強さに宿る誇り
「……どうやら、気に入ってもらえたみたいね」
くすっと笑いながら、美英がそう言った。
その場でくるりと一回転すると、衣の裾がふわりと広がる。
「そ、そうかな……?」
静淑は頬を淡く染め、自分の服を見下ろした。
「派手……すぎない、よね?」
「商国のお姫様なんだから、派手な服には慣れてるでしょ?」
「……正直に言うと、私はもっと地味な服のほうが好きなの」
二人のやり取りを聞きながら、俺はようやく声を取り戻した。
「……二人とも、とても綺麗だ」
それだけ言うのに、なぜこんなにも時間がかかったのか分からない。
「ありがとう」
美英は俺を上から下まで眺めると、にやりと笑った。
「あなたも、すごく似合ってるわよ」
「この子の服を選んだのは、私よ」
母親が胸を張ってそう言う。
「そんなに誇らしげにならないでください」
桃花が小さくため息をついた。
「それよりも、そろそろ祝宴が始まる時間ね。
主役が遅れて登場するなんて格好がつかないわ。三人は先に行ってちょうだい」
母はそう言って、ほとんど追い立てるように俺たちを外へ送り出した。
「私たちは自分たちの支度をしてから向かうから、気にしなくていいわ」
そうして俺たち三人は、屋敷内の木陰に覆われた回廊を歩くことになった。
正装しているため、いつものように手を繋ぐわけにはいかない。
代わりに――
美英が俺の片腕に、静淑がもう片方に、そっと腕を絡めてきた。
……この状況のほうが、よほど心臓に悪い気がするのは、気のせいだろうか。
俺は深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。
(落ち着け。今日は――俺が勝ち取った日だ)
強さを示し、誇りを得た日。
そして――
この二人と並んで歩ける、その重みを噛みしめる日でもあった。
俺は、いつもより少し落ち着かない気分になっていた。
理由が新しい衣装のせいなのか、それとも両脇を歩く二人との距離が近すぎるせいなのかは、自分でも判断がつかない。
どうやら静淑も同じだったらしく、彼女は頬を赤らめている。
一方で美英はまったく気にした様子もなく、世界一と言っていいほどの満面の笑みを浮かべていた。
食堂へ向かう途中、何人もの族人とすれ違った。
歩いているだけで視線を集めるのはいつものことだが、今日はその熱量が明らかに違う。
それも、俺が妙に意識してしまう原因の一つだったのだろう。
やがて食堂へ到着すると、呉金壽長老が俺たちを迎え、主卓へ案内した。
「本日は、君たち三人が主賓だ。
とりわけ呉剣、お前の勝利は呉一族に大きな名誉と威信をもたらした。
今夜は存分に、その栄誉を味わうといい」
金壽長老は穏やかな笑みを浮かべてそう言った。
「はい。三長老・金壽様のお言葉、ありがたく頂戴します」
俺は武礼をもって応えた。
「金壽長老、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
そう切り出したのは美英だった。
「前長老が追放された今、首座長老の地位はどうなるのですか?」
前長老――呉偉は一族を裏切り、その罪によって追放された。
俺が彼の不正に気づいたのは偶然に近かったが、どうやら父は最初からすべてを把握し、時機を待っていたらしい。
「……そうだな。聞くところによれば、その座は呉孫が継ぐ可能性が高いようだ」
その言葉を聞いた瞬間、美英の目がふっと虚ろになった。
「……呉孫は、その役目に相応しくありません」
静かで、感情の起伏を感じさせない声だった。
まるで、何かに導かれているかのように。
金壽長老の目が見開かれる。
「彼が首座長老になっても、何一つ良い結果には繋がりません。
たとえ年功があったとしてもです。
首座長老には、あなたが就くべきです。
そして次の長老には、林教官を推薦します」
……これは。
俺は息を呑んだ。
美英が、また“視ている”。
この場にいる誰よりも確信に満ちた言葉で、未来を語っていた。
「……この件は、有師様にお伝えします。し、失礼いたします」
呉金壽長老はそう言うと、どこか落ち着かない様子で席を離れた。
「ええ、お願いします」
美英はそう答え、何事もなかったかのように微笑んだ。
さっきまでの様子が嘘だったかのようだ。
静淑が、俺と視線を交わす。
――やはり、美英はまた“視た”のだろう。
「……さっき、何を見たんだ?」
俺は小声で尋ねた。
美英には、未来の一端を垣間見る力がある。
幼い頃は、俺以外にその力を信じる者はいなかった。
だが、彼女の“視”が何度も一族を救い、地位を高めてきた今では、その能力は疑いようのない事実として受け入れられている。
とはいえ――その仕組みは、誰にも分からない。
本人ですら、だ。
美英は微笑んだ。
だがそれは、俺がこれまで一度も見たことのない、ひどく悲しげな笑みだった。
「……話したくないこと。だから、ごめん、聞かないで」
その一言で、俺は察した。
気にはなる。
だが、彼女がここまで言う以上、理由があるのだろう。
俺はそれ以上、何も聞かなかった。




