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奇襲作戦

傭兵たちに対処するために立てた作戦は、驚くほど単純だった。

まず俺が奴らの野営地に姿を現し、追いかけさせる。

その隙に、桃華、梅英、そして静淑がそれぞれ一人ずつを奇襲する。

そして、修行者であるリーダーは――当然、桃華が引き受ける。

単純だが、だからこそいい。

複雑な作戦というのは、段取りが増えれば増えるほど、どこかで必ず歯車が狂う。

些細な想定外が致命的な失敗につながることもあるし、柔軟性にも欠ける。

相手が予想と違う動きをした瞬間、すべてが崩れる危険性も高い。

その点、単純な作戦は強い。

やることが明確で、判断も早い。

今回の相手には、それで十分だった。

傭兵の野営地を見つけるのは簡単だった。

木々の隙間から漏れる焚き火の明かりを探すだけでいい。

問題があるとすれば――夜だったことだ。

視界は悪く、足元もおぼつかない。

それでも、ようやく目的地に辿り着いた。

木々の向こうから、傭兵たちの声が聞こえてくる。

「クソが……フェンの野郎、あっさり殺されやがって。

これで俺たちは四人だぞ」

「あいつ、あの女を完全に舐めてたな。

こんな辺境に、あそこまで殺しの技に長けた女がいるとはな……」

「ふん、相手が暗殺者だろうが関係ねえ。

次はこの斧で腹をかっさばいてやる。

へへ……この森を血で染めてやるのが楽しみだ。

きっと最高の芸術作品になるぜ」

……聞いているだけで胸糞が悪くなる。

だが、怒りで動きを乱すわけにはいかない。

ここからが本番だ。

俺は静かに息を整え、闇の中で一歩、前に出た。

俺は目を閉じ、深く息を吸って気持ちを落ち着かせた。

傭兵と関わるのは初めてだ。あの下品で荒々しい話し方には、正直なところ強い嫌悪感を覚えていた。

(できる。俺ならできる。

深呼吸して、心を落ち着けろ……。

しっかりしろ、呉建。今さら怖気づくな)

十分に冷静さを取り戻したところで目を開き、桃華たちの方を見る。

俺は小さく頷くと、足を前に運び始めた。

木々の陰から一歩踏み出し、焚き火の光の中へ姿を現す。

最初、傭兵たちは俺に気づかなかった。

だが、会話が途切れ、数瞬遅れて視線がこちらに向く。

俺はわざと目を見開き、驚いたような表情を作った――そして、すぐさま踵を返して森の中へ駆け出した。

「クソッ! 今のガキじゃねえか?!

ちくしょう! 追え!!」

背後から地面を踏み鳴らす音が響く。

俺は一気に速度を上げ、木の根を飛び越え、木々の間を縫うように走った。

そして――桃華が待ち構えている地点を通過する。

(頼むぞ……)

数秒後、背後から驚愕の叫び声が上がった。

振り返ると、すでに桃華は李狼と交戦していた。

李狼は首元から何本もの針を引き抜いている最中だった。

「クソ女が! ぶっ殺してやる!!

パパが直々に教育してやるぜ!!」

「下品な野蛮人の話し方を教えるつもりなら、遠慮するわ」

桃華の声は、血が凍りつくほど冷たかった。

残る三人の傭兵たちは、明らかに判断に迷っていた。

ボスを助けるべきか、それとも――。

その迷いを断ち切るように、梅英と静淑がそれぞれ木陰から飛び出し、同時に襲いかかる。

そして俺は――

一番近くにいた一人へと駆け寄り、相手が反応する前に叩き潰そうとした。

――だが、相手は甘くなかった。

この傭兵は俺と同じく鍛体境だったが、生死を賭けた戦いの経験値がまるで違う。

本能が刃物のように研ぎ澄まされているのが、動き一つでわかる。

俺が踏み込んだ瞬間、男はすでに後ろへ跳んでいた。

攻撃は空を切り、次の瞬間、男の刀が大きく弧を描いて振るわれる。

左肩から右腰まで、一気に斬り裂かれそうになった。

(――近すぎる!!

なんであんな重そうな刀を、あんな速度で振れるんだ!?)

咄嗟に地面を転がり、土と枯葉にまみれながら跳ね起きる。

――が、その瞬間、目の前に刀の切っ先が迫っていた。

「っ!!」

歯を食いしばり、体を捻って横へ逃げる。

完全に主導権を奪われていた。

年長で、経験豊富な男の連続攻撃。

斬撃、突き、また斬撃。

俺は後退を強いられ、必死に足を動かすしかなかった。

――これは、稽古でも試合でもない。

一撃一撃が、殺すための攻撃だ。

相手から放たれる殺気と血の匂いが、空気そのものを重くする。

(……この感じ……)

かつて呉飛と戦ったときの記憶が脳裏をよぎる。

だが、比べものにならない。

呉飛ですら、ここまで露骨な殺意と血の渇望は放っていなかった。

男の振り下ろしを屈んでかわし、反撃に拳を繰り出す――

だが、拳は空を切った。

男はすでに横へ退いており、返す刀で再び斬りかかってくる。

――ヒュッ。

空気が悲鳴を上げるような音。

俺は必死に跳び退いた。

だが、完全には避けきれなかった。

左腕に、鋭い痛み。

視線を落とすと、前腕に一本の切り傷が走り、血が流れていた。

「ガキのくせに、なかなかやるじゃねえか!」

傭兵は歪んだ笑みを浮かべ、叫ぶ。

「だがよ――

本気出したらどうなるか、今から教えてやる!!」

心臓が強く脈打つ。

(……落ち着け、呉建。

ここで折れたら――終わりだ)

俺は血を拭う暇もなく、拳を握り直した。

「本気になる」と言ったわりに、男は強くも速くも巧くもならなかった。

ただ――無茶になっただけだ。

たぶん、焦っていたんだと思う。

俺の予想が正しければ、あいつはすでに我慢の限界だった。

――それなら、好都合だ。

金教官が言っていた。

焦る相手ほど、隙を晒す。

必要なのは、ただ一瞬の好機を逃さないこと。

その瞬間は、すぐに訪れた。

俺はわざと後退し、背中が木にぶつかるところまで下がる。

男が好機とばかりに刀を突き出した、その瞬間――

身を沈めた。

刀は俺の背後の木に深々と突き刺さり、柄元まで埋まった。

引き抜くには、一拍の時間が必要だ。

――今だ。

俺は一気に間合いへ踏み込む。

足を大きく開き、拳を体の内側へ引き絞る。

腰と肩、拳を同時に回転させ、全身の力を一点に集める。

「――はあああああッ!!」

叫びとともに放った拳は、男の胸骨――胸の中心に叩き込まれた。

――バキッ。

鈍く、嫌な音が森に響く。

「ぐあああああッ!!」

男は悲鳴を上げながら後退し、刀を取り落とし、胸を押さえた。

俺はその手首を掴み、力任せに引き下ろす。

膝をついた男の後頭部を掴み――

そのまま、木へ叩きつけた。

――ドンッ。

鈍い音。

男はそのまま崩れ落ち、動かなくなった。

樹皮には大きな凹みと、赤黒い血の跡が残っている。

「……はぁ……はぁ……」

深く、何度も息を吸う。

全身がアドレナリンで熱くなっていた。

足元を見ると、男は完全に意識を失っている。

(……やった。

俺……本当に、やったんだ)

だが、いつまでも余韻に浸っている暇はなかった。

俺はすぐに顔を上げ、

呉梅英と侯静淑の戦況へと視線を向けた。

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