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ウー・ジエンの匂い

ひと月の謹慎期間は、思っていたよりも早く過ぎた。

朝、部屋の扉が叩かれ、召使いが「宗主がお呼びです」と告げたとき、

俺は嬉しすぎて袍を着忘れたまま飛び出しそうになった。

慌てて服を着て帯を結び、外へ出る。

建物の前に立った瞬間、俺はしばらくのあいだ動けなかった。

ただ、空気を吸い込みたかったのだ。

朝日が木々の上から昇り、

蝉の声があちこちで響き、

溶けた雪の匂い、木の匂い、湿った土の匂い――

自由の匂いがした。

しばらく深呼吸してから、ようやく歩き出す。

冬は終わり、春が訪れていた。

庭では分家の人々が種をまき、小川も凍結が解けて水の音を響かせていた。

そのとき――

「ジアァァァァァァン!!」

「え? メイ――ぐほっ?!」

声が聞こえたと思った瞬間、俺の腹に強烈な衝撃が走った。

息が全部抜けて、俺は後ろへ吹っ飛び、頭を石畳にぶつけた。

視界に星が散る。

「ウー・ジエン! ウー・ジエンでしょ!? 本物でしょ!? 夢じゃないよね!? えっと……ふむふむ……」

……鼻を近づけて、匂い嗅いでない!?

「うんっ! この匂い! やっぱりウー・ジエンの匂いだよ!」

「……メ、メイ。再会は嬉しいけど……息できない……」

目の焦点がようやく元に戻り、俺は思わず笑ってメイの髪を撫でた。

この絹みたいな手触り…ひと月ぶりだ。

俺が髪を撫でるあいだ、メイは胸に顔を埋めてすり寄ってきた。

しばらくすると、彼女は俺の胸に顎を乗せ、にやりといたずらっぽく笑った。

「いま、キスしたい」

「やめといたほうがいいよ。みんな見てるし」

メイはむぅ〜っと頬をふくらませてすねた。

「分かってるもん。ただ言ってみただけだよ」

「それならいいけど」

ずっとこうしているわけにもいかず、俺はメイにどいてもらい、

二人で並んで会議堂へ向かった。

父さんはすでに来ていて、母さんとタオフア叔母さんも一緒だった。

母さんは穏やかに微笑んでいたけれど、父さんは相変わらず表情が固く、

タオフア叔母さんはいつもどおり俺に冷たい視線を向けていた。

……一ヶ月会わなくても性格は変わらないんだな。

俺は跪き、頭を下げて言った。

「お呼びにより参りました、父上」

メイも俺の隣に跪き、

「叔父さまのお言いつけどおり参りました」

と頭を垂れる。

父さんは腕を組んだまま、低い声で告げた。

「お前たちの謹慎は今日で終わりだ。好きに動いてよい。

だが――今回の件を肝に銘じておけ。

私の命に背けば、どうなるかをな」

俺とメイは顔を見合わせ、つい笑ってしまったが、

ここで無礼はできない。

俺たちはそのまま跪いた姿勢で、

右手を左手の掌に重ね、深く頭を下げた。

主君に対する正式な礼だ。

「はい、父上」

「承知しました、叔父さま」

「では、二人とも行ってよい」

父上はため息のような声でそう言った。

俺とメイはもう一度だけ深く頭を下げ、そそくさと会議堂を出た。

外に出ると、朝日が降りそそぎ、その光を全身で浴びながら自由の味をかみしめた。

周囲では、皆がそれぞれの一日を始めていた。

庭の手入れをしている者、どこかへ向かって歩いていく者、

そしていくつかの中庭では年上の一族が朝稽古をしていた。

「これからどうする?」と俺。

「ん〜…」

メイは首を傾げて少し考え、それからぱっと笑った。

「朝ごはん?」

「朝ごはんだな」

俺は手を差し出し、メイは迷わずその手を取った。

指を絡めて、俺たちは並んで食堂へ向かった。

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