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呉剣(ウー・ジエン) VS 周麗華(ジョウ・リーファ)

すでに周麗華ジョウ・リーファの戦い方は分析し終えている。

だから俺は、彼女に主導権を渡さなかった。

試合開始と同時に、俺は地を蹴った。

一気に距離を詰める。ほんの数秒で、彼女の間合いに入る。

普通なら、ここで攻撃に移るだろう。

だが――俺は違った。

高く跳び上がり、周麗華の頭上を飛び越える。

直後、下から強烈な蹴りが放たれた。

もし前進し続けていたら、間違いなく肋骨を砕かれていただろう。

俺は彼女の背後に着地し、そのまま後頭部へ向けて真っ直ぐ拳を突き出す。

だが――

周麗華は、まだ**鍛体境たんたいきょう**にいるにもかかわらず、信じられない反応速度と柔軟性を見せた。

俺の拳が届くより早く身を沈め、拳は空を切る。

そのままの流れで、彼女は俺の手首を掴んだ。

足を大きく開き、体を支点にして――

次の瞬間、俺の体は肩越しに宙を舞っていた。

風切り音が耳を打つ。

投げ飛ばされる一瞬、ふと――彼女の香りが鼻先をかすめた気がした。

空中で体をひねり、着地。

膝を曲げ、衝撃を殺す。

彼女は俺の手首を掴んだままだったが、即座に手を離し、距離を取った。

まるで、俺を警戒する獣のような目で。

俺は立ち上がり、彼女と向き合う。

「……すごい反射神経ね」

周麗華が、ようやく口を開いた。

「君こそ、鋭い直感をしている」

俺はそう返し、再び構えを取った。

――この一戦、簡単には終わらない。

彼女は脚と体幹の力を使って、俺の体勢を崩すつもりだったはずだ。

だが、どういうわけか――俺が手首を狙うことを見抜いていた。

手首は脆く、感覚も鋭い。

一瞬でも使えなくすれば、大きな隙を作れる。

俺はそのつもりで、彼女の手首を無力化する算段だった。

だが彼女は、それを許さなかった。

薄い面紗の向こうは見えない。

それでも――彼女が微笑んでいるような気がした。

「あなたも、かなり強いわね。十四歳だなんて、信じられない」

俺は肩をすくめた。

「どうも。でも、今は戦ってる最中だろ? 褒め合うのは、勝負が終わってからにしよう」

「ええ、そうね」

俺は一気に踏み込み、シンプルなワンツーを放つ。

狙いは鳩尾。

予想通り、攻撃は払い落とされた。

その直後、低い蹴りから高い蹴りへと繋がる連撃が飛んでくる。

速い。

あまりにも速い。

まるで、足先で空気を切り裂いているかのようだ。

俺は後退を余儀なくされる。

地面を踏み鳴らし、脚に溜めた運動エネルギーを一気に解放する。

前方へ跳び――周麗華に届く前に、空中で脚を振るう。

蹴りはかわされた。

だが俺はそのまま着地し、体を低く沈め、反撃が来る前に後脚を跳ね上げる。

――いわゆる、蹴り上げだ。

だが彼女は、俺の足が届く前に距離を取った。

(……賢いな)

彼女は分かっている。

受け止めれば、腕を痛める。

そしてその腕は、投げに使う重要な部位だ。

だから――

受け流せない攻撃は、最初から避ける。

そういう戦い方を、彼女は身につけている。

周麗華の戦い方は、呉美瑩のものとよく似ていた。

どちらも、真正面から攻撃を受け止めることはしない。

力で防ぐのではなく、最小限の動きで受け流し、衝撃を殺す――そういう型だ。

この少女は、本能を極限まで研ぎ澄ましている。

相手の攻撃を「捌けるか」「捌けないか」を瞬時に見極めることができる。

だからこそ、最初の一合で俺が手首を狙うと分かったのだろう。

俺たちは、攻撃と反撃を何度も繰り返した。

周麗華は反射神経が鋭く、脚力も並の鍛体境の修行者を遥かに上回っている。

どれほど過酷な鍛錬を積んできたのか、想像もつかない。

俺自身、六年間の地獄のような修行でこの身体を作り上げてきた。

だから分かる。

彼女の力は、丹薬だけで得られるものじゃない。

……もっとも、多少は使っているだろうが。

避けきれなかった蹴りを、俺は両腕を交差させて受け止めた。

鈍い衝撃が全身に響き、思わず顔を歪める。

――重い。

防御ごと砕かれそうな一撃だった。

気のせいじゃなければ、腕の骨に細かなひびが走った感覚すらある。

「……すごい蹴りだな」

俺は息を詰めたまま、絞り出すように言った。

「ありがとう。私は……脚を……毎日鍛えてるの」

そう言って、彼女は再び脚を振り下ろす。

だが、その頃には俺はすでに距離を取っていた。

彼女の足が地面を叩き、床の石材がガラスのように砕け散る。

(やっぱり、蹴りが致命的だ)

