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真ん中戦争

作者: 木介
掲載日:2026/10/26

物には距離というものがあり、端と端を繋げば必ず真ん中というものが存在します。


これはある夫婦の真ん中を巡る物語。


佐藤道信《さとうみちのぶ》(28)は同級生であった佐藤美紀《さとうみき》を妻に迎え仲良く暮らしていた。


結婚して三年、妻の怒りが爆発したきっかけは【真ん中】

二人で使っていたダブルベットの真ん中を道信がはみ出しているという事だ。


「ねぇ、狭いんだけど…」


そんな美紀の一言、道信は「別にいつも通りだけどな」と言葉を返す。


「最近太ってきたからスペースが少なく感じるんじゃない」


そんな美紀の棘がある言葉に、道信は腹を立てつつもさっきの一言は余計だったかと思い「じゃあもっと端にいくよ」とかけ布団を意図せずグイッと引っ張ってしまう。


(しまった)


そう思った時には既に遅く、美紀はかけ布団の三分の二を占める程に引っ張り返す。


この行為に道信は腹を立ててしまい「寒いんだけど」と真ん中になるようかけ布団を引っ張り返す。


「あんたが先にやってきたんでしょ!」


そう言って美紀はまたかけ布団を引っ張った。


「そんな引っ張らなくて良いだろ」


「良いじゃない私はこっちで狭い思いして我慢してるんだから」


「我慢してるってなんだよ、そう君が言うから端に寄っただろ!」と語尾が強くなる。


「私が言ったから端に寄った? じゃあなに? 私が悪いわけ?」


「なんでそう話が飛躍するんだよ…」


「飛躍してないわよ! 私が我慢すればいいんでしょ!」


こうなると道信はどうしていいのか分からず黙るしかない。

ただこの沈黙に耐えきれない道信は寝室を出てソファーで眠るのだった。


翌朝、道信が「おはよう」と言っても当然挨拶は返ってこない。

会社でも気落ちしたまま働き、家に帰るのが億劫になる。


(美紀の好きなシュークリームを買って帰ろう)


機嫌をとる為の作戦であった。


「ただいま」


「…」


「昨日はごめん、君が我慢してくれてたのに自分勝手な事を言って」


そう言うと美紀と視線が合い「別にもういいわ」と不機嫌そうに言う。

その言い方にまた腹を立てたら、昨日の二の舞だと道信はシュークリームを差し出す。


「これ駅前で売ってたんだ、君の好きなシュークリーム…、これで許してくれる」


「…あなたが悪いって思ってるのよね?」


美紀のこちらを試すような物言いに心臓が高鳴る。


「うん」


「じゃあ良いわ、シュークリームも二人で食べましょう」


道信はご機嫌とりに成功し、やっと笑顔を見せた。


(ありがとう! シュークリーム様!)


美紀と夕食を共にし、風呂に入って、テレビを観る。いつもの日常が戻ってきたのだ。


そう彼が寝室に入るまでは…。


「あの~、美紀、ベットの赤いテープってなに?」


「あぁ、あれは真ん中よ、あれがあったらもう揉めないでしょ?」


道信が見たのは綺麗に真ん中で分けられたベット、彼女は許してくれた訳ではない、ただ対策したのであった。


「そうだけど…、こんな事しなくても…」


「なに?」


何か言いたい事でもあるのかという彼女の威圧に道信は押し黙る。

そんな窮屈さもあって(もうそれぞれのベットで寝た方が良いのでは?)と考え始めていたが、道信はそれを言えば心も離れてしまうような気がしてならない。

何故なら喧嘩した際に彼女からその提案が無かったのが愛情の証であると思うからだ。


そんな二人に転機が訪れたのは数週間後。


「私、妊娠した」という美紀からの報告であった。二人は喜ぶと共に準備を進める。

そこでかつて一緒に寝ていた大きなベットを美紀が使い道信は新しく買った一人用のベットを使う事になった。


道信が久しぶりに一人で使うベットは小さいながらも広く感じる。だがそれも一瞬の感情だ。

そんな寂しさなど気にする暇が無い程に忙しく、時間は早々と過ぎ去っていく。


気が付けば子供はもう三歳。

ダブルベットにあった赤いテープも懐かしい。


「懐かしいなこのテープ、まだ貼ってあったんだ」


道信は笑いながら言う。


「確かにもういらないのにね」


美紀は笑いながら答える。


道信はそんな美紀の顔を見て「久しぶりに一緒に寝る?」と囁く。


「えーっ、昔より太ったから真ん中からはみ出しちゃうんじゃない」


美紀はお腹を突っつき、かつてのセリフを言う。


「俺、そんな太ったかな?」


道信は自分の腹をつつく美紀の手を取り「嫌か?」と真剣な目で伝える。


「嫌じゃないよ」


美紀の返事を合図に二人の気持ちが高まった時。


「ママ~パパ~」と子供が扉を開けた。


二人は焦りを隠すように子供の側に行き「どうしたの?」と優しく声をかける。


「眠れないから一緒に寝ていい?」


二人は顔を見合せ「じゃあママのベットが広いからママと寝よっか」と美紀は子供の手を引いた。


すると「パパも一緒」と子供は道信の手を引く。


「流石に三人は…」という道信の言葉を聞く前に「ママのベットってなんでテープが貼ってあるの」と既に子供の興味は他所へ移っている。


「あぁ、これは真ん中が分かるように昔貼ったのよ」


「へぇ、じゃあ真ん中は僕の場所!」


子供は真ん中を陣取り二人が隣に来るのを待っている。

そんな子供の純粋さに負けて二人は子供を抱き締めるように眠るのだった。


          ~数年後~

そんな過去の事を思い出し二人は仲良く話していた。


すると先程まで仲良く寝ていた子供達が突然喧嘩を始めている。

「ママ~」と下の子が泣きついてきて為、美紀が慰めている間に道信は上の子の話を聞く為、寝室へ向かう。


そして二人は口を揃えて言う。


「優太が!」「お兄ちゃんが!」


「「真ん中取った!!」」


(了)

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