装いは覚悟の証
十八歳の誕生日に出席するための衣装選びには、想像以上に多くの意味が込められている。
それは一族の者であろうと、ただの一般家庭の出身であろうと変わらない。
十八になるということ自体が、吉兆とされる特別な出来事だからだ。
本来であれば、どの家でも家族総出で祝うものだが、
一族に属しているかどうかで、その祝い方は大きく異なる。
呉一族では、誰かが十八になるたびに、一族全員が集まってその者の成人を祝う。
特に、過去の筋力測定で五千を超える数値を出していた者の場合は別格だった。
その数値を持つ者は、十八歳の節目で飢餓境へ突破できる可能性が高いと見なされているからだ。
そういう者が十八を迎えると、一族は試練場に集まり、
突破に挑む若者を皆で鼓舞する。
もし突破に成功すれば、その場で盛大な宴が開かれる。
……では、失敗した場合はどうなるのか。
この世界は、強さを称える世界だ。
突破に挑む者には、それだけ大きな重圧がのしかかる。
成功と失敗は、名誉と屈辱の分かれ道だった。
失敗したからといって一族を追放されるわけではないが、
成功者が称えられる一方で、失敗者が忘れ去られることは珍しくない。
社会における立場は、飢餓境へ突破できたかどうかで決まる。
しかも、その機会は――たった一度きりだ。
だからこそ、十八歳の誕生日は祝福であると同時に、
覚悟を試される日でもあった。
もちろん、こうした扱いは一族に属する者だけの話だ。
一族に属さない者であっても、家族が突破に成功すれば祝われはするが、その規模は比べものにならない。
国家の強さは、その土台の強さにある。
そして、その土台の強さとは、すなわち一族や宗門の強さだ。
弱い国は、容赦なく付け込まれる。
中には、より大きく、より強大な国に飲み込まれてしまうところさえある。
そうした運命を避けたいのなら、国は強くあらねばならない。
だからこそ、この世界では強さが崇められ、弱さは恥とされる。
霊石を基準にしても価値のある一族や宗門であれば、
見込みのない者に貴重な資源を費やす愚を犯さない。
今回準備している誕生日の主役は、周一族の令嬢――周麗華だ。
そのため、関わっているのは俺、梅英、静淑、そして一族の長と長老たちだけだった。
とはいえ、準備が簡略化されているわけではない。
むしろ、身内の誰かを祝う時以上に、念入りだった。
「本当に、こんな堅苦しい服を着る必要があるのか?」
俺がそう尋ねると、母は迷いなく頷いた。
「ええ、間違いないわ。周一族の方々も、きっと同じような装いよ。
十国同盟の出身ですもの。あちらでは、これが今の流行――らしいわ」
「……“らしい”、ね」
思わずため息が漏れる。
俺は大きな鏡の前に立ち、母に手伝ってもらいながら衣装を身に着けていた。
内側は黒、外側は赤。
何層にも重なった布は、すべて金色の帯でまとめられている。
しかも、ただ重ねているだけじゃない。
どちらの層も、普段着ている服よりずっと厚手だ。
まるで、鉛の重りで体を縛られているみたいだった。
……動きにくい。
本当に、これで一日過ごすのかと思うと、気が重くなる。
正直に言って、この服は好きじゃなかった。
蒸し暑いし、やたらと暖かいし、何よりデザインがどうにも仰々しい。
鏡に映る自分は、まるで見栄を張った孔雀みたいだ。
だが、母は一歩も引かなかった。
そうなると、俺に拒否権はない。
「はい、これで完成よ」
母は一歩下がり、顎に手を当ててじっと俺を眺めると、満足そうに小さく唸った。
「ええ、やっぱりよく似合っているわ。とても凛々しいわね。
いっそ、これを普段着にしたらどうかしら?」
「やめてくれ……」
俺は心底疲れたため息をついた。
着替えを終えた俺は、自室を出て、すぐ後ろをついてくる母と一緒に父の応接間へ向かった。
そこでは、すでに父が式典用の装いに身を包んで待っていた。
いつにも増して険しい表情をしていたが、
その不機嫌さの一部は、間違いなく今の服装のせいだろう。