さっきの一撃――

もしあの時、身体を天材地宝で鍛え上げていなかったら、腕は確実に折れていた。

俺は腕を軽く振って、まだ動くことを確認する。

……よし、戦える。

そうして、再び間合いへと踏み込んだ。

◆◆◆

呉美瑩は、呉剣と周麗華の戦いを見つめながら、瞳の奥にきらりとした輝きを宿していた。

本当なら――この場で戦っているのは自分でありたかった。

そう思わないわけがない。

けれど、あれほど強い相手と剣が渡り合っている呉剣の姿を見るのも、それはそれで胸が高鳴る。

心臓が、どくん、どくんと強く打つ。

拳と脚がぶつかり合う音に合わせて、鮮やかなスタッカートのような鼓動が刻まれる。

――また、恋に落ちたみたい。

……え?

また?

「周麗華って、本当に強いよね。呉剣、大丈夫かな?」

不意にかけられた声に、呉美瑩は我に返った。

隣にいたのは侯景殊だ。

「大丈夫よ」

呉美瑩はにっこりと微笑んで答える。

「ほら、見て。困ってるように見える?」

侯景殊はすぐには答えず、唇をきゅっと結んだまま目を細めて、闘技場を見つめた。

ちょうどその時、呉剣が強烈な蹴りを肋に受けていた。

侯景殊は思わず小さく顔をしかめる。

だが次の瞬間――

呉剣はその足を掴み、周麗華を勢いよく振り回し、投げ飛ばした。

その時、侯景殊ははっきりと呉剣の表情を見た。

首を振り、苦笑する。

「……ううん。むしろ、楽しそう」

呉美瑩は、これまで見たこともないほどの笑顔を浮かべている呉剣を見て、思わず目を細めた。

あれは心の底からの笑みだ。

激しい戦いの最中に、普通の人間が浮かべられるような表情ではない。

「でしょ?」

呉美瑩は胸を張り、誇らしげに笑った。

「私たちが昔、斑雪獅子はんせつししに遭遇してからね。あれ以来、剣は全力を引き出してくる相手との手合わせを楽しむようになったの。ここまで本気で暴れられるのは久しぶりなんだから、楽しくないわけがないでしょ」

「……なるほど。言いたいことは分かる気がする」

少し間を置いて、侯景殊はそう答えた。

「とはいえ、心配になる気持ちも分かるわ」

呉美瑩は視線を闘技場へ戻し、素直にそう認める。

「剣は周麗華よりも多く攻撃を受けてる。正直、今の戦いでは不利なのは確かよ」

彼女は淡々と、しかし的確に分析を続けた。

「周麗華の戦い方はね、見た目以上に厄介。動きは巧妙だし、威力も高い。主に素早くて重い蹴りで攻めて、手は受け流しに使う。投げ技も多いけど、通用しないと判断したら無理に狙わない賢さがあるわ」

一瞬、呉美瑩は考え込むように顎に指を当てる。

「……動きから察するに、双刀そうとうか、もしかしたら鉄扇てっせんの扱いも学んでるかもしれないわね」

鉄扇とは、戦闘用に用いられる金属製の扇だ。

斬撃武器として使えるだけでなく、強力な技を放つ媒介にもなる。

伝説では、鉄扇を用いた一撃で山を断ち、海を裂いたという天人境の修士すらいたと語られている。

もし武器の使用が許されていたなら――

呉剣に勝ち目はなかっただろう。

修行が進めば武器の重要性は下がっていくが、少なくとも鍛体境、そして飢餓境や霊動境においては、良い武器が勝敗を分けることも珍しくない。

――もっとも、神器クラスは別だけど。

呉美瑩は心の中でそう付け加えた。

「……最悪。聞いたら余計に心配になってきた」

侯景殊が深くため息をつく。

「ごめんごめん」

「……その割には、全然悪いと思ってない顔してるよね」

「えへへ」

呉美瑩は悪びれもせず、にっこりと笑った。


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