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砂の散歩道

AIとの共同執筆です。

「……これ、カイルのタグです」

私は宿で書き上げた報告書に、血の染みついた銀の認識票を添えて、そっと受付カウンターに置いた。溶けた指を包帯で固めた私の手は、まだ微かに震えている。窓口に座る彼女は、差し出されたタグをそっと両手で包み込むように受け取ると、その傷跡を愛おしむように見つめた。

「受理しました。……本当にお辛い役目でしたね。カイル君、あなたのことを本当の兄のように慕っていました」

彼女の瞳に一瞬だけ浮かんだ、深い慈しみ。だが、彼女は祈るように目を閉じてから、震える指先で次の一枚を差し出してきた。

「休ませてあげたいのですが、あいにく人員が足りなくて……。次は湿地帯を抜けた先の草原まで、一人の斥候を案内してください。戦闘はありません。のどかな散歩ですよ、臨時職員さん」

「……またか。カイルの件が終わったばかりだ。少しは休ませろ」

「わかっています、無理を言っているのは……。でも、あなたの『記録』が必要なのです。お願いします」

彼女の悲しげな懇願に、私は毒気を抜かれた。

「……わかったよ。カイルだって、俺がいつまでも塞ぎ込んでるのは望まないだろうしな」

そうして私は、斥候の女性・ミナと出会った。彼女は明るく、どこか世間知らずなところがある娘だった。道中、彼女は草原に咲く花を愛で、私に「カイルさんの分まで、私たちが生きて帰りましょう」と微笑みかけてくれた。

(そうだよな。毎回あんな目に遭うわけじゃない。俺も、あいつの分まで……)

そう思って、彼女の歩調に合わせ、一歩踏み出した時だった。

「……あら?」

ミナが、ほんの少し足を取られた。草原の中に、ぽっかりと空いた、ただの湿った泥溜まり。

「もう、服が汚れちゃう……」

彼女は困ったように笑いながら、泥に埋まった右足を抜こうとした。だが、膝まで埋まった脚が、一向に抜けない。それどころか、彼女は戸惑った顔のまま、じり、じりと、その泥の中に吸い込まれていった。

「ねえ、ちょっと……抜けないわ。ねえ、冗談でしょ……?」

ミナの顔から、急速に血の気が引いていく。私は慌てて周囲を見回したが、そこにはロープも、差し出せる頑丈な枝一本も落ちていなかった。不用意に近づけば、私の足元も、この「底なし」の餌食になるだろう。

「……あ、待って。沈んでる……沈んでるわ、私!?」

のどかな風の音に、ミナの震える悲鳴が混じり始めた。泥は彼女の腰を飲み込み、胸元まで到達した。わずか数分前まで、彼女は「帰ったら、カイルさんの思い出話をしましょうね」と励ましてくれていたのに。

「待って……嫌よ、助けて! 嫌だ、私、こんなところで……!」

ミナは必死に両手を伸ばしたが、泥の表面を空しく掻くだけだ。私が近づこうとすると、彼女は涙を溢れさせ、縋るような瞳で私を見つめた。

「こっちに来ないで……! あんたまで死んじゃう……! でも、でも行かないで、お願い……怖いよ……助けて、ねえ……!」

私は、ただ泥の淵に膝をつき、必死に彼女の名を呼び続けた。しかし、指先が触れる前に、泥は冷酷に彼女を飲み込み続ける。一呼吸ごとに、彼女の細い肩が、鎖骨が、ゆっくりと泥の水平線に消えていく。

「……そんなぁ……助けてよ……。まだ、死にたくない……。ねえ、嘘って言ってよ……」

ミナの瞳から、大粒の涙が零れ、泥の上に落ちた。彼女の声は、次第に「ごぶっ」という湿った音に混じっていく。泥が顎を隠し、震える唇に触れた。彼女は最期まで、私に向けて震える指先を伸ばし、泣きながら私を見つめ続けていた。

「……ご……ふっ…………あ…………」

最後の一息。彼女の鼻先まで泥が達したとき、彼女は私を見て、何かを言おうとした。だが、その言葉が音になる前に、泥は彼女の鼻を、そして見開かれた絶望の瞳を、完全に覆い隠した。

泥の表面には、ミナが最期まで抵抗していた証の「気泡」が、ボコッ、ボコッと数回浮き上がった。そして、それもすぐに消え、そこには再び、青い空の下で美しく揺れる草原だけが残された。

私は、彼女が沈んだ泥の前に座り込み、しばらく動けなかった。手元には、彼女が沈む直前に摘んでいた、一輪の野花が残されている。草原を吹き抜ける風が、あまりにも優しすぎて、涙が止まらなかった。

私は震える手で、彼女が落とした泥まみれのバンダナを回収し、ギルドへと向かった。


「何が…簡単な依頼だっ…くそっ…また…死んだぞ…ぐっ、ううっ……」

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