天より授かりし贈り物
小箱の中には、色鮮やかな無数の薬草で作られた小さな寝台があり、その中央に――
水晶で作られたかのような、美しい花が静かに横たわっていた。
花弁は透き通り、天井の燭台から差し込む光を受けて、きらきらと輝いている。
数えてみると、花弁は全部で十五枚。
この花は、年月を重ねるごとに花弁が増えると聞いている。
つまり――この花は、相当な年月を生きてきた霊花ということになる。
会場は、しんと静まり返っていた。
俺が何を贈ったのか、皆が固唾を呑んで見守っている。
……にもかかわらず。
周莉華は、しばらくの間、何も言わなかった。
沈黙が長引くにつれ、周囲からひそひそと囁き声が漏れ始める。
「……さて、何を贈ったんだと思う?」
そう言ったのは、煌びやかな絹の法衣を身にまとった男だった。
その装いは、俺がこれまで着たどんな衣よりも豪奢だ。
一目で分かる。
あの男は、斬市の人間じゃない。
しかも、かなり力のある一族の出身――少なくとも、呉家よりは上だろう。
「ふん。呉家の人間だろう? この辺りの小さな一族じゃないか。大したものを用意できるとは思えんな」
「周莉華ほどの立場なら、帝都の宝飾品か、高級な丹薬が普通だ。
小さな一族に、そんなものが用意できるはずがないだろう。どうせ安物の小細工さ」
……聞こえないふりをしようとした。
だが、連中は――
あえて、こちらに聞こえる程度の声量で話している。
まるで、俺に聞かせたいかのように。
まるで、「お前をどう見ているか、思い知らせてやる」と言わんばかりに。
遠方から来た連中は、驚くほど無遠慮だった。
……とはいえ。
俺は、彼らを完全に責めることもできなかった。
――天は、弱き者に平等など与えない。
そんな言葉が、ふと胸に浮かんだ。
静淑の顔は真っ赤になっていた。
今にもあの連中を殴り飛ばしそうな勢いだ。
幸いにも、美影が彼女の腕を掴んで抑えていたが――
……正直に言えば、今の美影の表情のほうが、王女よりもよほど恐ろしい。
そしてようやく。
周莉華は、自分が呼吸をしていなかったことを思い出したかのように、
大きく息を吸い込んだ。それは、もはや溜め息というより――息を呑む音だった。
「……これは……聖百合……!」
彼女の声が、会場に響く。
「花弁の数から判断して……少なくとも百五十年以上は経っています。
こんなもの……大陸中を探しても、そう簡単に見つかるものじゃありません!」
周莉華は花から俺へと視線を移し、その目をこれ以上ないほど見開いた。
「……どこで、これを手に入れたのですか!?」
――どうやら、ちゃんと驚かせることはできたらしい。
正直なところ、周莉華は「驚かされる側」よりも、
「人を驚かせて楽しむ側」の女だと思っていた。
そんな彼女に、こんな表情を浮かべさせたことが――
少し、いや、かなり誇らしい。
……そして。
その驚いた顔が、妙に――魅力的に見えたのも事実だ。
……待て。
それって、良いことなのか?
このままだと、また夢に出てきそうな気がする。
いや、夢なら……夢なら問題ないよな?
――夢、だよな?
俺は小さく一度だけ頷き、
自分自身を納得させるように、心の中でそう言い聞かせた。
……もしかして、美影は最初から、こうなるって分かってたんだろうか?
どちらにせよ――
これからは、周莉華をもっと驚かせてやるのも悪くないかもしれない。
騒ぎは、周莉華の驚きの声をきっかけに、一気に最高潮へと達した。
皆、我先にと集まってくる――もっとも、表向きは「たまたま近くに来ただけ」という顔をしながら、必死に贈り物を覗き込もうとしているのだが。
周祖や周家の長老たちですら、目を見開いてその花を凝視していた。
「聖百合だと? 本気か?! 呉家が、どうやってこんな希少なものを――!」
「双牙山脈から持ち帰ったに違いない……だが、周辺はすでに一里残らず調べ尽くしたはずだぞ」
「まさか、さらに上……山頂まで行ったのか?」
「馬鹿を言うな。あの双牙獣が、人間を縄張りに入れるはずがない。
となると……聖百合が眠る秘境の洞窟でも見つけたのかもしれん」
「なんと見事な贈り物だ……! 素晴らしい、実に素晴らしい!」
そのやり取りは、熟成された美酒のように、俺の意識の上を心地よく流れていった。
さっきまで俺と贈り物を見下していた連中が、手のひらを返したように称賛している。
……正直、溜飲が下がる思いだ。
隣に立つ静淑と美影は、誇らしげに胸を張っていた。
まるで、羽を広げて見せびらかす二羽の孔雀みたいだ。
――さて。
どう答えるべきだろうか。
周莉華は、期待に満ちた眼差しで俺を見つめている。
ここで黙り込むわけにもいかない。
危険を冒して手に入れた、と大げさに語るべきか?
……いや、それは違う。
確かに俺が見つけたが、実際にそれを手に入れたのは――
桃華阿姨、呉桃華だ。
俺一人の功績にするわけにはいかない。
なら――
ここは、謙虚にいこう。
「……ただ、運が良かっただけです」
俺はそう言って、意味ありげに微笑んだ。
周莉華は、しばらくの間ぽかんと俺を見つめていたが――
やがて、満開の向日葵のような、明るく楽しげな笑みを浮かべた。
「まあ……そうなんですね? それはそれは、驚きました。
今日までに、すでに何百もの贈り物をいただいていますけれど……正直に言って、これを超えるものは一つもない気がします。
本当に、素晴らしい誕生日の贈り物をありがとうございます」
「どういたしまして」
俺は伝統的な抱拳礼を取った。
「この聖百合が、あなたの飢餓境への突破を――
少しでも、より円滑なものにしてくれればと願っています」
「……良い言い方ですね」
周莉華は、くすりと笑った。
「もし『突破の助けになれば』と言われていたら、少し腹を立てていたかもしれません。
でも、『円滑に進むように』と言った。
数年後には、あなたはきっと、とても優れた交渉者になりますよ」
俺は肩をすくめる。
「あなたの才能を知っているからこそ、そう言っただけです。
突破そのものに助けは不要でしょうが、移行を楽にする補助があるに越したことはありませんから」
「……確かに、その通りです」
彼女は何度も頷いた後、ふと美影と静淑に気づいた。
その瞬間、またしても彼女の瞳がきらりと輝く。
「建、あなたの隣にいる素敵な二人を、紹介してくれませんか?
呉美影とは試合で当たりましたけれど、ちゃんとお話しする機会がありませんでしたし」
……紹介していいものだろうか?
普通なら、ここで一歩引いて、
彼女が次々と訪れる来賓から祝福を受ける流れになるはずだ。
だが――
すでに伝統は、あちこちで投げ捨てられている。
それに、選択の余地もなかった。
俺が「少し待ってはどうか」と言い出す前に、
美影が静淑の手を引いて、ぐいっと輪の中へ踏み込んでしまったのだから。
「また会えて嬉しいわ」
美影は、堂々と胸を張って言った。
「あなたに負けてから、ずっと話してみたいと思っていたの。
――それと、ひとつ言っておくけど。
あの勝利で、私が完全に負けたと思わないでほしいな」
彼女の瞳が、闘志で輝く。
「私が飢餓境に到達したら、もう一度挑むつもりだから。
その時は、ぜひ受けてくれる?」
……相変わらずだ。
一切の遠慮も、恥じらいもない。
それが――呉美影という女なのだ。
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