武美影 VS 周璃華
大切な人たちの声援を背に受けながら、**武美影**は思わず笑顔になり、闘技台の中央へと歩み出た。
「ずいぶんと賑やかなお仲間ですね」
そう言った**周璃華**の声は、その容姿と同じく澄んでいて、耳に心地よく響いた。
**武美影**はにっこりと笑う。
「ええ。みんな元気なんです。でも……私たちの関係については、少し誤解がありますよ」
「ほう?」
「**剣**は、私が結婚する人です。それから、**侯静姝**も彼と結婚して、私の妹になる予定なんです」
そう胸を張って言い切る。
「なるほど。お二人とも**武剣**と婚約している、というわけですね。この年齢で婚約するのは珍しくありませんが……少し気が早いとは思いませんか?」
「いいえ、全然。**剣**と結婚することは、物心ついた頃からの夢でしたから」
なぜここまで強く彼を想うのか、その理由は自分でも分からない。
それでも、気持ちが変わることはなかった。
**武美影と武剣**は、赤子の頃からずっと一緒だった。
彼は闇の中の光であり、拠り所であり、安らぎそのものだった。
彼のそばにいる時だけ、心から安心できる。
それだけで十分だった。
「そうですか。でしたら、あなたの夢を否定するつもりはありません」
**周璃華**は柔らかく微笑む。
「それほど強く何かを想えること……正直、少し羨ましいです。では――言葉はここまでにして、良い勝負を楽しみましょう」
「はい! ぜひ、いろいろ教えてください!」
**武美影**は、この少女が強いことを理解していた。
今大会で、間違いなく最強の相手。
簡単に勝てる相手ではない。
だからこそ――胸が高鳴る。
自分がどこまで成長したのか。
どこまで通用するのか。
それを確かめる、最高の機会だった。
**周璃華と武美影**は、それぞれ構えを取る。
周氏一族の長老が審判として前に出て、観客、審判、そして互いに礼をさせた。
「――それでは、始め!」
試合開始の合図と同時に、武美影は前へと駆け出した。
足の母趾球を軸に体を回転させながら一気に間合いを詰め、力強い蹴りを放つ。
周璃華は避けなかった。
彼女は脚を上げ、脛でその蹴りを受け止めると、流れるように脚をずらし、攻撃の軌道を横へと逸らす。
体勢を崩した武美影がバランスを取ろうと伸ばした手を、周璃華は逃さず掴み、そのまま投げ飛ばそうとした。
だが――
武美影は体をひねり、両足で着地する。
膝を深く曲げ、闘技台の床と平行になるほど低い姿勢だ。
二人の手はまだ繋がっていた。
有利な体勢とは言えなかったが、武美影は腕、脚、そして体幹の力を総動員し、逆に投げを打つ。
周璃華の体が宙を舞う。
しかし、彼女もまた見事に足から着地した。
――それは、ただの序章に過ぎなかった。
二人は間髪入れずに攻防を繰り返す。
武美影の戦い方は、蹴りと投げを主体とするものだった。
対する周璃華も似た型ではあったが、こちらはより攻撃的で、拳の数が圧倒的に多い。
武美影は相手の動きを読み、迎撃することに重きを置く。
一方、周璃華は猛攻で主導権を握り続け、油断した瞬間に組み付く。
「……はぁ、はぁ……本当に……上手いわね……」
距離を取った武美影が、息を整えながら称賛する。
周璃華もまた、胸を大きく上下させながら微笑んだ。
「あなたも……悪くない……」
「……私が……あなたに……負けると思わないで」
「ふん。私だって……負けるつもりはないわ」
周璃華は、やはり才能の塊だった。
それは良い――とても良いことだ。
この女性が将来どんな役割を担うことになるのか、武美影にはまだ分からない。
だが、この若き名門の令嬢が、いずれ自分、武剣、そして侯静姝にとって重要な存在になる――その確信だけはあった。
この一戦は、自分自身を試すためだけのものではない。
周璃華に、その覚悟と資質があるのかを見極めるための戦いでもあった。
――自分たちの隣に立つ資格があるのかどうかを。
二人は一瞬その場で静止し、次の瞬間、再び同時に踏み込んだ。
低い蹴り、高い蹴り。
矢継ぎ早に繰り出される足技が空を切り、互いに迎撃される。
足と足がぶつかる、鋭い衝撃音が闘技場に響き渡った。
――本当に強い……!
剣の蹴りですら、ここまで重くはなかった……!
受け止めるたび、骨の奥まで震える。
すでに腕がじんじんと痺れ始めていた。
武美影は戦法を切り替える。
攻撃を受け止めるのではなく、回避に重点を置いた。
戦闘中に未来を視ることはできない。
だが、相手の手足の微かな動きから、次の攻撃を読むことはできる。
それでも――
いくつかの拳と蹴りは、すり抜けてきた。
武美影は跳躍し、後方宙返りを行う。
その勢いを利用し、空中から周璃華の顔面へと蹴りを放った。
普通の相手なら、これで終わっていた。
だが、周璃華は一歩引いてそれをかわし、空中にいる武美影へと高く蹴り上げる。
「隙だらけよ!」と周璃華が叫ぶ。
「ふんっ! それはこっちの台詞よ!」
武美影は鼻で笑い、相手の蹴りに自らの蹴りを合わせた。
空中では力は出ない。だが、最初から力比べをするつもりはなかった。
相手の蹴りの力を利用し、さらに高く跳ね上がる。
体を翻し、数メートル離れた位置に着地した。
「そんなに曲芸が得意だとは思わなかったわ」
突進してくる周璃華のヴェールが揺れ、一瞬だけ美しい紅い唇が覗く。
「でも――兎みたいに跳ね回るだけじゃ、私からは逃げられないわよ」




