俺の父はツンデレだ
数日が過ぎた。
俺の熱は発症してから二日後に下がり、さらに一日しっかり休んだことで、完全に回復した。
俺は呉美影と侯静淑に礼を言った。
二人は、俺が回復するまでの三日間、ずっと側について看病してくれていた。父上は例外的に、二人が俺の部屋に泊まることまで許してくれた。もっとも、二人は俺の寝台ではなく、床で寝ていたのだが。
夜中に何度か目を覚ましたとき、二人が俺の寝台に額を預けるようにして眠っているのを見たことがある。首を痛めないか心配になったが、翌朝には二人とも何事もなかったような顔をしていたし、俺自身、そのときは心配を口にできるほど余裕がなかった。
呉美影は、看病の見返りだと言ってキスを要求してきた。
一方の侯静淑は、顔を真っ赤にしてしどろもどろになりながら、「婚約者だから手伝っただけです」と言うだけだった。しかも、その間、一度も俺の顔をまともに見られなかった。
……正直、彼女が自分の気持ちに正直だとは思えなかった。
だが、これ以上彼女を困らせるのも忍びなくて、俺はその言葉をそのまま受け取ることにした。
回復した翌日、父上は俺と呉美影、侯静淑の三人を応接の間に呼び出した。
俺たちは玉座のような椅子の前に跪き、父上の言葉を待った。父上の背後には、二人の母上が控えていた。
「回復したようで何よりだ。数日後には周莉華の誕生日がある。その場に出る以上、万全の状態で臨んでもらわねばならん。呉家の嫡子として、相応の品位をもって振る舞え」
思わず、苦笑が浮かびそうになったが、なんとか堪えた。
やはり父上が一番気にしているのは、俺の体調そのものよりも、誕生日の宴に支障が出るかどうかなのだ。
父上が俺を大切に思っていないわけではない。
ただ――この人は、常に「家」を最優先に考える人なのだ。
すべては、呉家のため。
俺は視線を横に流し、呉美影を盗み見た。
彼女は怒りで小刻みに震えていて、今にも声を上げそうだった。
――まずいな。
そう思って、俺はそっと手を伸ばし、彼女の手を握った。
呉美影は一瞬、俺の手を見てから俺の顔を見上げ、それから小さくため息をつき、何も言わずに黙り込んだ。
……少しは我慢できるようになった、ってことか。
昔なら、俺が止めようとしても関係なく口を出していただろう。
それとも、俺が彼女の扱いに慣れただけなのかもしれない。
「明日は街へ向かう」
父上は、こちらのやり取りなど見えていないかのように話を続けた。
「周家の令嬢の十八の誕生日だ。お前たち三人には、それに相応しい装いが必要になる。今持っている服では話にならん。新しく仕立てさせる」
社交の場には、服装や立ち振る舞いに厳格な礼法がある。
だが、それ以上に――洗練された衣装は、家の財力を示すものだった。
裕福な家ほど、衣装は華やかで気品に満ちる。
身分と序列がはっきりしたこの社会では、服装一つで立場が伝わり、周囲からの評価さえ左右される。
「承知しました、父上」
「……うむ。では、呉美影、侯静淑。二人は下がれ。息子と二人で話がある」
呉美影は明らかに不満そうな顔をしたが、俺が目で制すると、それ以上は何も言わなかった。
二人は揃って一礼し、静かに部屋を出ていく。
部屋に残ったのは――俺と父上だけだった。
母上も、呉桃華も、その場には残らなかった。
母上は父上の頬に軽く口づけをすると、足早に部屋を出ていく。
呉桃華はそれとは違い、父上の肩にそっと手を置いてから、優雅な所作で母上の後を追った。
二人がどこへ向かったのかは分からないが、少なくとも母上は呉美影と侯静淑のところへ行くのだろう。
――たぶん、からかいに。
そう思うと、少し可笑しくなった。
情景が目に浮かぶようだった。
しばらく沈黙が流れた後、俺は口を開いた。
「それで……父上。俺に何のお話があったのでしょうか?」
「……そ、その、だな……お前の病のことだが……その……本当に、もう……よくなったのか?」
言葉に詰まりながら話す父上を、俺は思わず不思議そうに見つめてしまった。
首を少し傾げてじっと見ていると、父上は耐えきれなくなったように視線を逸らし、頬をわずかに赤らめた。
……え?
もしかして――照れてる?
その瞬間、以前母上から聞いた話を思い出した。
父上は常に一族のことを最優先に考えてきたせいで、自分の感情を表に出すのがとても苦手なのだと。
本心を口にすることが滅多になく、そのせいで「どう思っているのか」が分かりづらい人なのだと。
それを思い出して、胸の奥が少し軽くなった。
父上は、俺の病が一族の体面にどう影響するかだけを心配していたわけじゃない。
本当は、ちゃんと俺のことを案じてくれていたのだ。
ただ――それをどう表現すればいいのか分からなかっただけ。
「はい。もう大丈夫です、父上。ご心配いただき、ありがとうございます」
そう言って微笑むと、
「……うむ。なら、よかった」
父上はそう答えたが、最後まで俺の方を見ることはなかった。
扉の向こうから聞こえてくる蝉の鳴き声だけが、
この広い応接間に満ちる静けさを、やけに鮮明に際立たせていた。