俺と同じ仕立ての衣装――
ただし、父のものは紫と黒だった。
一瞬だけ、俺と父は視線を交わした。
言葉はなかったが、不思議と通じ合った気がした。
――ああ、分かる。
――これはキツい。
同じ境遇に置かれた男同士にしか分からない、妙な共感。
生まれて初めて、父とこんな形で心が近づいた気がした。
「あなたも、もう着替えは済んでいるのね。
桃華は、梅英ちゃんと静淑ちゃんと一緒かしら?」
母がそう尋ねると、
「ああ、そうだ」
父は短く、それだけ答えた。
母は手を叩いてにっこりと笑った。
「それじゃあ、私は桃華のところに行って、あの二人の支度を手伝ってくるわね。そのあとで、桃華と一緒に私たちも着替えないといけないし。きっと時間がかかるから、二人はここで待っていてちょうだい。――それと、覗きは厳禁よ?」
最後の一言に、父は露骨に顔をしかめたが、
母は反論される前に部屋を飛び出してしまった。
楽しそうな笑い声が、去ったあともしばらく廊下に響いていた。
俺は部屋の中央に立ち尽くし、どうしていいか分からなくなった。
時間を潰すにも、何をすればいい?
何気なく父の方を見ると、
父は母が出ていった扉を見つめながら、どこか柔らかな笑みを浮かべていた。
――あ。
俺の視線に気づいた父は、慌てたように咳払いをする。
「……お前の母は、実に自由奔放な女性だ」
「知ってるよ。だから結婚したんだろ?」
俺がそう言うと、父は一瞬言葉に詰まり、
「う……そ、そうだ。そういうことになるな」
と、歯切れ悪く認めた。
顔を逸らした父の頬は、わずかに赤くなっていた。
「私は昔から、伝統を重んじる人間だ。
呉家を、名誉と威厳、そして力をもって導くことを第一に考えてきた」
父は静かに続ける。
「だが、お前の母はそういうことにまるで頓着しない。
彼女が気にするのは、ただ一つ――自分の愛する者たちが幸せかどうか、それだけだ」
少し間を置いて、父は小さく息を吐いた。
「私は……その在り方を、ずっと尊いと思ってきた。
彼女と結婚したのは、私が人生で唯一、己のために下した決断だ。
そして――後悔はしていない」
以前、母から少しだけ聞いたことはあった。
だが、こうして父自身の口から聞くと、その言葉の重みはまるで違った。
俺は少しだけ迷ってから、慎重に口を開いた。
まるで、壊れやすいものに触れるかのように。
「……いつかでいい。
父上と、母上がどうやって恋に落ちたのか……教えてもらえたら、嬉しいです」
その言葉が、父の胸にどう届いたのかは、まだ分からなかった。
「……まあ、話しても構わんだろう。ただし、あまり面白い話ではないがな」
長い沈黙のあと、父がそう言った。
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥にじんわりとした温かさが広がった。
八歳のとき、あの力の測定で予想外の結果を出して以来、父は以前よりも俺を気にかけてくれるようになった。だが、それでも――「親しい」と言えるほどの関係ではなかった。
それでも今は、確かに感じる。
父との距離が、少しずつ縮まっているのを。
もしかしたら、いつかは。
誇りだけではなく、純粋な「愛情」をもって父を見ることができる日が来るのかもしれない。
その後、二人で待つ時間はとても長く感じられた。
それでようやく理解した。なぜ母たちが、夜に宴があるにもかかわらず、朝早くから支度を始めていたのか。
俺がこの応接間に入ったとき、太陽はまだ低い位置にあった。
それが今では頭上に昇り、すっかり午後を示している。
それでも――彼女たちは、まだ姿を見せない。
父も内心では焦れているのだろう。
腕を組み、目を閉じ、表情は落ち着いている――が、床を叩く足先だけが、一定のリズムで動いていた。
あれは、父が苛立っているときの癖だ。
やがて、
障子が静かに滑り開き、四人の人物が部屋へと足を踏み入れた。
その瞬間、
俺の唇に浮かびかけていた言葉は――すべて、消え失せた。




