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尚王国の頂

Episode 113: 尚王国の頂

「じゃあ……属性についてはどうなの?」

静淑がそう尋ねてきた。

「属性は、実は少し分かりやすいかな」

俺は話を本筋に戻しながら、軽く首を振った。

「陰と陽に向き不向きがあるのと同じで、修炼者にも相性のいい“元素”がある。大多数が持つのは五行――水、木、火、土、金だ。それ以外にも、光、闇、氷、影みたいな、比較的珍しい属性もある」

俺は一度息をつき、続ける。

「それからさらに希少なものとして、鋭、貫、荒廃みたいな属性もある。そういうのは本当に数が少ないから、対応した修炼法自体がほとんど存在しない。だから修行を始めたばかりの人は、基本的に特定の属性に特化した修炼法を選ぶことになる。……ああ、完全に肉体鍛錬に特化した修炼法の場合は別だけどな。そういうのは陽属性だ」

「じゃあ、あの筋肉ムキムキのマッチョたちは、みんな陽の修炼法ってこと?」

静淑が少し引いた表情で聞いてくる。

「たぶんね」

美影があっさり答えた。

静淑は顔をしかめた。

「それはちょっと……なりたくないかも」

「大丈夫だと思うよ」

俺は苦笑しながら言った。

「君がああいう体になるとは思えない」

そして、話を戻す。

「最後の決め方は、自分がどんな戦い方をするか、あるいはしたいか、だ。近距離型か、中距離か、遠距離か。拳より武器を使いたいのか。正面から行くタイプか、それとも搦め手を好むか。攻撃重視、防御重視、カウンター主体……同じ属性の修炼法でも、戦闘スタイルに向き不向きがある」

静淑は何度も頷きながら真剣に聞いていたが、やがてふうっと息を吐き、腕を前に伸ばして顎を机に乗せた。

どうやら、俺の説明を聞くだけで結構疲れたらしい。

……こうして改めて考えると、修炼法を選ぶというのは、本当に人生を左右する選択なんだと実感する。

だからこそ、焦らず、慎重に考えなければならないのだろう。

「うぅ……自分に合った修炼法を選ぶのって、すごく大変そうね」

静淑はそう零してから、ぱちりと目を瞬かせて姿勢を正した。

「でも待って。さっき“多くの人は最初、五行のどれかに特化した修炼法を選ぶ”って言ってたよね? それって、後から修炼法を変えることもできるって意味?」

「もちろん、できなくはない。ただし――」

背後から、低く落ち着いた声が割り込んできた。

「呉爺爺!」

俺と美影は、同時に声を上げた。

「話を遮ってすまん。だが、どうしても耳に入ってしまってな。少しばかり、知っていることを付け加えたくなった」

そう言って、呉爺爺は長い髭を撫でた。

呉爺爺――本名をそう呼ぶ者はいないが――は、俺が生まれるよりも前から呉家の蔵書閣を守ってきた管理人だ。穏やかで優しい老人で、今日は薄橙色の、少し生地の薄い漢服を身にまとっていた。その服越しでも、引き締まった体つきがはっきり分かる。

(さすが修炼者だ……)

顔は年を経た羊皮紙みたいでも、身体はしっかりしている。

修炼者は常人よりも老いが遅く、全盛期を長く保てる。呉爺爺はとっくに全盛期を過ぎているはずだが、それでもなお、修炼者がどれほどの体を維持できるかを示す好例だった。

「いえ、とんでもありません。呉爺爺のお話は、いつでも大歓迎です」

美影が微笑みながら言った。

「ぜひ、教えてください」

「そうか。それでは――」

呉爺爺は軽く咳払いをした。

「修炼法を切り替えるというのは、極めて慎重に行わねばならん。以前の修炼法とかけ離れたものを選べば、修为が後退する可能性がある。最悪の場合、一生治らぬ後遺症を残すことさえある」

俺は思わず背筋を伸ばした。

「たとえば、火属性の修炼法から氷属性の修炼法へ切り替えたとしよう。長年、熱を帯びた陽の気を蓄えてきた者が、急に冷たい陰の気を取り込めば、修炼速度が落ちるだけでは済まん。身体そのものが適応できず、丹田や経脈を損なう可能性が高い」

その言葉には、重みがあった。

修炼法を選ぶということが、どれほど重大な決断なのか――改めて、胸に刻まされた気がした。

静淑はごくりと喉を鳴らし、顔から血の気が引いていくのがはっきりと分かった。

俺と美影はすでにこの話を知っていたが、それでも内心では同じように緊張していた。

「陽の修炼法から陰の修炼法へ切り替える方法があることを、言い忘れてるわ」

美影が口を挟んだ。

「ただし、その方法は……これまで蓄えてきた陽の気をすべて体外へ排出して、修为そのものを壊す必要があるの。つまり、一からやり直しってことね」

「その通りだ」

呉爺爺は深くうなずいた。

「修炼者にとって、一からやり直すというのは、後遺症を負うのと同じくらい致命的だ。修炼において最も重要なのは若さだ。若い頃にどれだけ強くなれるかで、将来どこまで登れるかが決まる」

呉爺爺は少し自嘲気味に笑った。

「たとえば、わしを見てみろ。わしは六十五歳だが、到達しているのは飢餓境第六小境に過ぎん。アニマ境に至れる可能性は、ほぼゼロだろう」

静かな言葉だったが、その重みは胸に響いた。

「だが、お前の父――呉有志は違う。彼は三十代で阿修羅境に到達し、つい最近、第八小境へと進んだ。これもすべて、周氏との新たな取引のおかげだ。……その縁を繋いだのは、お前だな、呉剣」

思わず、俺は背筋を正した。

「だからこそ、彼は五十を越えてもあれほど若々しく見えるのだ。次の境地へ進む可能性も、わしよりはるかに高い。ただし――もし彼が、もっと若い頃に阿修羅境へ至っていれば、その道はさらに容易だっただろうな」

修炼とは、ただ強くなることじゃない。

“いつ”強くなるか――それが、すべてを左右するのだと、改めて思い知らされた。

呉爺爺の講義が続く中、俺は自然と父のことを考えていた。

阿修羅境――それは、尚王国のような小国では修炼の頂点と見なされている境地だ。その理由の大半は、資源の不足にある。

より大きく、より繁栄した国家――たとえば夏王朝のような国々では、修炼資源が桁違いに豊富だ。だからこそ、他国では阿修羅境に到達していてようやく「宗門に入る最低条件」とされる。

同じ境地でも、置かれた環境によって意味がまったく違う。

そう考えると、父がどれほど異例の存在なのか、改めて実感させられた。

「話を戻そう」

呉爺爺はそう言って続けた。

「たとえば、火属性の修炼法から荒廃デソレーション系の修炼法へ切り替える場合、そこまで難しくはならん。どちらも陽の気を基盤としているからだ。結局のところ、最初に選ぶ修炼法というのは、自分の体質、属性適性、そして陰陽の傾き――それらを慎重に考慮した上で決めるべきものなのだ」

呉爺爺の講義は、いつもながら学ぶことが多い。

聞くたびに、自分がどれほど狭い世界しか知らなかったのかを思い知らされる――それでも、こうして知識を積み重ねていけること自体が、何よりの財産なのだと俺は思った。

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