた性悪宰相様こと私の婚約者様も、先日とうとう陥落なされました――と、言う噂。
直接本人に確認した訳ではありませんでしたが、ほぼ毎日来ていた昼時のランチにもぱったり顔を見せなくなり。
ついでに噂の内容が日々具体的となり真実味を帯びていくという状況は、否が応にもそれらが事実であると認めざる終えなくなるには十分でした。
―――つまり私は、巫女様に婚約者を寝取られた哀れな女という訳です。
…まあ、そもそもこれまでが可笑しかったのです。
私と宰相様―――ジークフリート様は所謂、幼馴染みというヤツで。
婚約についても親同士が勝手に決めたようなものでしたので、特にらぶらぶな展開も一切なく。
――途中、我が家がまさかの没落という緊急事態に見舞われましたが――苛めっ子とスルーっ子の図式がズルズルと続いていた訳です。
そもそも普通ならウチが没落した時点で婚約破棄ですよね。うん。
――という訳で、街の酒場の女店主は、目の前でいつもの調子でオムレツを召し上がられている宰相様から、本日とうとう婚約破棄を通達されたのでした。
「……婚約を白紙に戻したい。」
「はあ、人が作ったもん食いながらする話でもないですけど。分かりました。」
ざわっ
静まり返っていた店内――いつもはやかましい位に騒がしいんですが――に一瞬、動揺が走る。
「オイオイ、シャロンちゃんあっさり快諾しちまったぞ」
「っつうか、あの噂本モンだったんだな」
「ア゛ーッ馬鹿ジークの野郎、オレの100ガネット返せぇぇぇぇ」
「外野うるさい。賭け事は程々にっていつもいってるじゃないですか。」
「「「サーッセーン」」」
ピシャリと、テーブル席からカウンターにいる私達を見てコソコソと噂する常連さんを窘める。
本来、客が店内で何をしようと自由なのが一般的な酒場のスタンスですが、ここは私の店なので言いたい事は言わせてもらってます。…何故だか、それが評判らしいというのが解せませんが。
いつもの如く反省の色が見えない常連さんの態度に溜め息を吐きながら、私は再びカウンターに座る宰相様に顔を向けました。
「本題に戻っていいか?――水。」
「あ、はい。お待たせしました。――ちょっとまってて下さい。」
そうして、私はカウンター越しに差し出されたコップにいつものレモン水を注ぎながら、淡々と今後の事務的な話をする宰相様の声を聞いていた。
ねぇ、宰相様。貴方はいつも唯我独尊かつマイペースで、他人も婚約者もボロクソに仰る方でしたが、昔から変な所で律儀な方でしたね。
“好きな奴が出来た。婚約は破棄にする。”
…こんな城下町にある小さな酒場の女店主なんて、それだけ言ってバッサリ切ってしまっても可笑しくないのに。
―――悲しさよりも何故か嬉しさが勝って、私は思わずふにゃりと笑ってしまいました。
それを見た宰相様が、眉を寄せかなり複雑な表情になられただとか、その後方にいる常連さんが私達の微妙な雰囲気にまた何かを企てていただとかは―――その時の私はまだ、気付いていませんでした。
らぶはないですが大人の階段は昇っている設定です。(お前)