Final Stage レッサードラゴン
『 Final Stage』
モニターに表示された文字がゆっくりと消え、続いて最後の対戦相手のステータスが表示された。
名前:レッサードラゴン
身長:827cm
体重:1,040kg
ベンチプレス:測定不能
スクワット:測定不能
デッドリフト:測定不能
握力:測定不能
垂直跳び:2m
50m走:5秒01
そして、実物が登場した。
4足歩行で、地響きを立てながら入場するドラゴン型のアンドロイド。
そもそものアンドロイドの定義を人造人間とするなら、これをアンドロイドと呼んで良いのか疑問が残る所だ。
人間対大型パワーショベルのような様相である。
「勝負になるのか?」
「これ相手にも武器を使わないの?」
そんな環境のざわめきを受け、シガキは高らかに宣言した。
「武器はいらない!だが、技だけは使わせてもらう!」
そして、右手の握り拳を作り、高らかに叫んだ。
「プロテクション!」
それに反応し、白い甲冑が青に染まった。
本来はスキルの発動にポージングも発声も必要は無いのだが、ここは彼特有の演出である。
少し遅れてモニターに、スキルの概要が表示された。
スキル:プロテクション
効果:身体保護・強化(60秒)
甲冑の特殊樹脂は、特定の電圧をかけることで強度が増す。更に装甲の内側では体幹、膝、肘、手首、足首といった主要な関節を保護し、潜在能力を引き出す。
一般人が使えば防御機能にしかならないが、出力の高いトップアスリートが使えば、怪我を恐れず全力が出せるという効果も生じる。
要は、このスキルを使うと腰が壊れることを気にせず高重量を持ち上げることが出来、膝が壊れることを気にせず無理な姿勢で踏ん張ることが出来、拳が壊れることを気にせず思いっきりぶん殴ることが出来るのだ。
「悪いな!さすがにドラゴンの技は受けない。その代わり秒殺を披露する!」
シガキ飛び込んだ。
そして、ドラゴンの前脚に逆水平チョップを放つ。
「おいおい!よりによってチョップかよ!」
「ニワカは黙っていてください。シガキさんの逆水平はダテじゃない」
「それは人間相手だろ?!」
そんな観客のやり取りを他所に、シガキは2発、3発と立て続けに放つ。
「だから、いくらやっても!」
「ドラゴン余裕そうじゃねーかー!」
「いや!ここからがシガキさんなんです!」
速射砲のようにチョップが続く。
「えっ?効いてるのか?!」
ドラゴンは打たれた脚を上げて回避動作を取った。
「マジか!嫌がってる!」
「プロテクションで硬化した手刀で、膝関節の弱い部分を正確に狙っていましたね。さすが!シガキさんは、ああ見えて技巧派なんですよ」
マニアックなファンが得意気に解説した。
「そらっ!」
間髪入れず残った脚に低空ドロップキックを放つシガキ。
やはり膝の弱い角度を的確に捕らえた。
両の前足を払われ、ドラゴンは体勢を崩した。勢い余って下顎が地面に激しく叩き付けられる。
「捕まえた!」
シガキは下がったドラゴンの顔の横に立ち、角を掴んだ。そして反対の手の握り拳を天に突き上げ叫ぶ。
「バーニング!」
今度は甲冑がオレンジ色に光った。
その光は炎のように揺らめいている。
大型モニターにはスキルの概要が表示された。
スキル:バーニング
効果:出力増強(30秒)
このスキルは、生体電流に介入し、神経の電気信号を増幅する。
即ち、強制的に身体のリミッターを解除し筋肉の出力を増幅するのだ。それ故、体の負担も大きく使用時間は短い。
ミシッ!
スキルが作動すると、シガキが掴んだ角にヒビが入る。握力が増強されているのが見とれた。
「ガアァァ!」
それを嫌ってドラゴンは首を持ち上げようとする。
「そこだ!」
シガキの渾身のラリアットが絶妙な角度でドラゴンの首を刈った。
首が千切れる。シガキは勢い余って5回転は転がり、大の字になった。
ピクリとも動かないシガキ。
「勝ち・・・だよな?」
「いや、ダブルノックアウトじゃね?起き上がらなければ」
「でもシガキは自分で転んだだけだろ?何かダメージあるのか?」
「・・・おそらくあの一撃に全てを注いだのでしょう!それほど人間の限界を超えた一撃だったということです。シガキさんだから耐えられたが、常人なら腕が千切れていてもおかしくはありません。鍛え上げられた肉体と甲冑の技術が化学変化を起こした結果です。天晴としか言いようがありません」
マニアが速射砲のような早口で補完する。
動かないシガキを見て審判がカウントを取り始めた。
「よく分からないが・・・シガキが起き上がれば勝なんだろ?」
「そうです!声援を送りましょう!シ・ガ・キ!シ・ガ・キ!シ・ガ・キ!」
なんとなく会場が状況を理解する。
次第にシガキコールに包まれた。
カウント8でかろうじて立ち上がるシガキ。
大声援の中、勝ち名乗りを受けて会場は大団円となった。
ーーーーー
一晩明けてシガキは自分が経営するプロレス団体の事務所に顔を出した。
「お疲れ様です」
マネージャー兼、事務担当兼、広報担当が声をかける。
「おう。賞金は入ったか?」
「ええ。これで今月の返済は大丈夫そうです。たった3試合でこのギャラとはね・・・社長もそっちに商売替えしたらどうですか?」
「バカ言え!あれはあくまで宣伝だ」
「その宣伝効果ですが・・・来週の興行のチケットまだ半分売れ残ってます・・・」
「なに、これからバンバン売れるさ!昨日の試合を見たお客さんがバンバン来る!」
「バンバン来てるのはGMAの試合のオファーだけですね。オーガ、グリフォン、ヤマタノオロチと戦えというのまであります」
「まったく、世の中どうなってるんだよ」
シガキはギシギシなる古いソファに座り込んだ。
そして傍らにあった端末で機能の試合のニュースを眺めた。
「そうそう、昨日のラストのダブルノックダウン、あざと過ぎです。会場でフォロー大変でした。ああいうことしたら、体張ってるのにヤラセだと思われます」
「うっせぇ!」
シガキは立ち上がった。
「どこ行くんですか?」
「トレーニングだよ」
シガキは地下のトレーニングルームに消えていった。
ー了ー